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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
新学期編
9/105

第8節 試練

 次の日の朝、俺たちはいつものように朝食を食べ、いつものように学園に向かう……はずだった。




「おはようございます!!シオンさん!!」



 どうやって突き止めたのか、昨日の女の子が俺たちの寮前にまで来ていたのだ。


「……え、なんでアゼンさんがいるんですか!?」


「いやだってここ俺のりょ——


「ずるいです!!シオンさんと一緒に寝てるなんて!!」


「寝てないです」


 シオンはそのまま彼女の横を通り過ぎてスタスタと歩いていってしまった。俺と彼女は慌てて追いかけた。


「そういえば、君の名前を聞いていなかったな」


「私?私はルナっていいます。……ちょっと先輩!シオンさんに近づきすぎですよ!!」


「ルナも離れてください」


「はい!シオンさん!」


(変なやつだな……)





 学園に着くまでの間、ルナはずっとシオンに弟子入りを志願していた。それは学園に着いても続いていた。


「シオンさんどうか私を弟子にしてください!」


「おいルナ、いい加減しつこいぞ」


「アゼンさんは黙っててください!」


 ルナはそう言いながら俺のことを睨んだ。


(俺が何をしたっていうんだ……)



▲▽▲▽▲



 そしてそれはとうとう帰る時間になるまで続いた。


「シオンさん、本当にお願いします……シオンさんだけが頼りなんです……」


 ルナの志願はもはや懇願に変わっていた。


「……はぁ、分かりました。3日後に確か模擬戦闘訓練があったはずです。それで先輩に1 勝してください。もし勝てたら弟子入りを許可します」


 シオンは若干呆れたように答えた。


「本当ですか!?やったー!」


「え!?なんで俺!?」


 するとシオンは俺に近づきそっと耳打ちした。


(私じゃ多分私が勝ってしまうので)


(それってつまり最初から——


「それじゃあ私は先に帰ります」


 言い終わる前にシオンは教室から出て行ってしまった。


「アゼンさん!あなたを絶対倒してみせます!」


「まぁ、やるからには俺も容赦はしないぞ」


「はい!」


 そう言ってルナもまた意気揚々と教室を飛び出した。



 気づけば教室には俺1人しかいなかった。

 シオンと出会ってからやたら人と絡む機会が増えた気がする。2年前の俺では考えられないことだ。入学した時はよく教室で"あいつ"と放課後まで遊んでいたんだがな……。


(攻撃するための武器も必要になったし、久しぶりに会いに行くかな)


 俺はこうして、学園を出て東へと向かった。



▲▽▲▽▲



 晴れ渡る空の下、俺はとある武器屋のもとを訪れた。ここには護身用から軍公認の兵器まで多種多様な武器が揃っている。学園から支給される物よりかは品質が落ちるが、客個人に合わせたオーダーメイドが人気を呼んでいる。


 扉を開けると、奥の方で作業をしていた"あいつ"が顔を出した。


「いらっしゃ〜い……て、アゼンじゃないか!久しぶりだな!」


「ああ、元気にしてたか?ヨカ」


 ヨカはこの店の店主であり、俺の友達でもある。以前は俺とあの寮で一緒に暮らしていたが、ヨカは順調に試験に合格して今では正規部隊の仲間入りを果たしている。


「元気!元気!超元気だぜ!!アゼンはまだあの寮に住んでるのか?」


「ああ、まぁな」


「他の奴らも全員出てったのに、お前は相変わらずだな」


「今は俺1 人じゃないぞ。同じクラスの女子と一緒に使ってる」


「ま、まじか!?あの女付き合いが苦手なお前が女の子と同居するなんて……明日は夜が来るぞ」


「こねぇよ……多分」


 俺とヨカは積もる話もあってか、長い間その場で立ち話をした。


「そういえば、今日はなんの用事で来たんだ?」


「あーそれはだな——



 俺はことの成り行きを最初からヨカに説明した。


「なるほどな。それで俺に武器を頼みに来たと」


「ああ、なるべく威力が小さいやつにしてくれないか?相手はまだ入学したばかりの1年生なんだ」


「だったら、これがおススメだ」


 そう言うと、ヨカは後ろの戸棚から1つの箱を取り出した。


「これは弓型の派生でな、黄色幻素を圧縮して放つ武器になってる。俺の自信作の1つだ」


 箱を開けると、そこには手のひらより少し大きいサイズの、直角に折れ曲がった黒い武器が出てきた。


「これの使い方はいたって簡単!まずこの黄色幻素が詰まった箱を持ち手に装着して、あとはこの出っ張りを軽く引けばいい」


「威力はどのくらいだ?」


「そこまで高くない。だから護身用に売るつもりだったんだ」


 俺はそれを手に取り、感触を確かめる。

 重さはそこそこあるが、持ち手は握りやすい。これなら片手でも扱えそうだ。


「この出っ張りを引くだけでいいのか?」


「そうだぜ。試しに撃ってみるか?」


「ああ、頼む」


 俺たちはこうして裏庭ある試射場に足を運んだ。




 的に狙いを定めて、出っ張りを引く。



 ——バン



 すると黄色幻素が圧縮された電気に変わり勢いよく飛び出した。それは目では追えないほどの速さで的に直撃した。


「お見事!!うまいな。まさか一発で当てるなんて」


「これ、ちょっと護身用にしては威力が高すぎないか?」


 というのも、電気が直撃した的は粉々に砕け、さらには奥の民家にまで到達している。


「うわぁ……確かに。こりゃ失敗作だな……」


「なら俺専用の武器にしてくれよ。模擬訓練が終わったら威力も上げてさ」


「それは構わないが、どういう風の吹き回しだ?お前たしか人を傷つける武器は嫌いじゃなかったか?」


「もしかしたら今後"人以外の生き物"と戦う機会があるかもしれない。その時のための護身用だ」


「人以外の生き物……ははは!そういうことか!!」


 ヨカは何かを察したあと、口を開けて大笑いした。


「楽しみにしてるぜ!アゼン!」


 ヨカは俺の肩をバシバシと叩いた。



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