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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
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第42節 チャンネルはそのままで!

 第一テストが開始し、台の上の生徒たちが魔獣に攻撃を仕掛け始める。他の生徒の闘いも気になるが、まずはシオンの応援をするためにシオンがいる台の方へと目を向けた。


 シオンは砂漠の上で微動だにせずに立っている。恐らく敵がどう動くか見極めようとしているのだろう。しかしサンドームがいるはずの砂漠は砂一つ動いていない。今回の砂漠ステージは底が深いので中々サンドームを見つけることはできなのだ。他の台では戦闘が始まっている中、シオンの台だけが異様な静寂に包まれている。


《開始から既に3分が経過しました!脱落者はまだでていませんが、皆さん思いのほか苦戦しているようです!ですがこの場で唯一のハード選択者であるシオンさんの台では、未だに何も起きていません!サーミちゃん、この状況をどう読み取りますか?》


《そうですね、サンドームの希少性は生息地が危険であることと、発見が難しい点にあります。今回のステージはその特性を活かせるようになっているので、どうやって砂漠から引きずり出すかが鍵になってくると思います》


 放送の方もシオンの台に注目しているようだ。すると今まで動かなかったシオンが杖型のルジュナを地面に突き刺した。

 テストが開始してから初めて行動したが、再びその状態でシオンの動きが止まる。


 すると、突き刺した杖を中心として、まるで波紋のように砂が脈打ち始めた。それと同時にシオンの立っている場所の下から段々と何かが近づく音が聞こえてくる。


 そしてシオンが杖を抜いて前方に大きく飛ぶと、シオンがいた場所から茶色い体をもった巨大な蛇が口を開けて飛び出してきた。蛇は空高く頭を突き出したが、それでも体の半分はまだ砂の中に埋もれている。


《おおっと!!サンドームがようやく姿を現しました!シオンさんは一体何をしたのでしょうか!?》


 出てきたサンドームの体には太い根のようなものが巻き付いている。シオンは砂の中に根を張り巡らせることによってヤツの居場所を突き止めたのだ。


 サンドームは体を振り回して根を引き剥がしていく。シオンは杖に緑幻素を溜めると、それをサンドームに向けて放出した。すると絡まっていた根が再び成長し始めてヤツの体に絡まっていく。


「形態変性 弓」


 シオンはルジュナを杖型から弓型に姿を変えて弦を引くとそこに緑幻素の矢が構成されていく。そして勢いよく矢を放つとサンドームの腹に重々しい音と共に直撃した。


 サンドームは叫びながら砂の中に戻ろうとするが、シオンによって放たれる第2、第3の矢が逃がすまいと頭に突き刺さる。サンドームは砂煙をあげながら後ろに倒れた。


《シオンさんの度重なる攻撃でサンドームが倒れました!これは早期決着がつきそうです!!》


《いえ、サンドームは耐久力があるので並大抵の攻撃では歯が立たないです》


《なるほど!サーミちゃん、物知りですね!》


《解説ですから。それに先輩の持ってる資料にも書いてありますよ》



「師匠、追撃しませんね」


「多分不意撃ちを警戒してるんだと思うぞ。放送の言っていることが真実なら、サンドームはまだ動けるからな」


「けど師匠はそのことを知らないですよね?放送は聞こえてないはずですし」


「……直感かな?」


 俺はそう言ってルナに苦笑いに似た表情を見せたが、ルナは案外納得した様子でシオンを見つめていた。俺もシオンに目を向けた瞬間、


 ———ドン!


 シオンの体が突然真横に吹っ飛ばされた。シオンはそのまま透明な壁に直撃し、スーツの幻素が少し放出した。俺たちは何が起きたのかわからなかったが、俺たちよりも高い場所にいる放送部の2人はその顛末を見ていたようだ。


《なんということでしょう!シオンさんの横の地面から突然サンドームの尻尾らしきものが出現し、シオンさんを弾き飛ばしてしまいました!サンドームの頭とシオンさんの距離は結構ありましたが、まさかここまで長いとは!》


《シオンさんの残りの幻素量はモニターに表示されているとおり、80にまで減りました。まだあるとはいえ、身体への衝撃を考えると中々痛いダメージです》


 シオンはよろよろと立ち上がり、弓を構えてサンドームを探す。だがサンドームは既に砂漠の中に消えてしまっていた。

 また何処から現れるのか、神経を研ぎ澄ましていると、突然砂漠全体から"茶色の幻素"が湧き出てきた。


《これは一体何なんだ!?突然茶色幻素が台を埋め尽くそうとしています!!》


《恐らくサンドームの背中にある幻素放出器官から出されているものだと思います。魔獣であるなら必ず持っているものですが、あれほどの巨体となると放出する幻素の量は物凄い数になりますね》


 さらに、その茶色幻素は4つに集まっていき、それは巨大な砂嵐を形成していく。


 やがて砂嵐は轟音と共にシオンを取り囲んだ。



 一方放送室では、ガリエルが興奮した様子でマイクを握っている。


「シオンさんいきなり大ピンチ!この状況をどうやって乗り切るのでしょうか!?」


 するとサーミの横に置いてあった電話が鳴り出した。


「先輩、生徒会から連絡が……」


「もう!いいところだったのに、もしもし……え?ちょっとシオンを贔屓しすぎだ?他の生徒の実況もしろ?……むむむ、一応してはいるんですが……ええい!こうなったら他の部員も総動員して全部の台の放送をやろう!サーミちゃん!今すぐ臨時放送室とチャンネルの準備を手配して!あ、勿論シオンさんの実況は僕でお願い!」


「先輩、流石に無理です。それに見ている人がどの放送を聴けばいいかわからなくなります」


「それは僕の"能力"でなんとかするよ!それにサーミちゃん、これは部員同士の戦いでもあるんだ。次期部長は最も人気のある放送部員に決まる。他の部員にとってもこれはチャンスになるはずだよ!」


「……はぁ、わかりました。準備してきます」


 サーミは観念した様子で電話をしながら放送室を出て行った。


《皆さんお知らせします!これから台ごとに焦点を当てた放送が開始します!皆さんが応援したい、観戦したいと思う台を携帯で"アポカリプスチャンネル"に呟いてください!僕が死ぬ気で一人一人に放送を繋ぎます!勿論『僕の放送が聴きたい!』という方は、チャンネルはそのままで!》



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