第29節 海戦のパレード
魔獣。
それは幻素発見以来、突如として出現するようになった幻素の集合体である。元来の生物と似通った形をしているのにも関わらず、その殆どが凶暴で、何かしらの幻素による攻撃手段を持っている。稀に幻獣と呼ばれる害の無い美しい魔獣もいるが、今海を泳いでこちらに来ているのは、間違いなく魔獣だ。
奴らの名前は"スカルシュ"。大型魚類に似ており、背中の尾鰭が異常発達していてそこから繰り出される青幻素の攻撃が厄介だ。
「タリア、やってくれ」
「は〜い」
タリアとサルサはたった2人で海の上に立っている。彼らの見る先にはスカルシュの大群が水面を切り裂きながらトルペンランドに向かってきている。
「さーさー皆様お待たせ致しました!!突発パレードのお時間です!」
タリアは客に向けて笑顔で叫んだあと、再びスカルシュの方を向いた。
「2人だけで大丈夫なのか?」
「わかりません」
俺たちも客と同じくトルペンランドから彼らの様子を見守っている。
「アオちゃん、やっぱり私たちも———
「大丈夫。あの2人は……強いから」
「皆様に美しい海戦のパレードを披露いたします!」
タリアはそう言うと、両手を空高く上げた。
次の瞬間、何十本もの巨大な水柱がタリアの横一列に出現した。
「常夏の遊具」
水柱は一つ一つが蒼い帆船へと姿を変えていき、船の上には巨大なクロスボウが全方位に向けて設置されていく。タリアとサルサはそれらの1つに飛び乗る。
「全標準、海中のスカルシュに向けて調整!」
タリアがそう叫ぶと船がスカルシュを迎え撃つようにして動き出す。
「お兄ちゃん、次よろしく」
「うん」
サルサは左右に腕を広げると各船のクロスボウに高濃度の青幻素が凝縮していき、やがてそれは水の矢へと姿を変えていった。
クロスボウの弓がゆっくりと引かれていく。
「全艦、発射!!」
タリアが叫んだ瞬間、爆音と共にスカルシュのいた水面に矢が放たれる。矢はスカルシュを撃ち抜き水柱をあげた。
しかし全てのスカルシュを倒すことはできていない。やがてスカルシュの射程圏内に入るとスカルシュは尾鰭に青幻素を凝縮していき水の斬撃として船に向けて攻撃してきた。
「う〜んやっぱり全部は倒せなかったか〜。しゃあない、お兄ちゃん、一旦離れてて」
「了解。お客様が巻き込まれないようにしとくよ」
サルサは船から降りて俺たちの方へとやってくる。タリアも船からは降りるが、ひとりで腕を組みながらスカルシュを睨んでいる。
「おいサルサ、タリア1人で大丈夫なのか」
「ご心配には及びません。なんてったってタリアはクラウズランキングの———第2位ですから」
タリアが腕を前にかざすと、帆船が形を変えてまわりの水を吸い上げていき、トルペン城の高さに匹敵するほどの巨大な大波をスカルシュの頭上に叩きつけた。
さらにその水を操作して水の竜巻を作り上げて、スカルシュらを次々と上空に巻き上げていく。
また、トルペンランドの方から着色された水が上空を飛んで来て、上空にいるスカルシュの口の中に入っていく。
するとスカルシュらの身体がみるみる膨らみ始めた。
「う〜〜〜パン!!」
タリアが手を合わせると、スカルシュが次々と弾けていった。それはまるで花火のように青と他の色の美しい波紋になって空を彩った。
拍手喝采の嵐が、タリアに向けられる。
彼女は一礼すると、弾ける笑顔でこう言った。
「海戦のパレード、これにて閉幕です!!」




