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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
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第45節 後輩との再会

 俺たちは今、昼食を食べるために訓練場の周りにある屋台のお祭りに参加している。


 一応学校内の行事ということもあり、生徒が屋台を出しているところもあるが、殆どが"ブック"と取引している企業の飲食店の屋台である。


 ジャンキーな食べ物はもちろん、各地の郷土料理が手軽に食べられるので毎年多くの生徒が楽しみにしているお祭りだ。


 俺たちはぐるっと一周してから何を買うか決めることにした。


「ソルモンタンに白身魚のフライ……あ!私の故郷の料理があります!」


「お、じゃあそれ買うのか?」


「はい!そうします!」


「私もそれにしようかな」


「よし、ルナとアオは決まったな。シオンはどうする?もうそろそろで一周するけど」


「まだ決めてないです。どれも美味しそうで……」


 シオンは眼をギラギラさせながら屋台を見渡している。シオンのやつ、まさか全部の屋台を回る気なのか……?1時間後にはアオとルナの試合が始まるから流石に全部は無理だ。


「シオン、俺の行きたい屋台に行ってみないか?後輩だった奴らが開いてるんだ」


「後輩ですか、だったら行くべきですね。私もそこにします」


「じゃあ決まりだな。すぐに買いに———


「先輩、ルナとアオとは別の屋台なので集合場所を決めた方がいいと思います」


「た、確かに」


「飲食ブースがあったと思います。そこはどうですか?」


「けどアオちゃん、あそこ今めちゃくちゃ人がいたよ。私たち時間がないからすぐに食べれそうな場所がいいんじゃない?」


「人が少ない場所……」


 うーん……


 みんな腕を組んで悩み始めてしまっている。この中では俺が一番この学園での生活が長いので、年長者としてなんとか良い案を出したいところだ。俺は目を瞑り、頭の中で学園の見取り図を広げて必死に考える。


(あ……)


 俺はふと、過去の記憶を思い出した。


(あの場所なら……!)


「みんな、俺に名案がある。ここから近くて人も少ない場所が存在するぞ」


「え!どこですか?」


「それは後のお楽しみだ。とりあえず集合場所は本校舎の第3入り口前にしよう」


「わかりました。先輩を信じます」


「まぁ、今のところアゼン先輩の案しかないですし、私も賛成します」


「アオちゃんが賛成なら私も賛成です!」


「それじゃあ、早く買って集まろうぜ」


 こうして俺たちはそれぞれの行きたい屋台に向かうことになった。



 ▲▽▲▽▲



 後輩がやっている屋台に着くと、そこには元気いっぱいな声で客引きをしている青年がいた。


「よってらっしゃい!みてらっしゃい!いつも皆さんの胃袋を掴む"給食部"の特別な料理を売ってるよー!」


 その客引きのお陰か屋台の前には道を塞ぐほどの行列が出来上がっている。屋台の中を見てみると、見知った顔が忙しそうにフライパンをかき混ぜていた。


「先輩、彼らが後輩の方々ですか?」


「ああそうだ。彼らは給食部に所属していて、俺はたまに料理を教えに行っていたんだ。結構繁盛してるようだし、このまま並んだら時間がないかもな……ちょっと挨拶だけして他の屋台にするか」


「わかりました。先輩がそれでいいなら」


 邪魔にならないように屋台の裏側にまわって、いかにも暇そうに椅子に座っている"副部長"に声をかけた。


「よぉ、いつも通りサボってるね副部長」


「失敬な!サボってるわけじゃない!俺は後ろから指示を……って、アゼンさんじゃないっすか!?」


 彼は俺に気づくと、青い髪に深々とかぶっていたコック帽をとって椅子から立ち上がった。


「久しぶりっすね!元気にしてたっすか?」


「ああ、君も変わらないようで安心した。……あ、そうだ、紹介してなかった、シオン、こいつが俺の後輩で給食部の副部長、フレンチだ」


「初めまして、シオンです。アゼン先輩とは同じ寮で暮らしています」


「……へ?」


「……?」


 シオンが自己紹介をすると、フレンチはきょとんとした顔でシオンをまじまじと見つめている。


「……先輩、私何か変なこと言いましたか?」


「いや、何も」


「あ、あ、あ、アゼンさんが、、女子と会話してるだとーーー!?」


 フレンチが突然大きな声で叫び散らかす。その声に反応して丁度客を捌き終えた他の部員が俺たちのところにやってきた。


「フレンチ先輩うるさいですよ、あ!アゼン先輩!来てたんですね!」


 小柄で赤い髪を後ろで束ねている少女が、トマトの刺繍が入ったエプロンを脱ぎながらこちらに笑顔で挨拶をしてくる。

 彼女の名前はイリアン。給食部の食材担当で、給食で使う食材の調達を行なっている。今は確か二年生になっているはずだ。


「久しぶりだなイリアン」


「……へ?」


 イリアンはなぜか俺の声を聞いた瞬間、フレンチと同じ反応し出す。するとフレンチは共感したかのように頷いた。


「だよなぁイリアン、お前も驚いただろ?」


「はい……まさか返事をしてくれるなんて……しかも私の名前覚えててくれたんですね……」


「……先輩、一体給食部の方々に何をしたんですか?」


「え、いや俺は別になにもしてないんだが……」


「逆に何もしなさすぎだったんですよ」


 後ろから突然呆れ声がしたので振り返ると、さっきまで屋台の前で客引きをしていた青年、もといワクの姿があった。


「シオンさん?でしたっけ?アゼンさん昔は女子と全然話そうとしなくて、料理を教えてもらう時にも、隣にいたヨカさんが通訳しなくちゃいけなかったんです。まぁ僕ら男子陣には何も害はなかったんですけど。女子は気の毒でしたね」


「ワクの言う通りです!大変だったんですよシオンさん!もちろん料理を教えて貰えるのでありがたかったですけど、ヨカ先輩の通訳が意味不明すぎて何度食材を無駄にしたことか……」


 給食部の切実な愚痴をひと通り聴き終えると、シオンが『まじかこいつ……』と言いたげな顔でこちらを見ている。


(まずい!今シオンの中で俺の株が大暴落している!)


「いやーこれには事情があったというかーなんというかー……その、すみませんでした」


(無理!いまさら何を言っても過去の事実は変えられない!)


 女子と喋らなかったのは俺の人生の中で1、2を争う黒歴史なのでこれ以上深掘りされないことを祈りつつ、俺は観念して頭を下げた。


「頭を上げてください。私たちは全員、会話してくれなかったことよりもアゼン先輩への感謝の方がずっと大きいですよ」


「……ありがとう、イリアン」


「さぁ!丸く収まったところで!お二人さん!まさかここに来たのに何も食べずに帰るつもりじゃないですよね?」


 急にテンションが上がったワクが、眼をキラキラさせながらこちらを見つめてくる。


「そ、それじゃあ、折角だしここで何か買おうかな」


 挨拶だけして帰るつもりだったが、過去のことに関して大きな負い目があるので買わないわけにはいかない。


「いいんですか?私たち並んでないんですけど」


「大丈夫ですよ!暇にしてる副部長が作ってくれるので」


「おいこら!俺はちゃんと指示をして———


「じゃあ僕は客引きに戻りますね〜」


「あ、私も食材の補充をしてきます!」


 こうしてワクとイリアンはフレンチを一人残して自分の仕事に戻っていった。


「……」


「……おまかせ定食1つ」


「私は4つでお願いします」


「……了解っす」


 俺たちはフレンチの華麗なフライパン捌きを見物した後、出来上がった料理片手に集合場所へと走って向かった。



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