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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
1学期テスト編
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第33節 テスト前

 トルペンランドを端から端まで楽しんだ日曜日を終えて、いつもの学園生活がやってきた。相変わらず授業はつまらないが、最近は真面目に聴くことにしている。


 何故なら、3日後に能力テストが控えているからだ。2日間の筆記試験を終え、休日を挟んで2日間は実技テストを行う。このテストで個人のランキングが大幅に更新されると共にチームランキングが今年初めて決定される。


 また、実技テストでの対戦チームの振り分けは、センテンスは例外として、ワードとクラウズが混ざり合うことがたまにある。つまり、ワードの中で実力のある生徒がいるチームはクラウズのチームとぶつかる可能性があるということだ。


(俺たちのチームにはシオンがいるから、もしかしたらクラウズと闘うことになるかもな)


 そんなことを考えながら、ふと顔をあげて教室を眺める。皆間近に迫っているテストに向けて真剣に教師の話に耳を傾けている。俺より前の席にいるルナはノートに何かメモをとっているようだ。何を書いているのかは分からないが、授業開始から一度も顔をあげてないので、恐らく授業とは全く関係ないことを書いているのだろう。


 シオンはどうしているのだろうか、そう思い、俺は首を後ろに向ける。シオンは初めて出会ったときのようにぼーっと窓の外を眺めていた。


 最近になって、シオンの考えてることを幾らか読み取れるようになったと思っている。彼女の好物もだいたい把握することができた。


 だが、あんな風に外を眺めている彼女を見ると、俺は本当は何も理解していないのではないかと疑いたくなる。いや、疑うべきなのだろう。人の考えていることを理解したと考えるのは傲慢だ。


 それでも、理解しようと歩み寄らない限り、俺は永遠に知ることはできない。彼女の瞳の奥にある、神秘的な何かを。


 チャイムが鳴った。

 教師が教室から出ていく。


 俺は席を立ち、ルナとシオンを昼食に誘った。


 俺たちは教室を出て、食堂に行く前にアオの教室へ寄ってアオと合流する。


 食堂はいつも通り大勢の生徒で賑わっている。ワード、クラウズ、センテンス、いつもはライバル関係の階級でも和気藹々と食事を楽しんでいる。


 ただし、あの"指定席"の周りには誰もいなかった。俺たちもそこを避けつつ4人が集まって座れる席を確保した。


 俺たちは各々昼食を頼んで、全員が席につき、食事を始めると同時にテストについての作戦会議を行う。


「さて、勉強に関しては俺が知る限りアオ以外に不安しかないのだが、まあそれは置いておこう」


「ちょっと!私は真剣に授業受けてましたよ!」


「じゃあノートを見せてみろ」


「いや、それは……ねぇ?」


「ねぇ?じゃないよルナ。ちゃんと勉強して」


「うう、はい……」


「勉強に関しては各自努力するとして、問題は実技テストの方だ。シオンがいる以上、クラウズとぶつかることも考慮しなくてはならない。クラウズはセンテンス予備軍みたいもので、俺たちよりも遥かに訓練を積んでいる。アオ、そうだろう?」


「はい。チームに関しても、私のようにワードの人と組んでいる人達もいますが、殆どがクラウズのみのチーム編成ですね」


「けど、もし勝てたらチームランキングは確実に上がりますよね?」


「その通りだ。いち早くセンテンスになるためには強敵に勝つのが一番の近道だ」


「だったら、何も話し合う必要はないですよ。私たちの実力を出し切って勝つだけです」


 早くも昼食を食べ終えたシオンが紙で口を拭きながら淡々と言葉を発する。


「まあそうなんだが、俺たちと相性の悪いチームとぶつかったときの作戦を考えておく必要があると思うんだ」


「例えば?」


「俺たちのように、バランス良く役割を決めているチームでは無かった場合だ。相手全員がアタッカーだけだったとき、流石にシオンだけでは対応し切れない」


「私なら大丈夫です」


「そうかもしれないが念には念をだな……」


「……私たちはまだ、師匠の動きについていくだけで精一杯です。もし作戦に囚われて師匠の足でまといになるなら、今回は今まで訓練してきた通りにするべきだと思います」


「私も、ルナに賛成です」


 確かに、俺たちのチームワークは万全とは言い難い。今ここで新たなことを始めるのは早計だったかもしれない。にしても、ルナが戦術に関して自分から意見を言うとは珍しい。もしかしたらあのノートに書いていたのは———。


「……分かった。今回はいつも通りやろう」


 俺は内省しつつ茶碗のご飯をかきこんだ。



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