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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第78節 解放の塔

「おーいアオいるかー?」


 アオがいるはずのクラスに赴き、教室を見渡す。かなり急いで来たのでまだ多くの生徒が教室に残っていた。そして案の定、アオは俺の声に反応してこちらに振り向く。彼女は驚いた様子で扉の方まで来た。


「アゼン先輩、どうしたんですか?私のクラスにまで来るなんて珍しいですね」


「ああ、ちょっとデートのお誘い……じゃなくて、一緒に飼育部に行かないか?給食部に頼まれたホルンの乳を貰いにいくついでに幻獣を見るつもりなんだが」


「飼育部……飼育部って幻獣を飼っていたんですか?」


「ルナの話だとな。彼女にアオを連れて行ってほしいと頼まれたんだ」


「そうなんですか……ルナはどこにいるんですか?」


「家の用事で今日は行けないそうだ」


「……わかりました。それじゃあ是非一緒に行かせてください」


「おし!じゃあ行くか!」


 こうして俺たちは飼育部がある"部活動集合地帯"へと足を運んだ。その道中、俺はルナに関して気になることをアオに尋ねた。


「なぁアオ、ルナのことなんだけど、今日の家の用事ってもしかして———


「アゼン先輩、そのことに関して、私から言えることはありません。それはルナの口から直接聞いてください。そして、彼女がもし拒んだり、濁すようなことをしたなら、それ以上の追及はしないと約束してください」


 アオは俺の言葉を遮ってまくし立てるように言った。そのときの彼女の表情はいつにも増して真面目で、何より有無を言わさぬ威圧感があった。


「……わ、わかった。そうするよ」


「……すいません。別に脅してるわけじゃないんです。ただ、ルナと、ルナの母親は……」


 彼女がそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。俺は何とかこのどんよりとした雰囲気を払拭しようと頭を悩ませていると、"部活動集合地帯"の入り口が見えてきた。


「先輩、あれが"部活動集合地帯"ですか?」


「あ、ああそうだ」


「……なんだか異様な雰囲気ですね」


『部活動集合地帯』

 何百とある部活動の部室がひしめき合っている無法地帯。部活動の数に比べて土地面積があまりにも小さいために、部室が乱雑に積み上がっており、その様相は廃ビルの墓、学園のスラム街、ブックの汚点などなど、不名誉なあだ名がつけられているほどである。


 その山のように積み上がった部室の頂上に"飼育部"はある。


「アオ、ここにいる生徒の中にらちょっと頭のイカれた奴らがいるから気をつけろよ。あと、暗いから足元にも注意しろ」


「は、はい」


 俺たちは意を決して集合地帯に入る。"夜"側にあるせいで周りが暗く、両脇にある街灯と幻素の光で描かれた部活動の看板が両脇にひしめき合っている。放課後であることもあり、道を行き交う生徒は多い。ボールを持ってそそくさと移動する球技部、工具片手にせっせと部室の補強をしている工務部の部員などが見える。


「すごい数の人ですね。こんなに部活動をしている人がいるのに、どうして狭い場所に押し込められているんですか?」


「昔は部活動が差別されていた時代があって、そのときに一カ所にまとめられちゃったんだ」


「昔ってことは、今は違うんですよね?どうして場所を変えないんですか?もっと広くて明るい場所もあるのに……」


「生徒会への手続きがめんどくさいらしいぞ。それに、みんな何だかんだこの場所が好きなんだよ」


「それはなぜです?」


「ここは、"部活動解放戦線"の本拠地だったんだ。差別されていた時代、各部活動は手を取り合って当時の生徒会に抗議した。生徒会はそれを執行委員を使って弾圧しようとして、この場所で戦いに発展した。それに勝利したからこそ、今部活動はのびのびと活動できている」


「なるほどです。確かにそれならここは大切な場所ですね。そういえば、アゼン先輩そこらへんの事情に詳しいですね?先輩も参加していたんですか?」


「まぁ、間接的ではあるがな。親友が解放戦線のリーダーを務めていたんだ。そして副リーダーは今から行く飼育部の部長をやっている」


「そうなんですね。なんていうお名前なんですか?」


「"バルディ"って名前だ。あ、ほら、見えてきたぞ」


 そう言って俺は前方にある、部室が円柱状に空高く積み上がった塔を指差した。


「あそこは元々解放戦線の本部だった場所だ。そして彼らが立て籠もり、戦い抜いた"城"でもある」


「た、高いですね……。飼育部はどこにあるんですか?」


「あれの屋上だな」


「………ちなみに、エレベーターがあったりは……」


「いやないぞ。それに籠城するために色々と複雑に設計されてるから、まぁ、気合い入れて登るしかないな」


 そう言いながら、俺は塔へと向かう。アオもまた、少しため息を吐きながらついてくる。


 塔の近くまで来ると、そこには古びたポスターが何枚も散乱していた。これは、かつて戦ったあの頃の熱意を忘れぬために、当時ばら撒かれていた啓発ポスターをそのままの状態で残している。ポスターには大きな文字でこう書かれていた。



『同志諸君、解放の塔は、未だ健在である!!』



 それを見た俺たちは、同時に塔を見上げた。


 自らの情熱を、決意を護らんとした過去の英傑達が、俺たちを見下ろしているかのように思えた。



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