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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第83節 迷宮の創造者と魔法使い

 階段を上がるとドリムが本を立ち読みしながら待っていた。


「遅かったですね」


「いやーごめんごめん、ちょっと言い争いが長引いちゃって。よし、それじゃあ次は工務部の部室に向かいましょう!工務部の部室さ部活動の中でも1、2を争う大きさなので直ぐに見つかると思いますよ!」


『工務部』

 毒研と同じく解放運動の主要な部活動であり、同時に部活間ヒエラルキーの上位に位置している。学園の修築や外部からの依頼を随時受け付けており、また幻素を用いた安全で素速い建設を行うため、内外から絶大な信頼を得ている。


「前回の1学期実力テストでは本当にお世話になったので、また改めてお礼を言おうと思います」


「あのときはほんとすごかったよね!まさかあんなにまる焦げになった訓練場を1日で元通りにするなんて」


「私たちトレハン部もしょっちゅう壊れる寮の修理を依頼することがあるので、頼り甲斐のある部活動ですね!さて、時間も勿体ないですしそろそろ足を動かしますか!」


 メルの号令とともに俺たちは工務部の部室がある場所へと向かう。その途中で俺はメルに対して気になっていたことを質問した。


「そういえば、毒研のレイとのやり取りを見てて思ったんだけど、2人ってもしかして友達なのか?」


 俺がそう訊ねると、前を歩いていたメルは勢いよく後ろに振り向いて不満げな顔で反論した。


「友達じゃないですよ!ただのクラスメイトです!あいつ、授業中私が先生に当てられて答えられなかったらいっつも煽ってくるんですよ!なまじ頭がいいのでテストでも常に負けるし……もう3年間同じクラスですけど、未だにイラつきます」


「やっぱり仲いいじゃないですか」


「ちょっとシオンさん!?マジで言ってます!?」


「マジです」


「まあ……喧嘩するほど仲がいいって言うよね……」


「俺も昔ヨカと大喧嘩したことがあったな。そのとき初めて互いに腹を割って意志をぶつけ合うことができた。メルとレイも、いつかそんな日がくる。今までの喧嘩はそのときまでの予行練習だと思ったほうがいい。そうすれば、乗り越えたあとより一層、仲良くなれるぞ!」


「別に私は仲良くなりたいわけでは……」


 そう言ってメルはうつむいてごにょごにょと何かを呟く。そうこうしているうちに、目の前に特段大きな建造物が見えてきた。


 装飾など一切ないコンクリート打ちっぱなしのビルでその隣には巨大な倉庫らしきものが置かれている。周りは鉄格子で囲まれていて、遠くに見える窓からは中の様子をうかがうことができない。どうやら電気がついていないようだ。


「あれ?おかしいですね。中に誰もいないのかな?正面に入り口があるので、まずはそこに向かいましょう」


 メルの案内のもと、俺たちは元いた場所からちょうど真反対の場所にまで移動した。そこには入り口の門があり、門には1枚の貼り紙が貼ってあった。そこには丁寧な字でこう書かれていた。


『"迷宮"製作に取り掛かるため、暫くご依頼をご遠慮させていただきます。何かございましたら、部長のリンにまでご連絡ください』


「どうやら今はいないようですね、部長」


「うーんそうだね。けどいつも迷宮製作はもう少しあとから始めてたような……」


「あの、その"迷宮"ってなんですか?」


「"迷宮"とは毎年工務部が学園の校舎と本部の間にある荒野に建てる広大な迷路です。会議場は本部の前に作られるのでそこに行かせないために前もって妨害用として作ってるんです。あれはヤバいですよ……!毎回あの迷路で何人もの部員が脱落していくんです……!」


「というかそんなもの事前に作っていいのか?明らかに工務部が有利になるだろ」


「暗黙の了解として、就寝時間になったら必ず寮に戻り、午前3時ちょうどに寮を出て争奪戦が始まることになっています。ルールではないので、守る必要はないんですが、守らなかったら後が怖いので皆そこだけは遵守しています。ですが逆に言えば、それまでに何をしようとも構わないいんです」


「だったら、私たちも彼らの妨害をする権利はあるはずです。今から荒野に向かって迷宮を破壊しましょう」


「ああ待ってくださいシオンさん!多分無駄ですよ。彼らは人数が多いですし、何より部長のリンがめちゃくちゃ強いです。彼女は面倒くさがって実力テストを受けていないので、順位は低いんですが、陣地構築能力はずば抜けています。まともに戦ったらこっちがバテて負けちゃいますよ」


「………」


 シオンは不満そうだが、一応メルの忠告を受け入れたようだ。出口へ向かおうとしていた足が止まって再び俺たちのところへ戻ってくる。


「なるほどな。毒研と同じく相手にしちゃいけない部活動ってことか。さて、これからどうする?工務部がいる荒野に行くか?」


「いえ、さすがに面倒なので今回はやめときます。私が"宣戦布告"しておきたい部活動はあと1つです。そこに向かいましょう!」


「あと1つだけで大丈夫なのか?俺たちが今手に入れている情報は"相手にしないことが吉"ってことだけなんだが」


「議会常連の部活動はあとそこだけなので、他は特に気にしなくて大丈夫です。というより数が多すぎて情報を集めるのが不可能なんですよ。当日どの部活動に妨害されるかなんてわからないわけですし。なので最後の壁になるであろう常連組に関してはちゃんと調べておきます!」


 メルがそう言うと、ベルはうんうんと頷いた。さっき毒研に行ったときも、メルとレイが言い争っている間に黙々と部室や部員を観察して少しでも情報を集めようとしていた。その健気な姿勢に対してメルも感謝しているらしく、頷いた彼女に思いっきり抱きついていた。


「部長、ベル、じゃれつくのはそれくらいにしてください。ベンティアが今にも眠ってしまいそうです」


「ベンティアちゃん退屈なのは分かるけどまだ寝ちゃだめ!次行くところは面白い部活動だから、ね?」


「面白い部活動……!?どんな部活なんですか?」


 メルは眠そうなベンティアを背中に乗せながら、興味津々なルナの質問に答える。


「最後は、幻素とは違った"魔法"を使う生徒が集う、摩訶不思議な部活動、その名は、魔女倶楽部です!!」



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