第62節 新たな試練
「ほんっっっとすいません!またうちのベンティアが盗み食いを……」
「いえいえ大丈夫ですよ。それよりどうぞ座ってください。今回の盗み食いの代わりと言ってはなんですが、皆さんにも頼みたいことがあるんです」
俺が壁から身体を引きぬこうと四苦八苦しているうちに、トレジャーハンター部の部員が食堂に来ていた。彼女たちのことは知っている。何故か?それは前に"ヨカ"が部長をしていた部活動だったからだ。ヨカは寮に帰って来たらまず最初に部活のことについて話していた。
「はい……」
申し訳無さそうに返事をした彼女の名前は、メル。ヨカがいた頃のたった1人の部員で、今はヨカの後を引き継いで部長になったそうだ。お宝には目がなく、毎週の休日には必ずどこか冒険に出かけているらしい。
「まったく、何故私達がベンティアの面倒をみなければならないのですか。読みかけの本がまだ沢山あるのに……」
俺が知るトレハン部のメンバーはヨカとメルの2人だけだったが、今年新しく部員が増えたらしい。しかも、なんと驚くべきことに、かの"生徒会"で書記を担当している"ドリム"じゃないか。
(彼女、トレハン部に入部してたのか……それにもう1人……)
「私も……今イベント中のオンラインゲームがあるので……早く帰りたいです……」
"生徒会"会計担当、ベル。生徒会長の指名で選ばれた生徒会員の1人だ。因みにドリムもそれに当たる。人智を超えた計算能力を持ち、また人工衛星ネットワークを創設した名家でもある"フラントン家"のご令嬢だ。
「先輩、いつまで突き刺さってるんですか?みんな先輩のこと待ってますよ」
「あ、ああ。今行く」
俺はなんとか身体を引き抜き、怒っているシオンの気をなだめながら、トレハン部の面々と向かい合うようにイリアンの隣に座った。
「あ、アゼン先輩、お久しぶりです!」
メルが元気よく挨拶をしてくれた。
「ああ、久しぶり」
「え!?へ、返事を返してくれた!?」
「この流れ、前にも見た気がします……」
「……色々すいませんでした」
俺はイリアンとメルの両方に頭を下げた。
「それじゃあ、そろそろ本題を話しますね。アゼン先輩の言う通り、今給食部は深刻な食料不足に陥っているんです。正確には、本来届くはずの野菜が、"母校"から一向に送られてこないんです……」
「……母校?あなたの母校はこの学園ではないのですか?」
ドリムが読んでいた本を閉じて不思議そうに尋ねる。
「はい。実は私、"留学生"なんです。というか、給食部の大半が留学生です。ビィビィア学園では、他校で幻素を扱える人材をスカウトすることがあるんですよ」
「へぇ!知らなかったです!それで、その母校から普段は食材が届いてだけど、急に届かなくなったってことですか?」
「はい。その通りです。母校に何度連絡をしても繋がらなくて……"部長"とも音信不通なんです……」
「それって、"フラン"のことか?」
フランは、元々俺の、俺たちの寮にいた生徒だ。
「はい。……母校では今、生徒全員が新しい校舎を見学しに行っているんですけど、連絡が出来ないわけではないですし、部長は食材は届くようにしてあると言っていたので、もしかしたら母校で何かあったのかもしれないんです……」
イリアンは不安そうな顔で俯いている。
「……それじゃあ、俺たちに頼みたいことは、その母校に行ってどうして野菜が届かないのか探り、野菜を無事手に入れて欲しいってことだな」
「……はい。すいません、みなさんとはあまり関係の無いことなのに……」
「いやいや全然!むしろ今までのお詫びができるので私達は喜んでやらせてもらいます!ね?みんな?」
「おいしい野菜、食べたい、だから、がんばる!」
「……はぁ、今週の"あなたの分"はこれで終わりですよ?」
「あ、あの、いつ行くんですか……?イベント終わらせてからにしたいんですけど……」
「明日もう一度連絡して、返事がなかったらその次の日に向かおうと思ってます」
するとその話を聞いたシオンが、俺に小さな声で話しかけて来た。
(先輩、明後日はユメコさんの特訓の日ですよ?)
(わかってる。だから今回は俺だけで行くつもりだ。ユメコには事情を説明しておいてくれ)
(……はぁ、お土産はケーキでお願いします)
(了解だ)
「アゼン先輩たちは、その、大丈夫ですか?」
「ああ。ただ俺1人しか行けない」
「いえ、十分ありがたいです!それじゃあ皆さん、明日行くか行かないか伝えますので、もし行くことになったらその時はよろしくお願いします!」
イリアンはそう言ってぺこりと頭を下げた。
「はい、もちろん!……あ、そう言えば、イリアンさんの母校の名前を聞いてなかったような……」
「あはは、うっかりしてました。確かに言ってなかったですね。……私たちの母校であり、世界の食糧生産、食糧循環の"回転軸"、その学園の名前は
ブック指定農業学園"ファームピボット"




