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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
59/105

第56節 海の侵略者

 中心部に向かうと、ルナの背中と、その奥にいるルーの姿があった。見たところ一対一の状況なので俺が加勢すればこちらが有利になりそうだ。


 そう思った矢先、ルーのさらに奥の屋根から、一瞬の青い光が見えた。同時に、それがルナを狙った攻撃だと気づくのに数秒もかからなかった。


「ルナ!!避けろ!!」


 俺がそう叫ぶ頃には青い閃光がルナの目の前にまで迫っていた。ルナは反応することすらできず、身体が全く動いていない。しかし、ルナの顔すれすれの所で俺の白幻素が青幻素を塗り替えた。


「大丈夫か!?」


「は、はい!ありがとうございます!先輩!」


「おっしぃ、サルサ〜?腕が鈍ってるよ〜?」


「やっぱり何処かにいるんだな」


「ふふ、見つけられますかな?」


 さっきの青い閃光はルーの後ろから放たれていた。しかしそこを見てもサルサの姿はない。もう移動したのか、それとも姿を消すことが出来るのか、今ある情報だけでは判断できないな……。


「ルーお姉ちゃんこそ、簡単に落とされてるじゃない」


 タリアがルーのいる屋根に跳躍して来た。


「え!?タリア!?なんで堂々とこっち来てるの!?さっきまで隠れてたんだから不意撃ちできたでしょ!」


「どうせ不意撃ちしてもアゼンさんが防いじゃうし。私隠れている間ずっと眼が合ってたんだよ?」


「君が一番危険だからな」


「あはは!褒め言葉として受け取っておきますね!それじゃあお姉ちゃん、そろそろいつもの"アレ"やっちゃおう!」


「ふふ、ここなら今までよりも"トルペン"らしくできるね」


 タリアとルーは顔見合わせると、互いにニコニコと笑って何かを話している。その様子はあのトルペンランドで見た、お客さんを喜ばせようとする彼女たちに似ていた。


「ルナ、気をつけろ。ここからが本番だ」


「……はい、わかってます」


 ルナも彼女たちの様子から察したのか、杖を両手に持ち直して構えている。


「アゼンさん、ルナちゃん。私たち兄妹姉妹は、それぞれ得意とすることが違うの。ルーお姉ちゃんは幻素量が一番多いし、サルサお兄ちゃんは濃度が濃い。アオは……一番特別。そして、そんなみんなをまとめるのが私の得意なこと」


《さぁ、この短い時間で随分と戦況が変化しました!最初のシオンさんの脱落から、アゼンさんとルナさんが二手に分かれ、そして今再び合流しています!また、サルサさんの姿が見当たりませんが、タリアさんとルーさんが二人の前に立ちはだかっているようです!この後どのような展開になるのか非常に気になります!》


「……私たちトルペンは、観客がいるなら例えどんな場所でも最高のパフォーマンスをする。そう、どんな場所でも、私たちの"常夏"は、いつも"海"と共にある」


 タリアがそう言うと、ルーに目配せで何かを合図する。ルーは片目を瞑って答えると、突然弓を投げ捨てて私たちの下にある道へと飛んだ。


 俺はすかさず雷弾を撃つが、それはタリアが矢で相殺する。


 道に降りたルーは、両腕を横に広げてゆっくり深呼吸をした。


常夏の海(トルペン•オーシャン)


 ルーの周りに今まで見たことがないほどの大量の青幻素が集まり、それらが凝縮してルーの両手の前に青い巨大な円を創り出し、その穴からまるでダムの放水のように水が溢れ出してきた。


(このまま水が出続けたら街が水没してしまうかもしれない。そうなれば彼女らの思い通りになってしまう)


「せ、せ、先輩!ルーさんを倒さないと!」


「ああ!わかってる!」


「そうはさせないよ!!」


「———!」


 俺とルナが道に降りようとした瞬間、ルーが流していた水の一部が突然鞭のように動いて俺たちを叩き上げた。俺たちはそのまま空へと飛ばされて屋根に着地する。


「……ふと思ったんだが、タリア、君が自ら水を生み出すところを俺は見たことがないな」


「言いましたよね?それぞれ得意なことがあるって」


「そして不得意なこともあるってことですか……?」


「……だとしたら?」


「……この状況はまずいな」


 もしタリアが水を生み出すことが苦手で、水を"操る"ことを得意とするなら、ルーの出す水が街全体を水没させたとき、ここは彼女にとって最も有利な場所になる。


 だが、それに気づいた時には、もう水は街の隅々まで行き渡っていた。ルーは水を出すのを止めると、力尽きたかのようにぷかぷかと"海"に浮かんでいる。


「ふぅ〜〜もう身体が一ミリも動かない……あとは頼んだよ〜タリア〜サルサ〜」


《生徒ルーを行動不能と判断。ステージから転移させます》


 あれだけの幻素を使用したらさすがに体力は尽きるだろう。しかし……


「大丈夫だよお姉ちゃん。今の私は百人力だから」


 たとえ人数が減ったとしても、それを補えるどころか増強できるほどの力が今のタリアにはある。


(なるほど、これがトルペンのチームワーク……。互いが互いの弱点をうまく補っている。これは俺たちのチームに足りないことのひとつだな……)


 心の中で反省しつつ、目の前に広がるこの"あり得ない"光景をただ茫然と眺めていた。


 キラキラと輝く水面の上に、タリアは堂々と立っている。その後ろには何本もの水柱がそびえ立ち、そこから魚の形を模した水の塊が何体も生み出され、青空を優雅に泳いでいる。



「今度は私が、"侵略者"だね!」



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