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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
ファームピボット編
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第64節 一番前はやっぱり

 地平線の彼方まで続くファーム・フロントライン、電車はそれに沿って進んでいる。


「いや〜本当に大きいですね!これだけ大きいと種植えや収穫が大変そうです」


「それは大丈夫ですよ。施設一つ一つが全自動化してて、学園の生徒はそのシステムの管理が主な仕事ですね」


「これ全部学生だけで管理しているんですか?あとそういえば、さっき"学園長兼生徒会長"って言ってましたけど、これってどういうことなんです?」


「そのままの意味です。ファームピボットの学園長は生徒会長でもあるんです。それに、私たちの"部長"でもあります」


「……ってことはまさか……」


「フラン先輩が、学園長兼生徒会長です」


「まじかよ、あいつそんなにすごいやつだったのか……」


「部長は超すごい人ですよ!空の幻界領域が出現した頃に、フロントライン計画を立案、ブックの資金援助によって短期間で実現、同時に優秀な技術者、科学者の育成と彼らにより良い研究の場を与えるためにファームピボットを開校させるなどなど……部長自身まだ学生なのに、こんなにも多くの偉業を成し遂げているんです!」


 イリアンが興奮気味にフランの来歴を話した。口ぶりからして、どうやらフランのことをかなり尊敬しているようだ。


「寮にいるときはそんな偉人オーラなんて感じなかったけどなぁ」


「部長はよく言っていました。寮と給食部のみんなといるときが一番リラックスできる、と。……最近は忙しいのか、食堂に顔を出すことがないですけど、給食部が部長にとって安心できる場所であり続けるために、日々料理の腕を磨いています。部長に私たちのことで心配してほしくないですから」


「食堂の、たべもの、おいしい、よ」


「ふふ、ありがとね、ベンティア」


「気になったんですけど、イリアンさんはファームピボットに通っていたときは、何をしていたんですか?」


「……私は幻素由来食物の研究部門で学んでいたんですけど、周りがすごくてついていけなくて、結局、半年後逃げるようにしてビィビィア学園に留学しました……。そこで給食部に入部して気付いたんです。私は食物を作るよりも、食物を料理することの方が得意なんだと」


「イリアンは結構成績は良いほうだよな?それでもついていけないなんて、ファームピボットは結構なインテリ集団なんだな」


「世界各国から人が集まりますからね。そこらの大学よりも賢い生徒は多いと思います。……あ!そろそろ着きますよ」


 イリアンがそう言うと、電車は徐々にスピードを落としていく。ふと、フロントラインが見える窓の反対側の窓を見ると、荒野にずらっと太陽光発電の板が並んでいるのが見えた。恐らくフロントラインの電力を生産しているのだろう、永遠の昼は人類に多大な損失を与えたが、電力産業の面で見ると、むしろ有り難いのかもしれない。


 やがて駅に到着し、俺たちは電車から降りる。不思議なことに、俺たち以外この駅で降りる人はいなかった。確かに周りは荒野だし、あるのは学園だけだから、普段通っている生徒ぐらいしか使わない駅なのだろう。


「まずはファームピボットの本校舎に向かいたいと思います。そこで給食部用の食糧を確保して、あわよくば部長と連絡をとりたいです」


「にしても変な話だよな。いくら生徒が全員いないからって、学園にもまだ人が残っているはずだろ?それにフランにすら繋がらないなんて、まるで電波が通っていないかのようだな」


「わ、我々のシステムに不備はあり得ません……。あるとしたらそれは外部からの、干渉です」


「そっか、ベルちゃんの親は通信会社の社長だったね。もしベルちゃんの話がほんとなら、干渉している何かって一体……」



「「「「「「………」」」」」」



「ま、まあ、まだ偶然繋がらなかった可能性はありますし、ひとまず校舎に向かいましょう。私が案内します」


 イリアンの後を追うように俺たちは改札を出る。電車に乗っていたときは太陽光パネルのせいで見えていなかったが、駅を出ると直ぐに学園の施設らしき建物が目の前にあった。


「駅の前にはファームピボットの学生寮が建ち並んでいます。寮の他にも学生が生活に困らないよう様々な商業施設も併設されていて、学園の敷地はもはや街一つ分と変わらない大きさだと思います」


「圧巻というかなんというか、まるで未来の街みたい!」


「ええ、道も清潔で住みやすそう」


 確かに、回りを見渡してもゴミひとつ落ちていない。ガラス張りの建物に太陽光が反射してキラキラと輝いている。近未来感が漂っていて非常にワクワクする。しかし、やはり生徒が今は一人もいないからか、異様な静けさが辺りを覆っていた。


「学園の施設維持やサービスの提供にはロボットを活用しているんですよ。だから生徒以外の人間はあまり居ません。そのかわりいつもはロボットがそこら中にいるんですけど、、

 あ!道の角から出てきました!」


 そう言ってイリアンは少し遠くの交差点の方を指差した。そこには一体のロボットが建物の横からひょっこりと身体を出している。上半身は人型だが、下半身に足はなく、代わりに無限駆動が取り付けられていた。


 ウィーーーン


「こちらに向かってきますね……」


「きっと案内をしてくれるんだよ!」


「おかしいですね、あの型番は案内用ではなく警備用なのですが……」


 ウィーーーン



 ウィーーーン、ウィーーーン



 ウィーーーン、ウィーーーン、ウィーーーン、ウィーーーン

 ウィーーーン、ウィーーーン、ウィーーーン、ウィーーーン


 すると、交差点の全ての道から大量のロボットがこちらに向かって集まって来た。手にはそれぞれ連射型クロスボウを装備している。


「……盛大な出迎えだな」


「……私たちそんなに人気なんですかね?」


「……さ、サインの準備しておかなきゃ……!」


「サイン、て、おいしい、?」


「………はぁ」


「皆さん何言ってるんですか!?これどう考えても暴走してますよ!?」


 イリアンがそう言った直後、一番前にいたロボットが矢を放ち、彼女の頬を掠めた。


「ひ、、そんな、登録されている生徒は攻撃しないはずなのに……」


「……ここに来る前から何か違和感はあったが、これで確定したな。誰かが俺たちのことを妨害しようとしている。……イリアン、あのロボットって壊しても平気か?」


「は、はい、今は非常事態なので……」


「ならやることは決まりですね!念の為に武器を持って来ておいてよかったです!」


 そう言ってトレハン部の面々はそれぞれの荷物から武器を取り出して構える。だがそれは俺の知っている武器とはかなりかけ離れていた。


「縄に、コントローラー、シャー芯、それと……岩?」


「私たち全員、幻素を扱うのは苦手ですけど、それでもそれぞれが得意な方法でいつも困難を乗り越えて来ました」


「さがって、アゼン、イリアン」


 ベンティアが(つか)が付いた岩を構えながら、俺たちの前に立った。


「ここからは、ユウシャの、でばん!」


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