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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
トルペン編
34/105

第32節 トルペン一族

 タリアの放った一撃によって、深幻海域(ポイント•ラブ)の幼体は鋭い悲鳴をあげながら幻素霧散していった。

 タリアは霧散する幻素の中で苦しそうに超弩錨(ドレッドアンカー)を杖代わりにして海に立っている。俺たちは急いでタリアのもとへ向かった。


「タリア……お疲れ様」


「……うん……ごめんね、ちょっと冷静じゃなかった」


「いや、あのまま俺たちで闘っていたら火力不足で負けていた。タリアの判断は間違ってない。だけど、どうしてソレを使おうと思ったんだ?"声"が聞こえたあとから様子がおかしかった気がするが」


「……私の、大切な人を侮辱されたんです」


「……そうか」


 タリアの大切な人が誰かは分からないが、あんなにも激怒するぐらい、その人を想っているのだろう。


「おーい!!」


 すると、トルペンランドからルナの声が聞こえてきた。振り返ると、ルナの他にアオの姿があった。


「先輩方、大丈夫でしたか?」


「ああ、タリアが倒してくれたんだ」


「タリアさんお一人で!?すごいですね!」


「それほどでもないですよ。それより、アオ、大丈夫?」


「……うん、ごめん、役に立たなくて」


「大丈夫だよ」


「……」


(なんか、気まずそうだな……)


「おーいおーーいおーーーい!!」


 突然、何処かで聞いたことがあるような声がトルペンランドから聞こえてきた。


「……あれは……ルー?」


「ルーお姉ちゃん!!どうしたのーー?」


 タリアがルーに向かって叫ぶ。


「お母さんが私たち全員来てだって!!お母さんめちゃくちゃ怒ってる!!」


「え!?まじで!?」


 タリアの顔がみるみる青ざめていく。


「お、お兄ちゃん!ママに許可とってなかったの!?」


「母さんが承諾するわけないだろう?」


「先輩、なんか大変そうですね」


「そうだな。まあ俺たちには関係な———


「あ!他の人たちも来てだってーー!!」


「……」


 狙ってたかのようにルーが言う。俺たちは渋々彼らについていくことになった。



 ▲▽▲▽▲



 トルペンランドを出て、大きな白い館の前に来た。小舟を降りて、門をくぐる。やたら多く噴水が置かれた庭を歩いていく。ここまで広い敷地を持っているとなると、相当な資産家なのだろう。俺はふと、疑問に思ったことを口にする。


「そういえば、サルサが言ってたんだが、アオたちのセカンドネームはトルペンなのか?」


「はい、そうですよ。私たちはこのトルペンを代々治めている家系なんです。ね、アオ」


「……うん」


「それじゃあ今はお母さんが治めてるんですね」


「師匠、それは違いますよ。この街の運営をしてるのは正確にはアオちゃんたちのお父さんなんです。お母さんはトルペン家の当主ってだけですね」


「ルナ、詳しいんだな」


「そりゃアオちゃんの幼馴染ですから!アオちゃんの家族のことは全員把握してます!」


「ふふ、いい友達をもったね、アオ」


 ルーがそう言ってアオに微笑みかける。アオは照れくさそうに下を向いた。


 そうこうしているうちに館の扉の前にまで来た。扉の前には執事らしき初老の紳士が立っている。


「皆様、お待ちしておりました」


「じいや、お、お母さんは今何してる?」


「……まずは中にお入りください」


 そう言って執事はゆっくりと扉を開ける。


「どりゃーーー!!!」


「ぐぷ!?」


 その瞬間、何かが高速でタリアの顔面に直撃した。


「……ぬいぐるみ?」


 そして白いドレスを着た女性が目の前の階段から飛び降りてくる。タリアの前にひらりと着地すると、タリアをぬいぐるみごと抱きしめた。


「タリア!!どうしてアレを勝手に使ったの!私心配したのよ!2度とこんなことしないで!」


「う、うん、ごめんなさい」


「他のみんなもスカルシュだけならまだしも、危ない敵がいるときは私たち大人を頼りなさい!」


「「「「「「は、はい……」」」」」」


 俺たちはその後玄関でこっぴどく説教をされた。ただ、教師がよくする説教よりも言葉一つ一つに温かみを感じる。きっと俺たちのことを本当に心配しているのだろう。いやはや、とってもいい母親だなぁ。


「……ふう、まあなんにせよ、みんなに怪我がなくてよかったわ。タリア、それを渡しなさい」


 タリアは大人しく超弩錨(ドレッドアンカー)を手渡す。


「あの、その武器はどういうものなんですか?体内の水を青幻素に変えるなんて、普通の武器じゃ無理ですよね」


「これは、幻素が発見される前からあるものよ。かつてトルペン家の祖先は先住民との戦いの際、"湖の妖精"からこの武器を貰って戦いを勝利に導いたとされている。そのときはこの不思議な力がなんなのか分からなかったけど、今は幻素によって説明されているわ。まあ、この武器を誰が作ったのかは、詳しく分かってないんだけどね」


「湖の妖精かぁ……会ってみたいなぁ」


「そんな童話じみた存在、いるわけないでしょ」


「師匠は冷めてますね……」


「母さん、そろそろ皆さんを解放してあげて」


「そうね、みんなはこのあとどうするの?」


「師匠、先輩、アオちゃん!私たちまだアトラクションにひとつも乗ってません!」


「たしかにそうだな」


「それでは僕たちが案内しますよ。今回は皆さんにご迷惑をかけてしまったので、特別にフリーパスをプレゼントします」


「え、いいんですか!?」


「もちろん!」


「やったーー!!」


 ルナは嬉しそうにその場で飛び跳ねる。


「ふふ、ルナちゃんはほんとに元気いっぱいね。みんな、私たちのトルペンランドを心ゆくまで楽しんでちょうだい!」



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