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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
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第54節 二手に別れて

「ルナ!穴から離れるぞ!!」


 俺たちはタリアの射線を切るようにして近くの建物の中に入る。


「せ、先輩、師匠がやられてしまいました……」


「慌てるな。……だが、このチームで一番の火力持ちだったシオンが脱落するのは痛いな……」


「これからどうしましょう……」


「まずは敵の位置把握からだ。タリアももう移動してるだろうし、俺たちも動きながら敵の位置を割り出していこう」


 俺たちはなるべく外に出ないようにしてタリアがさっきまでいた方向に向かう。タリアは何枚もの壁を貫くほどの矢を放っていた。それもシオンの幻素量を一撃でゼロにするほどだ。建物の中にいることで、矢が壁を破壊する音を聞き少しでも回避率を上げる必要がある。


 警戒とは裏腹に、タリア達からの攻撃はなかった。タリアが矢を放ったであろう場所にたどり着くが、やはりそこに彼らはいない。


「……いませんね」


「……仕方ない。一度屋根の上にのぼ———


 そう言いながら振り返ると、俺たちが出てきた建物の屋根に、弓をいっぱいに引いたタリアの姿があった。


「シャット!!」


 ———!!


 俺は咄嗟に白幻素の壁を俺たちの前に形成する。風を切り裂く音と共に青い矢が壁を突き刺さる。


(あれは!!)


 よく見ると、街の中心に一本の水柱が立っていた。その上にはルーが何やら手を動かしてタリア達に指示を出している。


(そういうことか。どうりで最初俺たちの場所がわかった訳だな)


 俺はすぐにルナを連れて道沿いに走り出す。タリアも屋根の上を渡りながら着いてくる。道の左側は透明な壁があるので逃げ場が無い。右側はタリアが上から狙ってきている。


 俺はタリアが矢を放つたびに白幻素で防いでいるが、このまま防ぎ続けることは難しい。逃げようにも、ルーの監視があるせいで俺たちの位置はすぐにバレてしまう。さらにサルサの姿が見えないのが不安要素としてある。


「はぁ、はぁ、ルナ、俺がタリアを足止めしておく。その間にルーを倒してくれないか」


「え!?そ、そんなの無理ですよ!サルサさんだってまだどこにいるかもわからないのに!」


「あら?楽しくおしゃべりかな?随分と余裕があるんだね!」


「———!危ない!」


 タリアが跳躍して、俺たちの前に立つと同時に矢を放つ。ルナがそれを杖で弾き飛ばした」


「……わぉ。やるねルナちゃん」


「ほらなルナ、お前は強い。ひとりでもできるはずだ」


「……わかりました。先輩、絶対やられないで下さいよ!」


 ルナはそう言って建物の屋根へと跳躍する。


「私が行かせるとでも?」


 タリアは弓を素早く構えてルナを狙う。俺はそんなタリアに雷弾を三発叩き込んだ。タリアは弓から指を離して三発全て回避する。その間に、足の速いルナはルーの方へと向かっていった。 


「……アゼンさんが攻撃し始めたという噂は本当だったんですね」


「勝つために必要だからな」


「アゼンさんひとりで私を食い止める気でいるようですが、あんまり舐めるとすぐにやられちゃいますよ?」


「舐めてなんかないさ。少なくとも、俺は今回"本を開き続ける"。君だって、超弩錨(ドレッドアンカー)を使っていないじゃないか」


「私のアレには色々と制約があるんですよ。それに、次無断で使ったらお母さんに殺される……」


「あはは、流石にそんなことはしないだろ」


「……少し喋りすぎましたね」


 そう言って、タリアは再び弓を構える。どうやら時間稼ぎもここまでのようだ。俺も本を開き、黒鉄をタリアに向ける。


 遠くの爆発音を合図に、俺たちは同時に攻撃をした。


 俺は矢を白幻素で受け止め、タリアはかわしつつ再び屋根の上へと飛び爆発音のした方向へと走り出す。俺もすぐに追いかけて横に並んだ。


 道を挟んだ屋根の上で、矢と雷弾が飛び交う。走りながらだというのにタリアの狙いは正確で、こちらの撃った雷弾ですら的確に撃ち落としていく。矢は掠っただけでもスーツの幻素量をごそっと削っていった。


 しかしタリアのほうも、雷弾の感電による身体の痺れで動きが鈍くなってきている。


(よし、このままならタリアを足止めできる。ルナの方は大丈夫だろうか……?)


 俺は街の中心に一瞬目を向ける。水柱が無くなっていることを確認し、すぐに視線を戻すと、向こう側の建物にいたはずのタリアが目の前にいた。


「よそ見は厳禁です!!」


 タリアの回転蹴りが俺の顔に直撃する。俺はボールのように弾みながら屋根の上で吹き飛ばされる。


「……う、格闘センスまであるのかよ……」


 顔の骨にヒビが入ったのではと疑いたくなるほど痛い。これがもしあごのあたりだったら絶対に意識を失っていただろう。痛みに悶える間も無く、タリアはその後も追撃の手を緩めない。


 青い矢が一瞬にして五発俺の視界に現れた。俺は白幻素を広範囲に展開して矢を防ぎつつ、その白い壁をタリアに押しつけるようにして前に動かした。


 俺はその間に下へと降りて、タリアがいる建物の下まで全速力で走る。耳を澄まし、タリアが真上にいることを確認してから、"本を閉じる"。



「シャット」



 その瞬間、俺たちがいた建物が一瞬にして消え去った。


「え!?」


 落下してくるタリアに、雷弾を何発か撃つ。タリアは攻撃を受けながらも、すぐに真下に大量の水を流して俺をその場から押し出した。


 すぐに立ち上がり建物があった場所を見るが、タリアの姿はない。あれだけの弾を食らったのだ。恐らく雷弾での痺れを回復させるために何処かに身を隠しているのだろう。俺は再び屋根の上に登って、ルナたちの戦闘音のする方向へと走り出す。



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