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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
ファームピボット編
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第69節 トレハン部の苦難

 左側のエレベーターへと向かうメル、ドリム、ベル、ベンティアは降り注がれる無数の矢を岩の剣で薙ぎ払い、迫り来るロボットたちに芯をぶち込み、それでも追いかけてくる奴らには縄で履帯を絡め取って転ばせ、地図を見ながら校舎を縦横無尽に走り回った結果、


「迷った……」


「迷ったな」


「……うん」


「てりゃーー!!」


 ベンティアが周りにいた最後のロボットにトドメを刺した。彼女たちがいる校舎の左側にはもうロボットは一台もいない。もしかしたらアゼンとイリアンのいる方に集中しているだけかもしれないが、今の彼女たちにそのことに注意を向けることはできるはずもなく、ロボットの残骸で埋め尽くされた廊下に呆然と立ち尽くしていた。


「ベル、ちゃんと地図通りに指示したのか?」


「したもん………」


「まぁまぁドリムちゃん、ベルだってわざとじゃないんだからそんなに責めないであげて」


「そもそも部長が挟み撃ちされるからって勝手にルート変えるからこうなってるんですよ!」


「う、、、けど、ベルが修正してくれたから元のルートには戻ってるはずだよ」


「だとしたら、どうして見つからないんだ……?赤丸がついているところはこの辺りのはずなのに」


「……もしかしたら、通った道にあったのに、見逃しているのかも」


「ねえ、ベル、あの、山は?」


 ベンティアはそう言うと、ロボットの残骸が積み上がった場所を指差した。その山は倒している間にたまたま積み上がったものだが、天井まで届いてしまいそうなほど高かった。


「……………ベンティア、あれ崩していいぞ」


「うん!」


 ドリムからの許可を貰ったベンティアは破壊する対象ができて嬉しそうに山に近づくと、岩の剣を横に振ってロボットの残骸を吹き飛ばした。奥には案の定、上へと向かうエレベーターがあった。


「……はぁ、まさか自分たちで目的の場所を隠してただなんて、宝探しでこれほど間抜けなことはないよ」


「けどこれでようやく上に行けます。右側に行った二人を待たせないよう早く乗りましょう」


「ベンティアちゃん、ナイスだったよ……!」


「隠し通路は、ダンジョンの、きほん!」


 ベルとベンティアは互いにハイタッチをして他の二人が待つエレベーターの中へと入っていく。


 最上階へのボタンを押すと、エレベーターは静かに上昇していく。扉とは反対側の窓からは、ファームピボットのビル群とその奥に厳然とした姿で並ぶフロントラインが一望できた。


「おおーー!!壮大な光景!!」


「ベンティアが好きな野菜はあの場所で栽培されているんだぞ」


「きれいなのは、おいしそう、、」


「さ、流石にアレは食べられないよ」


「前に美術館に行ったときはほんとびっくりしたよね!綺麗な絵画を見た瞬間、それに飛びついて食べようとするなんて!あれ以来私の絵画のコレクションは全部自分の部屋に移しといたよ」


 ———ぐぅ〜〜〜


「想像したら、おなか、すいてきた……」


「大丈夫。食糧庫に着いたらいくらでも食べれるぞ」


「ダメだよ!私たちの目的はあくまで食糧をビィビィア学園にまで届けることなんだから」


 そうこうしているうちに、エレベーターは最上階に到着した。扉が開くと、下の階とは違って警備ロボットは見当たらない。廊下を進むと、『会長の栽培室(ビィビィア学園用)』と書かれたプレートが付いている扉があった。


「……ここかな?」


「ビィビィア学園用って書いてあるので、多分そうかと」


「はやく、はやく入ろう!」


「あ!まってベンティアちゃん!」


 ベンティアは待ちきれずに扉を開ける。扉は電子ロック式のように見えたが、特に何事もなく開いてベンティアを中へと誘う。他の三人も慌てて中に入った。


 部屋の中には巨大な冷凍保存室と何種類もの野菜が植えられた畑があった。壁には蔓を伸ばした色とりどりの花が咲いており、天井はガラス張りになっていて日光がよく入り、さらに夜を再現するためだろうか、それを覆い隠すためのシャッターが天井の端に取り付けられている。畑の近くに置かれたホワイトボードにはビィビィア学園へと届ける日程が事細かく記されていた。


「なんか秘密の庭園みたいでおしゃれだね」


「けどこの畑の大きさだとビィビィア学園の食堂で消費する食糧を賄えるとは思えません」


「ベ、ベンティアちゃん、ダメ!こらえて!」


 直ぐそこにあるみずみずしい野菜たちに今にも飛びかかってしまいそうなベンティアをベルは必死に押さえていた。


「こら!ベンティアちゃん、まだ我慢して!」


 その様子を見たメルは縄を取り出してベンティアの体に巻きつけ、その手綱を握る。しかしベンティアの力は凄まじくメルとベルを引きずるようにして畑へと近づいていく。


「すっごい力!このままじゃ野菜が食い荒らされちゃう!」


「がるるぅ、、」


「まったく、お前は野生動物か何かか?ベンティア、こっちを見るんだ」


 ドリムはそう言って冷凍保存室の扉を開ける。その中には野菜だけではなくその他の食物も大量に保管されていた。この量なら十分食堂で通用するだろう。そしてそんな宝の山にベンティアが反応しないはずがなく、畑の方から急に方向転換して冷凍保存室の中に突進していった。他の三人も縄を離さないようにしながら中に入った。


「もぐもぐもぐもぐ」


「うう、結構寒いね」


「部長、これ全部運ぶんですか?正直無理ですよ」


「イリアンさんに後でどうやって運んでたか聞いてみよう」


「べ、ベンティアちゃん食べちゃってるけど、いいの?」


「うーん、まぁどうせ食堂で料理される食材たちだし、後で給食部にお金を渡せば大丈夫かな。あ、けど我慢できなかったベンティアちゃんは今後暫く朝食のパン抜きだからね」


「———!もぐもぐ………」


「そ、それでも食べるのやめないんだ……」


「それじゃあ、一旦他の二人と合流しましょうか」


 そう言って、ドリムが冷凍保存室から出ようとした瞬間、



 ———ダン!



 扉が閉まった。保存室の扉が。


「………は?」


「ちょっとドリムちゃん冗談きついよ〜なんでわざわざ扉閉めたの?」


「いや、私触ってません」


「そ、そういえばドリムちゃん、ここの扉どうやって最初開けたの?」


「……暗証番号を入力するところがあって、適当に押したら開いた。あと一回閉まったらもう一度その番号の入力が必要で……あ」


「……ドリムちゃん、それ、覚えてる?」


「…………すいません」


 ドリムはかつて無いほど申し訳なさそうな顔で目を逸らした。それを見たメルとベルの顔がみるみる青ざめていく。


「これってまさか……



 私たち、閉じ込められた……?」



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