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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
ファームピボット編
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第68節 分かれ道

 黒鉄から放たれる雷弾は機械であるロボットには効果抜群で2、3発撃ち込んだだけで動きが停止した。俺はイリアンを守るようにしてエレベーターへの突破口を切り開いていく。ロボットから放たれる無数の矢を白幻素で霧散させながら、エントランスから廊下へと突き進んだ。


 廊下は長く、多くの部屋があった。壁の一部はガラス張りになっていて中の様子が見える。綺麗に並んだ白い棚には作物がずらりと並んでいて、その作物の周りには何色もの幻素が浮遊していた。俺は一瞬見惚れてしまったが、背後から放たれた矢が頬を掠めたことで、すぐに現実に引き戻された。


「最上階へと繋がるエレベーターはこの廊下を進み、分かれ道を右に曲がってすぐのところにあります!」


「よし!わかった!」


 俺たちは後ろから来るロボットの大群から逃走しつつ、エレベーターのある場所にまで向かう。すると突然、前方のガラス張りの壁を突き破って警備ロボットが目の前に現れた。


「こいつら校舎を破壊してまで警備するのか!?」


「普通はそんなことしません!」


 俺は前の一体のロボットにすかさず雷弾を撃ち、動きが鈍った隙にそいつを後ろの二体のもとへ蹴り飛ばした。三台は吹っ飛ばされた衝撃で動かなくなる。しかし、ロボットは次々と部屋から現れ、それらを全て倒しながら前に進んでいく。だが当然進む速度は遅くなり、後ろの大群は徐々に距離を近づけていた。


「まずい。このまま近づかれたら矢を防ぎきれない」


「だけど、分かれ道はすぐそこです!」


 そう言って、イリアンは前を指差す。そこには確かに左右へと分岐する道があった。道との距離はあとわずか。ここを曲がればエレベーターに———



 ———ガシャン!!



 俺たちが曲がろうとした次の瞬間、突然天井から廊下を塞ぐようにして壁が降ろされた。さらに、部屋に面した廊下の壁にも同じように別の壁が降りて、部屋の中に入ることはおろか、中を見ることすら出来なくなった。俺たちの進んでいた道が、一瞬にして行き止まりになったのだ。


「まじかよ……」


「こ、こんな警備システムが導入されていたなんて……」


「まるで要塞並みの警備だな……」


「どうして、どうしてこんなことに……」


 彼女はひどく動揺しているようだった。母校がおかしなことになっている、この状況に一番不安になっているのはイリアンだ。無理も無い。しかし、この危機的状況を打開するのは俺一人では不可能だ。


「……イリアン、君は確か赤使いだったよな?俺が後ろのロボットを食い止めておく間に目の前にあるこの壁を溶かして穴をあけてくれないか?」


「え?そ、そんな、無理ですよ……私の幻素の濃度じゃ壁を溶かすことなんてできません……アゼンさんの幻素なら、できるんじゃないんですか……」


「俺は今こいつらの相手で精一杯だ」


 そう言って俺は次々とやってくるロボットに対応しながらイリアンを説得する。


「イリアン、君は自分を過小評価し過ぎだ。フランだってよく言ってたぞ。『イリアンの火の扱いは一流だよ』って。君の器用さは誰だって認めてる」


「わ、わたし、私は、、実験で必要な幻素量、濃度が足りなくて、それで実験が失敗して、、みんなの努力を、全て無駄にしたんですよ!!部長の悲願の実験だったのに……部長が私を信頼して与えてくれた役割だったのに……」


 彼女の啜り泣く声が背中から聞こえる。


「……"幻素は意識の表れだ"」


「……え?」


「父がよく言っていた言葉だ。幻素の扱いには個性がでる。繊細に扱える者もいれば、大胆に扱える者もいる。その実験で君が失敗したのは、勿論君にも責任はあるだろう。だけど、イリアンの個性を無視して、その役割を与えたフランの失態でもある。イリアン、君は———


 俺はロボットの攻撃を防いでいた白幻素の壁を、霧散させた。


「———!アゼンさん!!」


 それと同時に、一本の矢が俺に向かって飛んでくる。それでも、俺は避けようとはしなかった。



 ———ジュン



 灼熱の光線が、矢を一瞬で溶かした。


「元々"破壊"が得意だろう?」


 イリアンの指には高濃度の赤幻素が放出していた。彼女は確かに幻素を扱うのは不得意だが、その幻素で創り出した炎を操作するのは凄く上手い。幻素そのものを使い、創造するフランの実験とは、はなから相性は悪かったのだ。


 ロボットらはすかさず攻撃を続けるが、俺が再び展開した白幻素の壁に阻まれる。自分の行動に驚いて、座り込んでいるイリアンが、不思議そうに俺の方を見上げた。


「……アゼンさんは、どうしてそうだと思ったんですか?」


「まぁ、今までずっと給食部の手伝いをしてきたからな。君の得意とすることぐらいは把握している。ちなみにワクは包丁捌きが、フレンチはフライパンの扱いが得意だ」


(…………今までずっと喋って無かったけど、ちゃんと私たちのこと見てくれていたんですね)


「……?なんか言ったか?」


「……いえ、何でもありません。アゼンさん、私、やります!もう少しだけ耐えててください!」


 イリアンはそう言うと立ち上がり、後ろにある壁に熱光線で円形状に切り取っていく。


「開きました!!アゼンさん!!」


「ああ!今行く!」


 俺は白幻素を霧散させ、イリアンの方へと走った。後ろからロボットの駆動音と矢が放たれる音が聞こえてくるが、振り返ることなく進み、イリアンと共に右に曲がった。


「ありました!エレベーターです!」


 俺たちはエレベーターの前にまで行き、ボタンを押す。幸いにも扉はすぐに開き、急いで中に入る。イリアンが最上階へのボタンを押すと、なぜか扉はゆっくりと閉まっていく。


「くそ!はやく閉じろ!」


 扉が閉まりかけたその瞬間、ロボットのクロスボウがその隙間から入り込み、扉が閉じるのを阻害した。


「出てください!!」


 イリアンはそう言いながらクロスボウを蹴り飛ばす。クロスボウは扉の外に弾き出され、ようやく扉は閉じた。


 エレベーターは何事もなかったかのように上昇していく。


「……ふう」


「な、なんとかエレベーターに乗れましたね」


「ああ、イリアンのお陰だ。ありがとな!」


「……こちらこそ、ありがとうございます。私の背中を押してくれて。けど、あんな危ないことはもうしないでください!」


「あはは、わかったよ。にしても、いよいよ誰かが操作している可能性が高まってきたな」


「そうですね……あんな私たちを罠にかけるようなこと、警備システムにはありませんでした。一体誰が何の目的でこんなことを……」


「イリアン、ファームピボットで警備システムを操作できる場所はどこだ?」


「基本的には警備室で行うことができますが、電波塔と直接繋がっている生徒会室からでも、もしかしたらできるかもしれません」


「だとすると、敵は生徒会室にいる可能性が高いな。通信ができなくなっているのもそこからハッキングしているんだろう。……なぁ、俺のあくまで考察なんだが、敵はもしかしたら、"フロントラインの制御システム"をハッキングするつもりなんじゃないか?」


「———!で、ですが、制御システムにはフラントン通信が開発した"幻素暗号式デジタル防御網"が適応されています!それを突破するなんて不可能です!」


「……もし、もしそれが可能で、警備システムを乗っ取ったのは時間稼ぎがしたかったからだとすると」


「ハッキングが、もうすぐ終わる……?」


 対食糧危機の最前線であるファーム・フロントラインの制御が奪われれば、世界中の人々の命が危険に晒される。始めはただ食糧を確保しに行くだけだったのに、いつのまにか人類の存亡に関わる事態になっていた。


 エレベーターが止まり、扉が開く。

 目の前には案の定大量の警備ロボットが待ち構えていた。


「……この廊下の先に、生徒会室があります」


「……イリアン」


「……はい」


「気合い入れていくぞ」



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