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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
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第77節 出し物

 夕食会の次の日の朝、俺たちはいつものように学園へと向かい、朝礼を終わらせて教室に戻り、1時間目の授業の準備を進めていた。ファームピボットであれだけの騒ぎがあったのに学園内ではウワサにすらなっていなかった。恐らく隠蔽したのだろうが、俺たちへの口止めを要求されるようなことはなかった。


(……広めたらどうなるか、自分で判断しろってことか)


 やがて始業のチャイムが鳴る。それと同時にガラガラと扉を開けて教師が入ってきたが、普段の授業の先生ではなく、担任の先生であった。


「よーし、全員席に着いてるな」


「せんせーどうしたんですかー?」


「今日は特別日程だ。1時間目の授業は今学期の最後に行われる前期の学園祭について説明するぞ」


『学園祭』

 学生であれば憧れを持つ者が多い単語にクラスは盛大な歓声をあげた。それを担任はなだめつつ黒板に概要を書き記していく。


「まず、うちの学園祭には前期と後期がある。前期は1学期の最後に、後期はそのあとにある長期休みが明けて直ぐに行われる。前期と後期では行われる行事の内容も違うぞ。後期はおいおい話すとして、まずは前期からだ」


 そう言って担任は一枚の紙をクラスの生徒に配る。


「"展示実演会"?」


「そうだ。前期ではクラス、部活動、階級ごとに幻素を用いた出し物を用意してもらう。それを2日に分けて展示、実演するんだ。勿論この行事には多くの企業が見学に来る。お前たちが楽しむことが第一だが、そのことも留意するように」


 配られた紙には『ファニーグループ社のイベントも盛りだくさん!』と書かれている。生徒会長があいつになってから、企業が多く顔を出してくるようになった。それ自体は悪いことではないが、大企業から視察にくる奴らの人を商品のように見るあの目は好きになれない。


「これから午前中までにクラスで何の出し物にするか決めてくれ。午後は通常通り幻素訓練があるからな。それじゃあ、まとめ役は執行委員に任せたぞ」


 担任はそう言って教室を出ていく。それと同時にクラスの生徒は席から立ち上がり親しい仲間で集まって何がいいかを口々に呟き始める。俺とルナも教室の後ろの隅に席があるシオンのところへと向かった。


「師匠!!学園祭、学園祭ですよ!!私ずっと楽しみにしてたんです!出し物何がいいと思いますか?私は喫茶店をやってみたいです!」


「幻素を使う必要があるから喫茶店だと難しくないか?お茶を幻素で作れるわけではないし」


「うーん、確かにそのことも考えなきゃですよね。師匠はどう思いますか?」


「私は何でもいいです。興味がないので」


「シオンは相変わらずだな」


 そうこうしていると、執行委員が前に出てクラスのみんなに案を出すよう言った。射的やお化け屋敷などありきたりな案が出てきたが、幻素を使うとなると、どれも普通の方法だと上手くいかない。例えば射的の場合、弓に何か仕掛けを施すとしたら、幻素が扱えない一般の客のことも考える必要がある。


 クラスが行き詰まった雰囲気になりかけてきたとき、執行委員の女の子がかしこまった言葉づかいで俺に話しかけてきた。


「あの、アゼンさん……その、今までいらっしゃったクラスでは、何をやっていたかよかったら教えて頂きたい……です」


「う、うーん……そうだなぁ……」


 俺はクラスの生徒にこんな怖がられていたことに内心涙を流しながら過去の記憶を呼び起こしてみる。


「確か、前のクラスでは脱出ゲームを作ったな。教室の後ろと前の扉を入り口と脱出口にして中は迷路を作って、さらに幻素を使った様々な仕掛けで脱出を阻む……って感じだ。これならどんな色の幻素でも応用が効く」


「な、なるほど!!ありがとうございます!早速みんなに提案してみます!」


 彼女は俺が言ったことをそっくりそのまま話した。すると驚いたことに、殆どの生徒がその案に賛成した。さらに案を出した俺に対して拍手までしてくれるのだから、ここにいる奴らはみんな心優しい人たちだなとしみじみ感じる。


「先輩!案が通ってよかったですね!私もめちゃくちゃ面白くなりそうだなって思います!」


「ああ、ちょっと気恥ずかしいけどな」


 その後、脱出ゲームに関して具体的なことを話し合い、時間はあっという間に過ぎていった。


 午後はいつも通り訓練があり、スーツに着替えて訓練場へと向かうと、そこには他クラスであるはずのアオがいた。


「あれ?アオちゃん!アオちゃんのクラスこの時間に訓練場って使ってたっけ?」


「学園祭の説明とかで潰れた分、共同で使うことになったらしいよ。だから一緒に練習できるね」


「まぁ俺たちは放課後いつも一緒に訓練してるからあんまり新鮮味はないけどな。そういえば、アオのクラスは学園祭の出し物何になったんだ?俺たちは脱出ゲームになったぞ」


「私のクラスは演劇をやることになりました。題目は"トルペン冒険譚"です」


「お〜あれやるんだ〜懐かしいなぁ〜昔アオちゃんと一緒によく読んだんですよ」


「どんなお話なんですか?」


「私たちトルペン家の祖先、カール=トルペンがローゼン大陸からアトランタ大陸に渡り、あのトルペンの湖に街を作るまでの冒険物語です。前トルペンランドで見たパレードもこの冒険譚の終わりらへんを題材にしていました」


「へぇーいいじゃないか。アオはトルペン家の人間だし、もしかして主役だったりするのか?」


「いえ、主役はタリアです」


「え!?タリアさんってアオちゃんと同じクラスだったの!?」


「そうだよ〜」


 スーツを着た当の本人が手を振りながらこちらにやってきた。その途端アオは露骨にイヤそうな顔をする。


「むむむ、アオ、そんな顔しないでよ。教室では仲良くやってるじゃん」


「……仕方なくだよ。私が話せるクラスメイトがタリアと友達だから」


「友達の友達……なんだか気まずそうだな。けどわかるぜその気持ち。俺も1年目のとき味わった」


「あはは……あ!そろそろ訓練が始まりますよ!」


 ルナはそう言って教師がいる方向を指差す。教師は腕で二手に別れるよう指示を出しているようだ。


「同じ場所でやるといっても別々に訓練するんだな。ちょっと残念だ。タリアにリベンジできると思ったのに」


「ふふっ、それはまたの機会ってことですね!それじゃあ皆さん、互いに訓練頑張りましょう!アオ、一緒にいこ!」


「……皆さん、またあとで」


「おう!」


「うん!」


 タリアとアオは自分のクラスに戻っていった。そのあと俺たちも教師のもとに向かい、いつも通り訓練を開始した。



 ▲▽▲▽▲



 汗と幻素を存分に放出した頃、休憩中にタオルで汗を拭きながらルナが話しかけてきた。


「あの、アゼン先輩、放課後確か飼育部に行くんですよね?ホルンの乳を手に入れるために」


「……?ああ、そうだ。ルナも一緒に行くか?」


「いえ、私はその……今日は用事があるのでムリです!代わりと言ったらあれなんですけど、アオちゃんを連れて行って欲しいんです」


「アオ?」


「はい。飼育部では幻獣を飼っているそうなので、アオちゃんに見て欲しくて」


「そういえば、ヌッコに初めて会った日も幻獣かどうか気にしてたな。よし、わかった。あとで誘っとくよ」


「ありがとうございます!それじゃあ、次の模擬戦は私とアゼン先輩なので、お互い手加減なしでいきましょう!」


「おう!連敗記録を更新させてやるぜ!」


「ぐぬぬ……先輩こそ、負けて吠えずらかかせてやりますよ!覚悟しといてください!」


 互いに煽り合いながら俺たちは台へと向かう。


 その後の試合は勿論俺が勝ち、ルナの吠えずらを堪能した。ただ今回の試合のルナはどこか集中力が欠けていたように思えた。現に彼女は訓練が終わると直ぐに着替えて教室に戻り、荷物を持って駆け足気味に出ていった。


 帰りの会で担任に理由を尋ねてみると、どうやら家の用事で先に帰宅したらしい。そういえば、ルナの母親について彼女から聞いたことはなかった。離婚していたとしても、夫と息子が行方不明になっている今の状況は、母親も知っているはずだ。その事について、何か進展があったのかもしれない。


(明日何かあったのか聞いてみるか)


 そう考えながら、俺はアオのいるクラスに向かった。


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