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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第80節 頼み事と新しい仲間

 遠方に佇む幻獣たちは、そこから動くことなくただこちらを見つめている。幻想的な風景とはまさにこの光景を指しているのだろう。とても現実とは思えないものを俺は何度か目にしたことがあるが、これは確実に上位に食い込む異常さである。だが、たとえ異常でも、そこには有無を言わせぬ美しさがあった。


「なぁ……今更だけどここほんとに屋上か?俺には別世界に見えるんだが」


「別世界というのは言い得て妙ですね。正確には幻獣たちが創り出す"神殿"が重なり合った空間です。遠くにいる彼らの場所に行くと、このお花畑とはまた違った景色が見られると思いますよ。そういえば、お二人はなぜ屋上に来たのですか?」


 そうだった。俺たちは飼育部からホルンの乳をもらいに来たのだ。あまりに衝撃的なことが重なりすぎてすっかり忘れていた。アオも今気づいたらしく、慌ててバルディに質問する。


「その、バルディさんにお願いしたいことがあるんです。私たちに幻獣ホルンの乳を分けて貰いたくて……」


「……うーん、それはちょっと厳しいかな。さっきも言ったけど、幻獣への命令には信頼関係が大切なんだ。ホルンは"僕"を信頼して乳を出してくれる。それを安易に他人にあげてしまうとホルンからの信用を失ってしまう」


「けど、前回給食部にはホルンの乳をあげていたよな?」


「給食部にはいつも幻獣たちへのご飯を作ってもらってるので、その御礼として特別に与えました。皆さんも何か幻獣たちにとって有益なことをしてくれたら、ホルンもきっと許してくれると思いますよ」


「ぐ、具体的には……何をすれば良いでしょうか……?」


「そうだなぁ、ちょうど人手に困っていたことがあるからそれを手伝ってくれたら嬉しいかな」


「おい、それってただお前の面倒事を押し付けてるだけじゃ……」


「いえいえ、ちゃんと達成されれば幻獣たちにもプラスになることですよ」


「幻獣たちにも……先輩、ここは引き受けましょう。幻獣たちのためにもなって、私たちも乳を手に入れられる、まさに一石二鳥です」


 そう意気込むアオの目は、さっきと同じように輝いていた。


「……はぁ、わかったよ。アオも妙にやる気だし、俺もフレンチに催促されるのは勘弁だからな」


「ありがとうございます。それじゃあ、頼みたいことについて説明するので、一旦カウンターのほうに戻りましょう。【命令】もう大丈夫だよ。付き合ってくれてありがとね」


 バルディが優しい口調でそう呟くと、遠くの幻獣たちは煙のように消えていった。


 俺たちはまた同じようにカウンターの椅子に座る。するとさっきのライチョウがトコトコと歩いてきて、ぴょんっと飛んでアオの頭に乗った。アオは少し驚きつつも、存外悪い気分ではないらしく、そのままバルディが話始めるのを待っている。


「そろそろ前期学園祭が始まることは知っていますよね?」


「ああ」


「そこで開かれる展示実演会では各部活動の活動発表も行われるんです。アゼンさんもご存知の通り、この学園の部活動数は桁違いに多いので、発表をする場所というのは自ずと制限されてしまいます。どの部活動も人が集まりやすい場所で発表したいので、発表ブースは会議によって決まるのです」


「会議ということは、全ての部活動が参加するんですよね?そんなに人が多いと、決まらない気がするのですが……」


「その通り。だからこそ、会議は"早い者勝ち"になっています」


「早い者勝ち?どういうことだ?」


「簡単に説明すると、会議に参加できる部活動の数が限られていて、先着10組になっているんです」


「10組!?やけに少ないな。参加できなかった部活動はどうするんだ?」


「会議が終了したあと、抽選によって場所が決まります。あと、先着が10組なのは、これが会議に参加できた"最高組数"だからです」


「……?」


「会議は今日から約2週間後、朝5時、場所はブック本部の前に仮設された会議場で行われます。そしてこの会議場が開かれるのはその日の午前3時、つまり、2時間という短い時間内でいかに他を蹴り落とし、先着に入るかが重要になってきます。すると案の定……」


「バトルロワイヤルが始まるってわけだな」


「そうです。会議場に到着する前に多くの部活動が脱落していき、結局時間内に辿り着けた組数が、最大10組だったんです」


「けど、それだったら早めに会議場の前に居座っておけばいいんじゃないんですか?それなら開いた瞬間すぐに入れますし」


「アオ、重要なことを見落としているぞ。俺たちには就寝時間というものがある。その間は寮から出てはいけないんだ」


「あ、確かに。けど、就寝時間って確か午後11時から午前6時まででしたよね?それだと会議そのものが開けないような……」


「先生にバレないようにこっそり抜け出すんですよ。まぁ先生方も会議が行われることは知っているので、その日だけは早起きして、生徒を補導するために学園中の至るところに待ち構えています。彼らから逃れることが第一関門ですね」


「な、なるほど……」


「それで、結局俺らに何をさせたいんだ?」


「僕の代わりに、飼育部の代表者として会議に出席して欲しいんです」


「え!?」


 アオが大きな声を出すと、上で寝ていたライチョウもビクッと身体を震わせる。


「僕は一応生徒会の部活動監査なので、会議の進行役をしなければならず、いつもは特権的に飼育部は会議に参加できてたんですけど、さすがに不公平だと苦情が殺到したので、今回は誰かに頼んで普通に争奪戦に参加することにしたんです」


「別に俺たちじゃなくても、他の飼育部員とかいないのか?」


「残念ながら僕はぼっちなので」


「……わかりました。その会議に出席する、そうすれば、ホルンの乳を頂けるんですね」


「正確には、会議に参加して、良い場所を確保する、ここまでお願いします。折角会議に参加できても、望む場所を得られなかったら意味がないので。場所に関しては、会議のときに説明します」


「了解だ。それじゃあ俺たちはそろそろ帰るぞ。用も済んだし、夕食の準備があるんでな」


「わかりました。アオさん、アゼンさん、僕の勝手な要望を引き受けて頂きありがとうございます。また幻獣たちに会いたくなったらいつでも来てください。今度はちゃんとみんなを紹介しますので」


「……はい!それじゃあ、この子をそろそろ降ろして……」


 アオは上で寝ているライチョウを降そうとするが、ライチョウは足でしっかりとアオの頭に引っ付いて離れようとしない。


「あ、あれ?ライチョウちゃん、どうしたの?」


「……どうやら、離れたくないようだね。珍しいな……塩をあげていないのにこんなに懐くなんて……」


 バルディは口元のマフラーに手を置いて少し考えるそぶりを見せたあと、アオに向かって優しく話しかける。


「アオさん、もし良ければなんだけど、その子としばらく一緒に生活してみないかい?もしかしたらその子、君と仲良くなりたいのかもしれない」


「私と、仲良く……」


 アオはそう言って、頭に乗っているライチョウをゆっくりと撫でる。するとライチョウは飛び上がって、カウンターに着地し、アオの目をじっと見つめ始めた。


「……連れていって欲しいの?」


 アオがそう呟くと、ライチョウは可愛らしい声で鳴いた。


「……ふふっ、君の声、やっと聴けたね。……バルディさん、この子と一緒にいさせてください!お願いします!」


「もちろんだよ。ライチョウは1日1食、なんでもいいから食べさせてあげてね。あと、羽の手入れをしてあげると喜ぶから、それもやってあげてね」


「はい!」


 こうして俺たちは新しい仲間と共にログハウスをあとにし、フミから渡された切符を切る。


 すると目の前に一瞬にして扉が現れ、それが開くと中からフミが出てきた。


「塔の駅です!お帰りですか?」


「ああ、塔の入り口まで頼む」


「了解しました!あれ?アオ、頭に乗ってるそのモフモフはなに?」


「幻獣のライチョウちゃんです。これから一緒に生活することになったんですよ」


「いいなー!ちょっと私にも触らせてー!」


 フミはそう言ってライチョウを撫でようとするが、するりと通り抜けてそのままアオの頭を撫でてしまった。


「あ、あれれ?」


「幻獣は認めた相手にしか触らせないんだ」


「なるほど!それじゃあアオ専用のモフモフなんだね!」


「モフモフ……」


 アオも同じようにライチョウを撫でようとするが、今は気分じゃなかったらしく、頭から離れてトコトコと扉の中に入ろうとする。


「あ!まってまって!勝手に入っちゃだめ!」


 俺たちも慌てて扉の中に飛び込む。一瞬視界が紫一色になったかと思うと、気づいたときには塔の入り口の前に立っていた。


「ふー、なんとか着いた。それじゃあアオ、また明日教室で会おうね!」


「はい、また明日」


 フミはそう言うと慌ただしく塔の中に入っていった。


「……なんか、いろんなことがありましたね」


「ああ、けど、大変なのはこれからだぞ」


「そうですね。明日ルナとシオンさんに協力してくれないか頼んでみます」


「わかった。……それじゃあ、そろそろ帰るか」


「はい」


 アオは足元にいたライチョウを抱きかかえて、ゆっくりと歩き始める。俺も背後の塔を一瞥した後、彼女の隣を歩く。


 ふと、アオの腕の中にいるライチョウに目を向ける。


 純白の美しい羽が一枚、地面に落ち、ゆっくりと消えていった。


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