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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
ファームピボット編
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第63節 今際の最前線

 結局、ファームピボットとの連絡はとれなかったらしく、今日の早朝に最寄駅に集合して向かうことになった。


 シオンはまだ寝ているので、朝食を用意して寮を出る。昨日俺が出かけるかもしれないことをルナとアオに伝えたら、『ずるい!!私も連れてってください!!』とルナが駄々をこねたが、アオがユメコの名前を出すとしょんぼりした顔で引き下がった。


 駅はトルペンに向かった時と同じ駅を使うが、今回は東では無く、南に向かう電車に乗る。


 駅に着くと、イリアンとメルが手を振ってこっちに駆け寄って来た。


「おはようございます!!いい天気ですね!!いつもですけど!!」


「メル、お前テンション高いな」


「だって今から冒険に行くみたいでワクワクしません?それに1番楽しみにしてるのはベンティアですよ」


 メルはそう言って後ろにあるベンチを指差す。そこには座って読書をしているドリムと、その周りをぐるぐると回っているベンティアの姿があった。


 ベンティアは結構な大荷物で、棒みたいなものがリュックの入れ口から飛び出ている。そんな重そうな荷物を背負っているのにも関わらず、楽しそうにスキップをしながらベンチを周回している。


「……………ああもう鬱陶しい!!」


 ドリムはそう言って勢いよく立ち上がり、ベンティアを追いかけ回した。ベンティアは楽しそうに逃げている。


「ベンティアの荷物大き過ぎないか?何が入ってるんだ?」


「あ〜〜〜なんて言ったらいいのか、、剣っちゃ剣なんですけど、"岩"でもあるみたいな、、」


「?ま、まぁ、つまり武器ってことか」


「はい。まぁそんなところです。彼女が見つけた最初のお宝なので、どこに行くにも肌身離さず持ってるんですよ」


(……よっぽど大切なものなんだろうな)


 《まもなく、電車がまいります》


 駅のアナウンスと同時に、遠くから電車がやって来るのが見えてきた。


「イリアン、ベルはどこにいるんだ?」


「それがまだ来てないんです……。メルさん、ベルさんから何か連絡が来てませんか?」


「え?連絡?……あ!ベルちゃんから『寝坊した……』ってきてます!!」


「まったく、『もう少し寝たいから先行ってて。すぐ追いつくから』と言ってたくせに、そのまま本気で寝たんですか彼女は……」


 追いかけっこをしていたドリムとベンティアもこちらに合流し、電車も駅に着いてしまった。しかしベルが来る気配が一向にない。とりあえず電車に乗って彼女を待っていると、とうとう扉が閉まってしまった。


 だが、電車が動きだした瞬間、改札から息を切らしながら走るベルの姿が見えた。


「ま、待って、、」


「ベル!!」


 メルは電車の窓から身体を出して精一杯手を伸ばした。ベルはなんとかメルの手を掴んで電車に乗り込んだ。


「ふぅ、、ギリギリ間に合ったね!ベル!」


「う、うん……ごめんね、遅れちゃって……」


「はぁ、今度からは"ベンティア目覚まし時計"で起こしますからね」


「う……アレだけは勘弁して……」


「ジリジリジリ〜〜朝、です、よ〜〜!!」


「ぐへぇ!?」


 ベンティアは目覚まし時計の真似をしながらベルに突進した。


「あはは、朝から元気で何よりです。それじゃあ皆さん、学園に着く前に、ファームピボットについて大まかな説明をしようと思います」


 俺たちはイリアンの話を聴くために横1列に並んで座った。


「ファームピボットは、"ブック"を筆頭に多くの組織、企業、国家と提携している学園で、生徒数もかなり多いです。この学園では様々な農業技術を学ぶことができ、さらに作物の研究や大量生産も行っています。特に有名なのが"回転式農業"というもので、アトランタ大陸の"昼"と"夜"を有効に活用することで、幻素発生以前の環境を再現しています」


「へぇ〜〜どんなものなのでしょうか?」


「それは着いてからのお楽しみです。ふふ、きっと驚くと思いますよ」


「この前"世界の"と言っていたが、そんなに大規模なのか?」


「はい。以前は"アグリ"という国が世界の農場といっても過言ではありませんでしたが、"空"の幻界領域発生後、永遠の夜によって作物が育たなくなり、さらに戦争も起きたことで今では国全体が飢餓に苦しめられています」


「……」


「……だから私は、そういった国々に住む人たちに、美味しい料理をお腹いっぱい食べてもらうために、ファームピボットに入学しました。あの学園はそれが実現できる場所なんです」


 そう語る彼女の瞳には、晴れ渡る空の向こう側にある、真っ暗な夜の空が映っていた。


 その後、着くまでに少し時間があったので、トレハン部のこれまでの大冒険の物語を聴いたり、イリアンに新しい料理を教えたりして時間を潰していた。


 トンネルに入ってしばらくすると、ファームピボットの最寄り駅の案内が電車内に流れる。


「あ、そろそろ見えてくる頃ですね。皆さん、ちょっと外を見てください。すごいものが見れますよ」


 イリアンはそう言って電車の右側の窓を指差した。今はまだトンネルの中なので、俺たちの顔しか映らないが、トンネルを抜けたら何か見えるのかもしれない。俺たちは言う通りにその窓から外を眺める。やがてトンネルを抜け、光と共に広々と広がる荒野が見え始める。そしてそこには———



「で、でっけぇぇぇーーー!!」



 そこには"雲"にも届いてしまいそうなほど巨大な円盤が付いた建造物が、空の境目に沿って、どこまでも、どこまでも立ち並んでいた。


「………すごい」


 その建物は、丸い置き鏡を少し傾けたような形をしていて、

 さらによく見ると、円盤の表面には無数の作物が植えられており、まるで緑色の巨大な眼が、ずらっと縦に並んでいるように見える。


「これが"回転式農業"を実現している農場です。太陽光が最も当たる角度に傾いており、さらに円盤の中心部から外側にかけて回転速度を調節することで、太陽が登り、そして沈む、かつて普遍だったサイクルを、円盤のどの場所でも再現しています」


「そうか、境目の丁度真ん中にあるから、昼と夜を平等に作物に与えることができるのか」


「はい。さらに"学園長兼生徒会長"の幻素によって、気圧、気温、降水量を適切に管理しているので、これほどの高低差でも同じ作物を育てることができています」


「通りで、あるはずもない"雲"が存在しているわけですね」


「そうなんです。……この建物はアトランタ大陸を縦断するほどの数が立ち並んでいます。そしてファームピボットはそれら全てを管理し、今では世界で最も作物を生産している場所でもあります。いわば、世界の食糧危機と戦う"最前線"、これを作った"部長"は、学園の名前からとってこう名付けました。


 ファーム•フロントライン


 私たちの、希望の象徴です」



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