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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第85節 作戦会議

 魔女倶楽部の部室から無事出ることができた俺たちは、ベンティアと合流後、トレハン部とは別れ、夕食の買い出しをしたあとに寮へと向かった。


 夕食を作り、それをシオンにも手伝ってもらいながら共同リビングの机に並べる。アオとルナはすでに席に座っていた。


「わぁ!美味しそうですね!師匠はこんな美味しそうな料理を毎日食べられるんですからホント羨ましいです!」


「私だってただ食べるだけではありません。買い出ししたり野菜を切ったり色々手伝ってますよ」


「ああ、普通にありがたい。あとアオ、ライチョウ用のご飯も作っておいたぞ。塩を使わずに調理したからきっと食べてくれるはずだ」


「本当ですか?わざわざありがとうございます!ほら、ライちゃんもお礼を言って」


 そう言われて、アオの頭の上に乗っていたライちゃんはぺこりと首を下げた。


「すごいな。ちゃんとアオの言葉を理解しているのか。……よし、これで全部だな。みんな、じゃんじゃん食べてくれよ」


「はーい!いただきます!」


 並び終えた料理を3人は満足そうに食べていく。その様子を眺めながら、俺は早速本題に入った。


「それじゃあみんな、2週間後に控えている争奪戦について今日得た情報を整理しながら作戦を立てていくぞ」


「———え〜アゼン先輩、食べ終わってからじゃダメですか?」


「それだと就寝時間に間に合わなくなるだろ。あと、明日はユメコの朝練があるから今日は早く寝たい」


「確かに……寝不足で挑んだら間違いなく吐きますね……」


「それじゃあ早めに終わらせて食事に集中しましょう。私は前に立つ敵を一掃していく作戦を提案します」


「シオン、それは作戦とは言わない」


「さすが師匠!どんな相手だろうと関係ないということですね!それでいきましょう!」


「ルナ……シオンさんは良くても私たちは相手を選ばなくちゃだよ」


「その通りだ。目的はあくまで10枠の中に入ること。戦わずして達成できるならそうするべきだ。だが、実際俺たちにはいくつかの障害がある。教師の補導、他の部活動による妨害、そして迷宮だ」


「教師の皆さんはどんなふうに私たちを捕まえるんだろう?言ったらなんだけど並大抵の人じゃ幻素使いには敵わないよね?」


「……正規部隊の人たちが来るのかもな。たまに教師として俺たちに訓練を施すこともあったし」


「え?だったら1番の難所じゃないですか!?」


「ただ教師の人数は参加するであろう生徒の数と比べて圧倒的に少ないはずだ。つまり目をつけられずに突破できればいい。そのためには急がず、慌てず、目立たずに学園を抜けるぞ」


「だったらルナ、活躍するチャンスだよ」


「どうしてアオちゃん?」


「ルナの擬態をみんなに付与できるようになれば、気付かれずに学園を突破できる」


「それだ!それでいこう!ルナ、残りの2週間で俺たちにも付与できるようにしてくれ!頼む!」


 俺は手に持っていたフォークとナイフをカチンッと音を立てて合掌する。


「う、うーん、できるかわからないですけど……やるだけやってみます!師匠!練習手伝ってくれませんか?多くの緑幻素を操る必要があると思うので……」


 シオンはもぐもぐと野菜を食べながら無言で頷く。それを見たルナも嬉しそうにパンを頬張った。


「さて、それじゃあ次は他の部活動についてですね。常連組とはなるべく闘わないという方向性でいきますか?」


「ああ、ただ、魔女倶楽部に関してはまだよくわかってないから、注意しながら会議場を目指そう」


「魔女倶楽部……不気味な部活動でした。リリエルさんは何年生の生徒なんでしょうか?」


「少なくとも1年生の中では見たことないな。それに、魔女倶楽部の他の部員も誰なのかわからない。……まぁ、今気にしても仕方ないな。それより、目下の問題は……」


「迷宮、ですね……」


「規模、内部構造、配置されている部員などなど一切不明。恐らく毎年違う迷宮のはずだから過去の争奪戦の情報も当てにならない。それに部長のリンは強いらしい……はぁ、できることなら迷宮になんざ入りたくないんだが……」


 考えあぐねていると、シオンが食べていたお肉を飲み込んで口を拭きながら提案した。


「入らなければいいじゃないですか」


「……シオン、迂回するつもりならやめた方がいいぞ。工務部がそのことを考慮しないはずがない。何かしらの対策をされるに決まって———


「"あの日、あの場所で"」


「———!!そっか!!」


 そう言ってルナが突然立ち上がり、興奮気味に話しだす。


「師匠はやっぱり天才です!アゼン先輩!あの場所を利用すればいいんですよ!」


「……なるほどな。会議場はブック本部ビルの前に建てられる。そしてあの庭園はビルの屋上にあるから、学園から"扉"をくぐってそこに行き、下に降りればすぐに着くというわけか」


「確かにそれなら迷宮に入る必要はないですね」


「ただ……屋上の存在が露呈するのは避けたい。あそこは、大切な思い出の場所なんだ……」


「ガラスにすら映らないぐらい高速で降下すればバレることはありません。私たちならそれができるはずです」


「で、できるのか……?」


「危険だけど、やるしかない!誰も知らない庭園を経由できたらすっごい有利ですし!」


「……確かにな。よし!俺も腹をくくるか!それじゃあ諸々の作戦についてまとめるぞ!まず、ルナの擬態を使って教師陣に気づかれないよう学園に侵入、学園内にある"扉"から庭園に行き、そこから急降下して会議場へ向かう。途中で他の部活動と接敵した場合はその都度対応する。これでいいな?」


「異議なし!」


「私もです」


「ありません」


「なら決まりだな。さ、会議も終わったことだし、食事に集中するとしよう!」


「先輩、おかわりください」


「あ!師匠ずるいです!私にもください!」


「わかったわかった!今用意する」


 おかわりなどするうちに、時間はあっという間に過ぎていき、就寝時刻が迫ってきた。俺はルナとアオを見送ったあと、自分の部屋に戻るために階段へと向かう。その途中で着替えを持ったシオンの姿があった。


「先輩、お風呂には入らないんですか?」


「今日はそのまま寝て明日入るよ。シオンもそろそろ就寝時間だから風呂に入るなら早めにな」


「はい。先輩、おやすみなさい」


「……ああ、おやすみ」


 シオンと別れ、俺は自分の部屋に入り、電気を消してベッドに横たわる。眠るまでの間、俺は頭の中で色々なことを考えた。


(シオンと出会ってもう随分経ち、あっちから話しかけてくる機会も増えたな。だが、俺はまだ彼女について知らないことが多すぎる。最近は忙し過ぎて寮でゆっくりと話す時間がなかった。……長期休みなら、その時間も作れるだろうか。けど、話すといっても一体何を話すんだ?そもそも俺はどうしてシオンのことをこんな………やめだやめだ!明日はユメコの朝練があるんだ。早く寝よう)


 俺は強引に考えることをやめて、夢の中に潜ることにした。


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