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「ブック直属ビィビィア学園には、数多くの生徒が在籍している。彼らの多くはのちに兵士となり、幻界領域の第一線で戦うことになる。だからと言って彼らから本来あるべき学生の権利を剥奪し、ただ魔獣と殺し合う方法を学ばせるだけでは意味がない。生徒が兵士になる以前に、まず人として、一人前になる必要がある。それにはやはり、人と関わり、より多くの見識を得て、経験を積むことが不可欠だ。だからこそ座学があり、部活動があり、行事があるのだ。そして我々生徒会は、彼らのその機会を最大限尊重しながら、学園を運営していく。以上のことを踏まえたうえで、もう一度言おう、
この提案書は却下する」
生徒会室に重苦しい空気が漂っている。その主な要因は、
"前生徒会派"の生徒たちが提出した提案書に対して、生徒会長が激怒しているからだ。無表情な顔からは想像できないが、生徒会に所属している者であれば彼の微細な感情の変化に気づくことができる。しかし、それができない前生徒会派の生徒は、愚かにも反論をまくし立てる。
「貴様らのやり方はぬるすぎる!入学試験を軟化させるだけでは飽き足らず、不必要な行事を増やし、訓練に費やす時間を潰している!我々は戦う力を身に付けるべくこの学園に入学したのだぞ!"学園生活"なんてものを送りたいのであれば、他の学校にでも行けばよいのだ!」
「キミキミ〜〜そのへんにしといた方がいいよー。会長が却下と言ったのなら、それがくつがえることは無いからね」
ガリエルはペンをくるくると回しながら退屈そうに言い放った。するとエミリが提案書に眼を落としながらその生徒に向かって発言する。
「それに、この提案書に書かれている内容の、『学園祭の中止もしくは短縮要求』に関して、学園祭には学期テストと同様に多くの企業が見学しにいらっしゃいます。また今年の学園祭ではファニーグループ社に各種イベントの設営と運営をお任せしているので、今それを途中で断れば、"企業ありきの学園"のイメージが損なわれ、援助が途絶える可能性があります。その損失をあなた方は理解していますか?」
「………そ、そもそも!企業との癒着が強まったのは貴様らの代になってからだろうが!」
「企業との連携は本部が行なっています。我々生徒会の一存で決めることはできません」
生徒の反論に対してエミリはぴしゃりと事実を述べる。
(はぁ……早く帰ってゲームしたいな……)
何度も見たこのやり取りと空気感に辟易しながら、ベルは今日徹夜するゲームをどれにするか頭の中で考えていた。
「お前たち、いつまで前生徒会長の威信にしがみついているつもりだ?彼はもう学園にいないし、彼が行なった強権的な運営は殆どの生徒が拒否した。"部活動解放運動"がその証拠だ。もし、それでも尚、彼の方針を望むなら、生徒会戦に挑め。私と同じように、この椅子を奪ってみせろ」
生徒会長は顔色ひとつ変えずにただ淡々と言い放った。彼の言う通り、今彼が生徒会長の席に座っているのは、前生徒会長との生徒会戦に勝利したからである。白色の前髪から覗く金色の瞳による威圧は、彼の前に立つ小心者たちを震え上がらせた。
「く、くそっ、俺たちは認めんぞ!俺たちは軟弱な奴らとは違うのだ!」
彼らはそう言いながら逃げるようにして生徒会室から退出する。すると今まで本を読んでいたドリムが溜め息を吐きながら呟く。
「やっとうるさいのがいなくなりましたね」
「……彼らは私たちと同じく前生徒会の厳しい体制の中生き残ってきた者たちだ。だからこそ、今の体制しかしらない下級生に嫉妬に似た感情を抱いているのかもしれない」
「みっともないね。そんなの。後輩はいつだって可愛いものなのに。後輩といえば、バルディくんがまだ来てないね」
「部活動監査の仕事が急に入ったらしいです。なので今回は私たちだけで会議を行います。ドリム、いつも通り会話内容の記述をしなさい」
「……わかりました」
「よし、ではまず今年の学園祭について、ファニーグループとの協議の末、恒例通り前期と後期に分けて、長期休み前に前期を、休み明けに後期を開催することになった。何か異論はあるか?」
「ないよー」
「ありません」
「な、ないです……」
「特には」
「わかった。今日の会議はこれで終わりだ。時間を取らせて悪かった」
「え!?これで終わり!?もっと話し合わなくちゃいけない事とかあるんじゃないの!?」
「恒例通り行うことを共有できたら十分だ。ドリム、悪いがバルディに会議の内容を伝えておいてくれ。それじゃあ、私はセンテンスの仕事に戻る」
会長はそう言って生徒会室から退出する。残された役員たちは暫く呆然とした。
「相変わらずせっかちな人ですね」
「会長はお忙しいのです。常にひとつの場所に留まることはできません」
「た、大変ですね……」
「話変えるけど、恒例通りということは、前期は展示実演会になるんだよね?だとしたらブースの争奪戦になるだろうから、そこんとこ早めに相談しないとね。特に部活動部門はいっっつも張り合って全然決まらないし」
「ガリエル、それは君が言えることではない」
「〜〜♪♪、まぁ、そこらへんの話はバルディとまた今度話すよ。それじゃあ僕は放課後を知らせる放送があるから先にでるよ〜」
そう言ってガリエルは鼻歌を歌いながら退出した。
「ベル。私たちもそろそろ戻ろう。部長とベンティアが待ってる」
「う、うん……!」
「2人とも、少し待ってください」
退出しようとする2人をエミリは引きとどめた。
「……何か用ですか」
「あなた達、最近ファームピボットに行ったそうですね。フランには会いましたか?」
「は、はい……。直接会ったのはビィビィア学園の食堂でですけど……」
「……元気にしてましたか?」
「……?別に普通でしたよ」
「……わかりました。引きとどめてすいません。もう行ってもらって結構です」
「「………?」」
2人は顔を見合わせて不思議がるも、特に気にせず生徒会室から出ていった。そのあと、ひとり残ったエミリは生徒手帳から1枚の写真を取り出す。
「……フラン、あなたはどうして、彼を赦せるの?」
写真には、館のような寮の前に笑顔で並ぶ、7人の少年少女の姿が映し出されていた。




