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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
42/105

第39節 昔話

 俺の予想外の出来事が目の前で起きていた。


 先程まで有利に戦いをしていたルナが、一瞬にして氷漬けにされている。透明な壁が消えると、俺は走って彼女たちの元に向かった。


「ルナ、大丈夫か?」


「ゔゔ……ざぶい……」


「ごめんねルナ、今お湯を持ってくるね」


 そう言ってアオは体に冷気を纏わせたまま台から降りて校舎の方へと向かう。アオの前にいた生徒は皆寒さに震えてながら彼女から離れるようにして道を開けた。


「そういえば、ルナはともかく、シオンはなんでアオが本気を出してないって分かったんだ?」


「実は前に私が彼女と闘ったとき、私の幻素量は"一回"の技でほぼ全て削られたんです。アレはぎりぎりの勝負でした」


「なるほどな。流石はクラウズといったところか」


「そ、それだけじゃないですよ」


 ルナがくしゃみをしながらヨロヨロと立ち上がる。


「アオちゃんは青幻素の中でも珍しい技を使うんです。アオちゃんのお母さん曰く、遺伝だとかなんとか」


「……遺伝ですか」


「中々興味深いな。今度試合を申し込んでみるか」


 しばらくして、アオがバケツいっぱいにお湯を持ってきてルナの頭上でひっくり返した。


「あっち!あっち!だけど生き返る〜〜!」


「なんか慣れてるな」


「はい!昔からアオちゃんと喧嘩するときはいつも私が氷になって、慌ててアオちゃんが溶かす!これを繰り返してましたから!」


「……とんでもねえ喧嘩だ」


「だけどルナは本当に成長してるから、もしかしたら私がボコボコにされる日が来るかもね」


「そのときは私の蔓のお尻ぺんぺん攻撃で倒してあげる!」


「ふふ、なんですか、お尻ぺんぺんて」


 シオンが珍しく笑ったので、俺もつられて口がニヤける。シオンはそれを見るとすぐに真顔に戻ってしまった。残念に思いつつ、そろそろ3年生が使う時間なので俺たちは更衣室に向かった。



 ▲▽▲▽▲



 更衣室は訓練場の客席の下にある部屋の中で1番大きい。しかしそれでも学年交代の節目になるとそれなりに混むものだ。


 更衣室の扉を開けると、次に使う3年生の生徒が皆スーツに着替えようとしていた。俺以外の1年生は全員着替え終わっていたらしく、肌色と紺色の集団の中ひとりだけ真っ白なスーツを着ているとジロジロと視線を感じる。俺は筋肉質な男たちに挟まれながらせかせかと制服に着替えた。


 更衣室を出て、女子更衣室の近くでシオンたちが出てくるのを待つ。白いスーツを着た3年生が各々の武器を片手に扉から出てくるが、シオンたちが出てくる気配はない。


 暇なので自分の髪の毛をいじって待っていると、廊下の奥から見知った人が歩いてくる。シオンと同じくらい仏頂面で眼光が鋭く背が高い女子生徒だ。歩くたびに顔の横で三つ編みにした黄色の髪がゆらゆらと揺れている。


 彼女の名前はエミリ。昔俺の寮にいた人物で、今は別の寮で過ごしている。確か"生徒会"の副会長を務めているはずだ。


 エミリも扉の横にいる俺の存在に気がつき、一瞬目が合うがすぐに扉の方に向いて中に入ってしまった。


 俺たちの確執がそう簡単に払拭されることはないと理解はしているが、元同僚に無視されるのはやはり辛い。それでも、俺が何かを言う権利はないし、行動する資格もない。


「あ、先輩!すいません待たせました!」


 シオンたちが扉から出てくる。


「いや、俺も今着替え終わったところだ」


「それじゃあこの後どうしますか?」


「そうだなぁ……時間も丁度いいし、夕食の買い出しをしてそのまま俺たちの寮に行くか。アオとルナも、良かったら来るか?」


「え!いいんですか!?やったー!!久しぶりだなぁ先輩のご飯!アオちゃんはどうする?」


「ルナが行くなら私も行くよ。アゼン先輩、ありがとうございます」


「おうよ!みんな楽しみにしとけよ!今日は決戦前夜にふさわしい夕食にするつもりだからな!」


「肉は絶対に入れてくださいよ」


「了解だ。それじゃあ行くか」


 こうして俺たちは夕食の買い出しに向かうべく、訓練場の外へと続く廊下を歩き始める。廊下を抜けると、校舎に繋がる外廊下が見えてきた。俺はふと、昔のことを思い出す。


 ……今日はあの料理にしよう、彼女が好きだった、ミートパイに。そんなことを考えながら、俺は晴天の空の下を歩き始めた。


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