第37節 訓練中2
透明な壁が消えると、俺を縛っていた蔓も消えて、俺は台の上に落ちた。大剣で薙ぎ払われた衝撃で全身が痛んだが、幸いにもスーツが緑幻素を出して身体を回復してくれている。
俺は老人のように腰に手を当てながらシオンのもとに向かった。
「やっぱりシオンには勝てないな」
「いえ、今回は私もかなり危なかったです。次戦って勝てるかどうかわからないほどに」
「まあ俺たちはチームだからあまり勝ち負けを意識する必要はないけどな」
「負けた言い訳ですか?」
「ぐ……そうとも言う」
「次はアオとルナの試合ですね」
「そうだな。早く台の下に降りるか」
俺たちが台の下に降りた時、アオとルナが真剣な眼差し俺たちのほうに向かってくる。
「お疲れ様です!師匠!先輩!」
「ああ、ルナもアオも頑張れよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、行こうか、ルナ」
「うん!本気で戦ってね!」
「もちろん」
ルナは杖を、アオは弓を片手に台の上に登っていく。周りの観客は減ったが、それでも彼女たちのことを応援している生徒はいた。俺たちも台から離れて2人の試合を見守る。
2人が台の端に移動すると、例の如く透明な壁が現れて、アナウンスが鳴り響く。
先制攻撃をしたのはアオだった。
「飛来する氷爆撃」
前にシオンに放った技を速攻で繰り出す。空高く舞い上がった無数の矢はやがて鋭い氷の矢となりルナの頭上に降り注がれる。
模擬戦闘訓練のときよりも台が小さいため、ルナに逃げ場が少ない。しかし、彼女は杖を宙に投げると、小柄な体を俊敏に動かして矢を紙一重で躱していく。
全ての矢を躱し、落ちてきた杖を手に取った。その素晴らしい身のこなしに周りの観客からは感嘆の声がチラホラ聞こえてくる。
「やるね、ルナ」
「アオちゃんは最初は絶対その攻撃をするってわかってたから」
「ふふ、じゃあ、ルナにはもっと踊ってもらおうかな」
アオは弓を構えると、目にも止まらぬ速さで矢を放っていく。弓を引き、そこに青幻素で矢を生成して弦を離す。これを瞬時に繰り返して、連射型ロングボウに勝るとも劣らない連射を実現している。
並大抵の弓使いにはできない芸当だ。
ルナは必死に避けるが着実に矢は当たり彼女のスーツの幻素を減らしていく。アオの攻撃が終わる頃には幻素の量は残り60ぐらいにまで減っていた。
「どう?私も結構成長したでしょ」
「ぐぬぬ……さすがだねアオちゃん。いつも私の予想を超えてきちゃう。だけど、成長してるのはアオちゃんだけじゃないよ!!」
ルナは深呼吸をして、杖を空に捧げるように持ち、目を瞑る。
「これが私の2つ目の"技"だよ!」
——跳弾の闘技場!!
ルナが叫ぶと、台の四隅から太い茎のような長い柱が出現し、それらを繋ぐようにして蔓が柱から伸びていく。蔓は透明な壁に沿って横に平行に何本も伸びて彼女たちを囲んだ。
蔓の檻と壁には隙間が存在しているようだ。
その光景はさっきシオンが放った技に似ているが、シオンのときのようにびっしりと囲んでいる訳ではない。ルナは少ない幻素量で出来る限り彼女の技を再現したのだ。
その後、ルナは杖に緑幻素を纏わせると、アオに向かって突進する。アオは驚きつつも冷静に矢を放っていく。ルナは矢を杖で弾きながらどんどんとアオに近づいていく。
「———!」
アオはルナからの攻撃に備えて身構えるが、ルナはアオを攻撃することなく通り過ぎて壁の方へと突き進んでいく。
するとルナは蔓に勢いよく飛び込むと、蔓はバネのように伸びて瞬時に収縮する。ルナはその弾力を利用して再びアオに高速で突進した。アオは弓を引く隙もなく、ルナによって杖で殴られた。
「く……」
それだけでは終わらず、ルナは勢いそのままに反対側の蔓へと飛んでいき、さっきと同じように跳ねてアオに突進する。
アオは避けることもできずに再び攻撃を受ける。ルナはそのあともアオを挟むようにして飛び続け、さらに1回跳ねるごとに速さは増していく。
ルナは自らの幻素をほぼ全て周りの蔓や柱に使用しているので杖に纏っている緑幻素だけでは大したダメージにはならないが、それでも素早く、何回も打撃を与えることでアオのスーツから徐々に幻素が減っていった。
だが、このまま無防備にずっと攻撃を受け続けるほどアオは弱くはない。ルナが突進してくる一瞬のタイミングを狙ってルナを空高く蹴り上げる。
しかしルナは杖に纏っていた緑幻素で4つ柱の先端から蔓を交差するように伸ばして、空中で体をひねり、交差された点に足をもっていく。
蹴られた勢いで蔓は足によって伸ばされ、収縮し、ルナを地面に向かって射出する。
———ドン!
アオは咄嗟に弓でルナの攻撃を防ぐが、ルナに押し倒されてしまった。アオの弓とルナの杖が火花をあげながら拮抗している。
「アオちゃん!これが私の成長だよ!」
「……ほんと、昔から身体能力お化けだと思ってたけど、まさかここまでだとはね……」
2人は互いに見つめ合っている。その目には相手に勝ちたいという闘志があり、口元には笑みが浮かんでいた。




