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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
38/105

第36節 訓練中

 アナウンスが鳴り響いた瞬間、シオンが得意の大木を俺に投げつけてくる。俺はすかさず本を開き白幻素で打ち消した。シオンにとっても、俺にとっても、これはほんの挨拶程度のものだ。シオンはルジュナをこちらに向けると、俺の視界が一瞬にして緑色になった。


 正確には、俺の視界は大量の葉に覆われたのだ。この葉に攻撃力はない。だが、次にくる攻撃の位置を隠すには十分な効力がある。


 右か?左か?それとも上か?


 俺は神経を研ぎ澄まして吹き荒れる葉の壁を見つめる。


終わりなき悔根(ジュリネ・ゾバーニャ)


 シオンがそう呟くと、葉の壁から俺を囲むようにして鋭い根が襲いかかってくる。これはシオンが前に使っていた技で、避けたとしても俺を貫くまで何度でも再生して追いかけてくるだろう。だが、俺には対処法がある。


「———!」


 俺は真っ直ぐ突進して根の初撃をかわし、シオンに向かって素早く間合いを詰めた。これならもし根が俺を追いかけるのならシオンにも危険が及ぶ可能性がある。シオンは根をルジュナから切り離し俺から距離をとろうとする。


 俺は黒鉄を構えてシオンめがけて"炎弾"を放つ。シオンは大きな硬い葉の盾で攻撃を防ごうとするが、炎弾はそれを燃やしながら貫通してシオンに直撃する。


 シオンのスーツから幻素が少し放出した。


「……まさか炎の攻撃があるとは思いませんでした」


「俺の友達に作ってもらったんだ。シオンのアドレスどおり、攻撃の種類を増やそうと思ってな」


「なるほど。では射撃対決をしましょうか。形態変形 弓」


 シオンはそう言うと、ルジュナの形を変形させ、シオンの背と同じくらいの大きさの弓を作り出した。シオンが弓を引くと、緑幻素が凝縮して矢が形成されていく。俺は後ろへ距離をとり黒鉄を構える。


 俺たちは互いに動かずに相手の隙を待つ。



 ———シュン


 シオンが矢を放つ。俺も瞬時に反応して炎弾を撃った。矢と炎弾が衝突し、矢が炎弾を貫いて俺の頬を掠めた。シオンの矢の方が幻素濃度が高かったのだ。シオンは瞬く間に次の矢を放ってきている。あの大きな弓でこれほどの連射ができるのかと驚きつつ俺は矢を避けながら炎弾を撃ち続けた。


 俺たちは白い正方形の上を縦横無尽に走り回りながら戦闘を行なっている。その様子は他の1年生の生徒の目にも留まって、台の周りには多くの観客がいた。


 矢と炎弾が飛び交ったが、攻撃を多く受けたのは俺だった。だがシオンも無傷ではない。俺たちの幻素量が互いに50近くになったころ、シオンが突然動きを止めてルジュナの形を再び変形させていく。


「形態変性 剣」


 ルジュナは巨大な大剣へと姿を変えた。それだけではなく、大剣の柄から細い蔓のようなものが大量に伸びてシオンの右腕に巻き付いていく。


 シオンは大剣を引きずりながら俺に迫ってきた。シオンの動きは前よりも遅くなっているが、俺の放つ炎弾は器用に避けている。


(このままじゃまずい)


 そう思った俺は白幻素を体に纏わせて防御を固める。シオンは着実に俺との距離を詰めて、俺の体がシオンの間合いに入った瞬間、俺は横に吹き飛ばされていた。


「———!」


 俺は透明な壁にぶつかり、そのまま倒れ込んだ。白幻素を纏っていたおかげで幻素の放出は少し抑えられたが、激痛が身体全体に広がっている。俺はなんとか立ち上がり、シオンと向き合った。


「大丈夫ですか、先輩」


「はは、試合が終わったらな。それまでは苦痛だよ、ちくしょう」


「すいません、それでも勝たせてもらいます」


 そう言うと、シオンは再び走り出し俺に近づいてくる。俺は少しでも距離をとろうとするが身体がうまく動かない。諦めて立ち止まり、黒鉄を構える。


(あくまで予想だが……やるしかない)


 俺は無駄撃ちをせずに右腕だけを注意深く狙う。シオンが大剣を振りかぶり、右腕が止まった瞬間、俺は炎弾を右腕に撃ち込んだ。炎弾は命中し蔓を燃やしていく。


 するとシオンは大剣を支えられずに落としてしまう。俺はすかさず炎弾をシオンに放った。シオンは攻撃を受けながらルジュナを大剣から杖の形に戻して俺から距離をとる。


「……流石です。先輩」


「勘が当たっただけだ。それよりシオン、残りの幻素量はどれくらいだ?」


「試合相手に教えるわけないでしょう?」


「だよな。じゃあ当ててやるよ……15くらいだな」


「……」


 シオンは表情に出ないようにしていたが、眼がさりげなく横を向いていた。


「図星だな」


「先輩も同じくらいのはずです」


「まあそうなんだがな」


「だったら、次の一撃で終わりにします」


 シオンはルジュナを片手に持つと、ねじり合っていた根の先端が段々と鋭くなり、葉はとれて細長い棒のような形になる。


「形態変性 槍」


 シオンは槍を右腕に持って大剣のときと同じように蔓が巻き付いていく。


 俺は黒鉄を構えて再び炎弾を右腕に撃ち込む。しかしその瞬間、シオンは空へと跳躍していた。


 俺は驚いてシオンを見ると、シオンの両脚にも蔓が巻きついていたことに気がついた。俺がもっと早く気がつくべきだったと反省する間もなく、シオンは俺めがけて槍を高速で投げつけた。


「シャット!!」


 俺は咄嗟に本を掲げて大量の白幻素を放出する。白幻素は槍を覆うが直ぐに突き破ってしまった。それでも避けるだけの時間は稼ぐことはでき、俺は間一髪で体を捻り槍を避ける。


 俺は体勢を整えて空中にいるシオンめがけて黒鉄を構える。俺はそのとき、シオンの口が微かに動くのを見た。



斬悔の象徴(サス・テレナ)



 その瞬間、台に突き刺さっていたルジュナから巨大で夥しい量の蔓が全方位に広がっていく。それは壁にすらもへばりついていき、俺は蔓の牢獄に閉じ込められたかのようになった。


「はは……こりゃ無理だろ」


 俺は内心諦めつつも最後の抵抗としてシオンに向かって跳躍し、炎弾を至近距離で撃ち込もうとする。だが、逃げようとする小鳥をこの檻は許してはくれなかった。


 俺は360度全ての方向から鋭い蔓によって身体を引き裂かれた。大量の蔓に俺は絡め取られ空中に磔にされた。スーツから全ての幻素が放出していく。


 《生徒、アゼンの幻素完全放出を確認。勝者が生徒、シオンに決定しました》


 周りいた観客はその光景を見て改めてシオンの恐ろしさを実感し、アオはそんなシオンを頼もしく思っている。ルナは前の試合で俺が本気を出していなかったことに憤りを感じつつも、シオンの技を見て何かを学んだようだった。



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