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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
ファームピボット編
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第71節 声を聞いて

 食糧確保のために冷凍保存室へと足を踏み入れた我らトレハン部はなんとその中に閉じ込められ、寒さでうとうとしているベンティアを揺すり起こしながら、4人仲良く身を寄せ合っていた。


「………zzz」


「ああベンティアちゃん寝ちゃだめ!寝たら死んじゃうよ!」


「すいません、私のせいでこんな危機的状況に……」


「ドリムちゃんのせいじゃないよ……。あの扉勝手に閉まったんだよね?だったら多分、外部から遠隔操作で閉じられたんだと思うよ……」


「どうしてそうだと分かるの?」


「あの扉、パパの会社がシステムを提供してるタイプのものだからです……。あ、けど、だからといって私じゃ開けられませんよ……?道具がないので……」


 そう言うベルの声は普段よりも弱々しくなっている。この部屋に閉じ込められてまだ少ししか時間は経っていないが、薄着で来た私たちにとってはそれでも十分体温を奪われる。このまま助けを待ってたら多分、私たちは死ぬ。


「……壊そう」


「え?」


「扉、壊しちゃおう!!」


「ですが部長、さっき壊したら野菜が駄目になっちゃって私たちの部費が吹き飛んじゃうって言ってたじゃないですか。それに———」


「命第一だよドリムちゃん!最初はアゼンさんとイリアンさんが助けに来てくれると思ってたけど、来ないってことはあっちでも何かトラブルが起きてるかもしれないでしょ?だったら2人のために、そして私たちのために、直ぐにでもここを出るべきだよ!」


「勿論私も出ることには賛成です。ですが、その、、私たちの中であの扉を壊せるのはベンティアしかいないですよね?そのベンティアがこの状態だと……」


 ドリムは心配そうにベンティアの方を見る。彼女はさっきまで保存室の中にある野菜を片っ端から食べまくっていたが、突然それをやめると座り込んで眠り始めるようになってしまった。


「ベンティアちゃん、大丈夫……?」


「おなか、いっぱい、むにゃむにゃ、、」


「ベンティアちゃん!眠たくても寝ちゃダメだよ!ベンティアちゃんにやって欲しいことがあるの!それができたら今度いっぱいお菓子買ってあげるからさ!」


「おかし!!」


 ベンティアはパッと目を見開いて私のほうを見つめてくる。その眼はとてもキラキラしていて今なら言ったこと何でもやってくれそうな気がした。


「お菓子は別腹なんだね……」


「それじゃあベンティアちゃん、あそこにある扉、ぶっ壊しちゃおう!!」


「うん!!」


 ベンティアは岩の剣を手に取ると、扉から少し離れた場所に立って、そこから勢いよく扉に向かって突進した。


 ———どーーーん!


 っと音を立ててベンティアは扉を回りの壁ごとぶち抜いた。冷気が一気に外に出ていくのを肌で感じる。野菜たちには申し訳ないが、そのまま放置して私たちは保存室の外に出た。


「うう、私から言い出したことだけど、部費が、部費が消えていく、、、」


「あとでフラン会長に許しを請いましょう。それよりもアゼンさんとイリアンさんの安否が心配です」


「……そうだね。私たちも生徒会室に向かおう!」


 そう言って、私は廊下に出る扉に手をかけたが、扉はぴくりとも開かなかった。


「どうやらここも閉められてるみたいだね」


「わたしの、出番?」


「うん!お願いベンティアちゃん!」


 ベンティアはこくりと頷くと、さっきと同じように助走をつけて扉に向かって突進する。だが、岩の先端が扉に到達するギリギリのところで、ベンティアは急停止した。


「ベ、ベンティアちゃん?どうしたの?」


 彼女は扉から離れて生徒会室がある方向の壁までゆっくりと歩いていく。私たちも困惑しつつベンティアの隣に立った。


「……きこ、える」


「……何が聞こえるんだ?」


「きこえる、きこえる!この先から、■■のこえ!きこえる!!」


「……?今、なんて言ったの?」


「■■!■■!ひさし、ぶりだね!■■!」


 ベンティアの叫ぶ言葉を、私たちは理解できなかった。ヨカ先輩と様々な場所を探検して、様々な言語に触れてきた私ですら、彼女が発音している【何か】は聞き覚えがなかった。


 だけど、その言葉を言うベンティアの顔は、まるで生き別れた兄弟と再会したときのように、嬉しさが溢れかえっているようだった。


「いま、そっちにいくよ!■■!」


 彼女はそう言うと岩の剣を振り下ろして壁を粉々に破壊した。壁の向こう側には部屋があり、ベンティアはそこに入るとまた生徒会室がある方向の壁へと走っていき、同じように壊して直進していく。


「ちょ、ちょっと待って!!わざわざ壁壊していく必要ないでしょ〜〜!!部費が、部費がぁ〜〜〜!!」


「……はぁ、ベンティアは時々謎の行動をしますよね。部長、早く追いかけましょう」


「ふふ、やっぱり、ベンティアちゃんは面白いね。さすが、私たちの"ユウシャ"、だね」


 他2人は満更でもない顔でベンティアを追いかけていく。私も頭の中で会ったこともないフラン会長の姿を思い浮かべながら、謝罪の言葉を必死に考えつつ3人の後を追った。


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