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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第81節 宣戦布告

 翌日、訓練が終わった放課後に俺とアオはシオンとルナに昨日あった出来事と、頼みごとについて説明した。2人とも手伝ってくれることになったが、ルナはそのことよりも、アオの頭に乗っているライチョウの方が気になるらしい。


「アオちゃんアオちゃんそれって幻獣なの!?めちゃくちゃ可愛いね!触ってもいい?」


「ごめん、ルナ、ライちゃんは私以外の人が触れようとすると透けちゃうの」


「ライちゃん?名前つけたのか?」


「はい。ライチョウなのでライちゃんです」


「ちょっと安直……けど、アオちゃんずっと幻獣に会いたがってたし、お友達もできて安心したよ!」


「……うん!」


「そういえば、ルナ、昨日は家の用事があったらしいですね。何かあったんですか」


「あ、えっと、その、、、」


 シオンが尋ねると、さっきまでニコニコだったルナの笑顔が急にぎこちなくなり、少しの間のあと、再びいつもの明るい笑顔で答えた。


「マ……お母さんと久しぶりに会っていたんです!」


「……そうですか」


 アオが心配そうにルナのことを見つめている。俺は昨日アオと交わした約束を思い出し、慌てて話を変えた。


「そ、そうだ!みんな、ちょっと聞いてくれ。さっきも言った通り、議席争奪戦は熾烈な戦闘が予想される。それに今回は非公式で行われる会議だから当然スーツは支給されない。つまり、普通に怪我をするし、怪我をさせてしまう可能性がある。だからもし、自分の身が少しでも危険な状態になったらすぐに離脱して保健棟に向かうこと。あと、攻撃はあくまで足止めのために行うこと。この2つを肝に銘じてくれ」


「了解です!師匠はちゃんと手加減してあげてください!」


「わかっています。ルナも、あなたの打撃は威力が高いので注意してください」


「え、今師匠私のこと褒め———


「ルナ、真面目に、ね?」


「は、はい、アオさん……」


「さて、会議は2週間後だし、それまでに何かできることはやっておきたいな。特にどの部活が手強いのかを知っておく必要がある。俺もさすがに留年しすぎて今の顔ぶりはわからないからな……」


「だったら皆さん!!我々と一緒に"宣戦布告"をしに行きませんか!?」


 聞き覚えのある声と共に、教室の扉が勢いよく開く。そこにはトレハン部のメルが仁王立ちしていた。そして教室の中に入ると、その後ろからベンティア、ベル、ドリムの順に次々と黒板の前に並んでいく。彼女たちは体操服を着ていたが、それぞれ色の異なるゼッケンを付けていた。


「冒険心は誰にも負けない!緑の閃光!メル!」


「どんなもの、でも、たべちゃうぞ!白いユウシャ!ベンティア!」


「げ、ゲームと計算はお手のもの……!黄色の星屑……!べ、ベル!」


「…………ドリム」


「4人合わせて!!」


「「「我ら!!トレジャーハンター部!!」」」


 ひとりひとりが決めゼリフ、決めポーズをした後、声を合わせて部活名を叫んだ。そしてそのあと、ただひとり名前を言っただけのドリムが、気まずい空気の中、黒板に最後の締めを大きく書く。


『どーん!!』


 ……恐らく黒板の文字は戦隊ものでありがちな最後の爆発を表現したのだろう。そんなことをぼーっと考えながら、この教室に俺たちだけしかいないことを確認した。この変人たちと知り合いなんだとクラスメイトから思われるのは勘弁したい。


「あなたたち、何やってるんですか」


 シオンの冷徹な声が、静まり返った教室に響く。ルナとアオも『なんだこいつら……』と言いたげな目でトレハン部の決めポーズを眺めていた。そんな我々に呆れるかのように、頭の上のライちゃんは大きなあくびをする。


「メルちゃん……私死にたいです……」


「何言っているんだベルちゃん!これから他の部活の面々にも見せなくちゃいけないんだよ!ここで倒れちゃだめだ!」


「むしろ倒れて楽になりたいんです……」


「な、なぁ、マジでどうしたんだ?お前たちいつもそんな自己紹介の仕方だったか?」


「……私たちは毎年、議席争奪戦の前にライバルとなる部活動に対して宣戦布告……という名の調査をしに行くんです。それでなんと言って彼らに接触するかで意見が分かれて、結果的にくじ引きで勝ったベンティアの案が採用されてしまったんです……くそが」


 ドリムは最後の最後にどぎつい悪態を吐いた。


「ベンティアちゃん、最近ファニー戦隊にハマってて、それに影響されたんだと思います」


「きめゼリフ、きめポーズ、全部、自分たちで、考えた!みんな、かっこいい!」


「はぁ……それで、なぜ私たちをその宣戦布告というやつに誘ったんですか?」


「舐められたくないからです!!他の部長どもに!!」


 メルはさっきまでよりも大きな声で答えた。


「『今年はヨカさんがいないからね〜トレハン部はもう雑魚雑魚〜』とか絶対思ってるはずなので、ここでアゼン先輩たちを引き入れたと言って回れば、きっとアイツらは恐れおののくはず!!ですので皆さん、どうか我々トレハン部の仲間になってくれませんか!お願いします!」


「……すまん、俺たちもう飼育部の代表者として参加することになってるから、仲間というよりむしろ……敵だな」


「な、なんですとぉ!?」


「め、メルちゃんどうしよう……これじゃあ私たち本当にざ———


「いやまだだベルちゃん!こっちにはまだベンティアちゃんがいる!私たちは雑魚じゃない!」


「………まぁ、そういうわけで力にはなれないんだが、敵情視察なら付き合えるぜ。俺たちも他の部活動について知りたいと思ってたところだしな。あと、もし同行するってなったら、さっきの自己紹介だけはやめてくれ。こっちも恥ずかしくなってくる」


「ですって部長是非とも一緒に行ってもらいましょうそうしましょう決まりですねそれでは宜しくお願いします皆さん」


 ドリムが物凄い早口でメルに話しかけて彼女の承諾もなしに話を進めた。


「ま、まぁ、来てくれるだけありがたいよね……うん!私からも、宜しくお願いします!」


「みんな、それで大丈夫か?」


 俺からの問いに、3人とも同時に頷いた。


「よし!それでは早速向かいましょう!最初に宣戦布告する相手は、あの忌々しい"老人"がいるとち狂った部活動、その名も、


 "毒研究推進部"、略して"毒研"!!」


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