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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
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第44節 蛇を喰らう大木

《おおっとーー!!?これはまずいです!シオンさんがサンドームに飲み込まれてしまいました!木の球体ごとひと口でペロリです!これはすぐにでもテストを中断した方が良いのではないのでしょうか!?》


《……先輩、今監督官から連絡がありました。『シオンの幻素量に影響は出ていないので引き続きテストを続行する』だそうです》


《え!?続行!?これでシオンさんに何かあったら責任取れるんですか教師の皆さん!》


《最終的な責任の所在は生徒会にありますよ》


《……なんてこったい》



「せ、せ、先輩!!師匠が食べられちゃいました!どうしましょう……い、今すぐ助けに行かなくちゃ!」


「お、おい!まてまてまて!」


 俺は観客席から飛び出そうとしているルナを必死に引き留める。ルナは振り返ると今に泣きそうな顔でこちらを睨む。


「なんで止めるんですか!」


「お前が行ってもサンドームには勝てないだろ。それにほら、モニターを見ろ」


 俺はそう言いながらモニターを指差す。


「幻素量が減ってない。シオンがまだ無事な証拠だ」


()()じゃないですか!今無事でも師匠が危険な状況にいるのは変わりませんよ!」


「ああ、その通りだ。だから、シオンの幻素量がたとえ1でも減るようであれば、俺がサンドームを"消し去る"」


「……わかりました。先輩を信じます」


 そう言ってルナは自分の席に大人しく座った。勢いで消し去るなんて言ってしまったが、実際は俺が勝てるかどうかは五分五分だ。なにより、テスト中に無断で乱入したりしたら間違いなく評価が落ちる。そうなればセンテンスへの道のりはより険しいものになるだろう。


 それでも、"友達"のためであれば、それでも構わない。


 シオンを飲み込んだサンドームは消化をしようと身体を左右に動かしている。するとその動きが突然止まった。


《ん?サンドームが微動だにしなくなりました!監督官が遂にテスト中止の決断をしたのでしょうか!?》


《いえ、監督官からそのような連絡はありません》


《え、そうなのサーミちゃん?だったらどうして……》



 ———グォォォオオオアアァァ



 突然、サンドームの叫びが訓練場に響き渡った。それは勝利の雄叫びではなく、まるで何かに苦しんでいるかのような声だった。


 するとサンドームの身体が痙攣し始める。それと同時に脈打つ血管のようなものが身体中に張り巡られていく。


 そのあとに見た光景は、この世のものとは思えなかった。


 ———バン


 破裂した。


 サンドームの身体が爆発し、巨大な大量の"根"が砂漠に侵食していく。頭の口からは木の幹が生えていき、やがてそこから枝が伸び、緑色の見たこともないような模様の葉をつけながら訓練場の空を覆っていく。


 俺は、俺たちは、この光景を見たことがある。そうこれは、シオンがアオとの一騎打ちのときに見せた、全てを呑み込む緑の"種"。


《こ、こ、こ、これが!皆さんが口々に噂していた"大木"ですか!?なんと巨大で美しいのでしょうか!?サンドームはなす術もなく残骸へと化し、それにへばりつくように根が伸ています!まるで神話の光景を目の当たりにしているかのようです!肝心のシオンさんはどこにいるのでしょうか!?皆さん拍手喝采を彼女に送りましょう!!》


 ガリエルの放送とともに、観客が一斉に声を上げ、重厚な拍手が鳴り響く。他の台でもテストは終わったらしく、今までテストを受けていた生徒も空を見上げて口を開けている。


「シオンのやつ、まさかもう一度あの技を使うなんてな。今まで球体に閉じこもってたのはこれをするためか」


「ううう、よかったです師匠、、無事でよかったです、、」


「ちょっとルナ、なに泣いているんですか」


「へ!?し、師匠!?」


 俺とルナが驚いて後ろに振り向くと、そこには早々にスーツから制服に着替えて、何食わぬ顔でシオンが立っていた。


「ルナ、まさか私が負けると思っていたんですか?」


「い、いえ!まったく考えておりません!」


「ルナのやつ、シオンがサンドームに飲み込まれたとき真っ先に助けに行こうとしてたぞ」


「ちょっと先輩!それは言わないでください!」


「まったく、私があんな蛇ごときにやられるわけないじゃないですか。……まぁでも、心配してくれてありがとうございます、ルナ」


「し、師匠がお礼を言うなんて……今日は雨が降るかもです……」


 ルナがそう言うと、シオンは無言でルナを頭を叩いた。


「あ痛!!」


「そういえばシオン、ここにくる途中でアオの姿を見ていないか?飲み物を買いに行ったっきり戻ってこないんだ」


「私ならここにいますよ」


「うわ!?」


 アオはいつの間にか俺の横で飲み物片手に座っていた。


「いつからそこにいたんだ?」


「ちょうどシオンさんの試合が終わった頃です。訓練場の屋台が思ったほどよりも多くて何を買おうか悩んでいたんです。ランチ系の食べ物も売っていたので、みんなで食べにいきませんか?」


「そうですね。ちょうどお昼ですし、私もお腹が空いていたところです」


「けど次のテストが1時間後だろ?それにはアオとルナが出るわけだし、遅刻しないためにもテストが終わってから——


「ダメです!師匠が食べにいきたいって言ってるんだから食べにいくんです!それに空腹じゃ勝てる相手にも勝て無くなってしまいます!」


「……はぁ、しょうがない。俺も料理の研究がしたかったしな」


「それじゃあ決まりですね。屋台が並んでいるところには私が案内します」


 こうして、俺たちは腹ごしらえをしに訓練場の外へと足を運んでいった。



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