第67節 校舎の中で
「3人とも大丈夫ですか?」
俺たちはベルのロボットがまた輸送機で運ばれていくのを見届けてから、ベンティア、ドリム、メルと合流した。
「ああ、なんとかな。それより、あのロボットは一体何なんだ?ベルの所有物なのか?」
「話すと長くなるんですけど……」
メルはあのロボットが手に入った経緯を俺たちに説明してくれた。
「なるほど、つまりベルさんが正当に譲り受けた物なんですね」
「……ねぇドリム、あれって"正当"だったかな?」
「しらん」
「まぁ何はともあれ、今回はそのロボットのお陰で何とか難を逃れることができた。ありがとな、ベル!」
「は、はい、、」
ベルは少し照れくさそうに頷いた。
「それにしても、やっぱり今の状況は異常です。警備ロボットだけでなく、整備用ロボットまで私たちを襲うなんて、そもそも整備用ロボットにそんな命令は出せないはずなんですよ」
「ということは、誰かが操作している可能性がある、と」
「通信が繋がらないのも、その誰か、かも……」
「……今ここで考えていても、結論は出ませんね。まずは予定通り本校舎に向かいましょう。何が起きているのかわかるかもしれません」
「そうだな」
俺たちはこうしてさっき進むはずだった道を真っ直ぐに歩いていく。幸い警備ロボットがまだ周りにいることは無く、敵らしい敵に出会うことは無かった。
「着きました。ここがファームピボットの本校舎です」
本校舎は他のビル群同様、近未来的な外見をしており、曲線のみで構成されたフォルムには、校舎というより、ラボに似た印象を感じた。
「研究所って感じの校舎ですね!」
「他の学校に比べたら十分大きいとは思うが、ファームピボットに通ってる生徒の人数を考えると、少し小さい気もする」
「確かにな。ビィビィア学園の方が校舎自体は広いかも」
「あくまでここは部長直轄の"幻素栽培部門"の校舎です。私の古巣でもありますね」
俺たちは校舎の入り口に向かいながらイリアンの話を聞くことにした。
「ファームピボットには農業に関する多くの研究部門がありますが、幻素が絡んでいるのはこの部門だけですね」
「幻素栽培……ニュースで聞いたことがあります。確か幻素の状態から作物を創造するんですよね?けどそれって……」
「メルさんが考えている通り、今は実現できていません」
「……?けどシオンとかルナは幻素で植物を作り出しているぞ?」
「それは厳密には、"細胞だけで構成された何か"だと言われています。たとえ緑使いの人が生み出した作物を食べたとしても、お腹にたまるだけで何の栄養にもなりません」
「おいしく、ない、の?」
「うーん私は食べたことないからよくわからないかな」
「それじゃあ、その部門は幻素で作り出された作物に栄養があるようにしたいってことだな」
「はい。大体その通りです。ですがそのためには緑幻素だけではなく、他の色の幻素も利用して、限りなく本物の作物を構成している幻素配列に近づける必要があります。けど、これがもし実現すれば、幻素使いさえいれば"永遠"に食物を手に入れられます。もう、誰も飢えに苦しむ必要がなくなるんです」
「……そんなすごい研究をしていたんだな。立派だぞ、イリアン」
「私は………いいえ、立派なのは部長ですよ」
彼女は何かを言いかけていたように思えたが、本校舎の入り口に着いたので、今は深く聞かないことにした。
「そういえば、私たちって部外者ですけど、中に入っていいんですか?」
「大丈夫ですよ。皆さんのことは来賓として登録してあるので、警備に引っかかることはないはずです」
「……なんか、すごいデジャブを感じる……」
「「「「「「……………」」」」」」
「……一応、武器の準備しておきます!」
俺たちは警戒しつつも、本校舎の中に向かった。入り口の扉は自動ドアになっていて、幸いここで足止めをくらうようなことは無かった。しかし、俺たちが本校舎に足を踏み入れた次の瞬間、頭に響く大きなサイレンが校舎中に響き渡った。
《"無登録者"の侵入を確認。繰り返します。"無登録者"の侵入を確認。校舎内にいる生徒、及び職員は、プロトコルに従って直ちに避難して下さい。これより、対象の排除が開始されます》
アナウンスが流れると同時に通路の至る所からさっきの警備用ロボットが現れる。
「やっぱりこうなったか……。イリアン、食糧がある所と、あとフランと連絡がとれる場所はどこかわかるか?」
「さ、最上階のエリアに全部あるはずです。そこに行く方法には2つのエレベーターがあります」
「よし、それじゃあ二手に別れよう。イリアンと俺、トレハン部の2グループでそれぞれのエレベーターを使って、俺たちは連絡を、トレハン部は食糧を確保してくれ」
「わ、わかりました。トレハン部の皆さんにこの校舎の地図を渡しておきますね。赤丸がついているところが食糧をいつも受け取っている場所です」
イリアンはそう言って地図をメルに手渡す。そうこうしているうちにロボットは俺たちに向けて攻撃を開始した。
「ふむふむなるほど。それじゃあ私たちは左側のエレベーターに向かいますね!ベル、ドリム、ベンティア!行くよ!」
「う、うん!」「ああ」「せん、めつ、だーー!」
彼女たちは意気揚々とロボットの群れに突っ込んでいく。
「よし、俺たちも向かうぞ!イリアン、道案内は頼んだ!」
「はい!」
そう言って俺は手に持つ黒鉄をロボットに向けて、引き金を引いた。




