表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
61/105

第58節 本気ではない態度

《試合終了〜〜!!制限時間ギリギリでサルサさんの鋭い一矢がアゼンさんの胸を射抜きました!!勝ったのはトルペンチーム!!互いの弱点を補うチームワークでアゼンチームを撃ち破りました!見事な勝利です!!》


 試合終了と同時に台の中の建物や水が全て幻素へと返還され、俺は真っ白な床の上で仰向けになっていた。燦々とした太陽の光で、俺は思わず目を細める。


(あの最後の攻撃はサルサの一撃だった……どうして俺は彼の存在を注意していなかったのか……)


 後悔と悔しさが頭の中を渦巻く。スーツが既に俺のダメージを回復させてくれているが、それでも立ち上がる気力が湧かなかった。


「対戦ありがとうございました、アゼン先輩」


 タリアが横から覗き込むようにして俺を見下ろす。太陽のせいで彼女の顔がよく見えない。


「……完敗だよ」


「まぁ仕方ないですよ。急遽アオが出れなくなって作戦も立てづらかったと思いますし。それに、私は皆さんの実力があんなものではないと思っていますよ」


「……」


「それじゃあ!今度戦う時を楽しみにしています!あと、ぜひまたトルペンランドに遊びに来てくださいね!」


 太陽が彼女の顔と重なる。タリアは笑顔でそう言うと、俺の元から小走りで離れていった。俺が身体を起こすと、次はシオンとルナが申し訳無さそうにやって来た。特にシオンの方は、今まで見たことがないほど眉間にシワが寄っている。


「……すいません、先輩、全ては私の失態です」


「……いや、あれはどうしようもない。初見じゃ気付けないからな」


「私も……最後、水の鞭に足を取られなければ、アゼン先輩がやられることはなかった……」


「サルサのことを失念していた俺の責任だ。ルナのせいじゃ無い」


「傷の舐め合いなんて見苦しいわね」


 突然、俺たちのところに観客席の方からユメコが歩いて来た。忙しいはずなのに、わざわざ俺たちの試合を観に来ていたのか?……だが、彼女の髪が逆立っているのを見るに、どうやら相当怒っているようだ。


「あなたたちには失望したわ。これじゃあ生徒会戦では戦うどころか出場すらさせないわよ。私の顔に泥を塗ることになりそうだから」


「……俺たちは、俺たちなりの全力を尽くしたんだ」


「全力?笑わせないで。あなたたちは何もかもでトルペンチームに敗北したのよ。トルペンの"先手必勝"はこの学園では有名な話だし、サルサの潜伏だってその種はもう一年前に割れていたのよ?それなのに碌な情報収集もしないで戦いに挑むなんて、なんてバカなの!」


「対戦相手が掲示されたのは試合のすぐ前だったんです!クラウズの上位チームと戦うなんて考えもしてなかったんですよ!」


 ルナが反論すると、ユメコは鼻で笑いながらルナを睨んだ。


「ふん、そんなものは負けた言い訳に過ぎないわ。たとえトルペンの情報があったとしても、あなたたちのお粗末なチームワークじゃ結果は同じだったでしょうね。……まぁ、別にそれに関してはあまり気にして無いわ。一年生にトルペンレベルの連携を期待する方が酷な話よ。……それより、私が一番イラついているのはあなたよ、アゼン!!」


 彼女はそう言うと、手に持っていた大剣の剣先を俺の喉元に突きつける。


「シオンの無注意も、ルナの実力不足も、まだ許容できるわ。けど、あなたのその"態度"、はっきり言って最悪よ!戦いは常に全力をもって挑むもの、それを蔑ろにすることは、敵にも、そして味方に対しても最大の侮辱をしているのよ!」


「………」


「アゼン、あなたがずっと"そのまま"でいるなら、チームを解散させるべきよ。あなたの勝手な"自制"に、彼女たちを巻き込むべきではないわ」


 ユメコはそう言って台から離れていく。ルナとシオンは心配そうに俺の方を見ていた。


「……すまない、少しひとりにさせてくれ」


 俺はそんな彼女たちの顔を見ることができなかった。その場の空気と自責の念で押し潰される前に、俺は彼女たちを置いて足早に会場から出ていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ