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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
トルペン編
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第25節 休日バイト

 休日の午後、先輩の寮で勉強をし終えた私とアオちゃんはそれぞれの寮へ帰宅している最中だった。


「あーやばいよ……全く勉強してなかったよ……」


「今日したじゃん」


「今日だけじゃ足りないよー」


「明日もすればいいじゃん」


「うう……アオちゃんも付き合ってくれる?」


「付き合いたいのは山々なんだけど、私明日バイトあるんだ」


「あー確か"実家"が運営してる遊園地の」


「そう。だから明日はムリなの」


「じゃあさ!」


 私はアオちゃんの前に立つ。


「私もやるよ!そのバイト!」


「え、ルナは勉強——


「いいのいいのそんなの後で!それよりアオちゃんの働いてる様子の方が気になるし」


 私がそう言うと、アオちゃんは照れくさそうに顔をそむけた。


「……まぁいいけど。じゃあ明日の5時駅前集合ね」


「え!?早くない!?」


「午前中はずっとバイトする予定だからね。嫌だったらやめてもいいよ?」


「う、やります!やらせていただきます!」


 こうして私はアオちゃんのバイトを手伝うことになったのだった。



 ▲▽▲▽▲



「アオちゃーーん!!」


「遅い!ギリギリじゃん!」


 後日、私は遅れて駅に着くと、アオちゃんが怒り心頭で待っていた。アオちゃんは白いワンピースと麦わら帽子で着飾っている。いつ見てもアオちゃんの私服は綺麗だ。


「ごめんなさい!」


「早く列車に乗るよ!」


 私たちは急いで列車に駆け込む。私たちが入ったところで列車の扉は閉まった。


「ギリギリセーフ……」


「はぁ、ヒヤヒヤしたよ」


 私たちは指定しておいた座席に座り、各自用意した朝食を食べる。私は朝はあまり食べないのだが、アオちゃんが働き始めたら結構疲れると言うので今日だけはパンを3つ用意した。


「そういえばアオちゃん、バイトって何するの?」


「中にあるレストランの店員だよ。まぁ私たち料理できないから多分接客だろうけど」


「ふーん。けど久しぶりだなーあの街に行くの。昔はよく遊びに行ってたなぁ」


「最近は忙しいからね。あ、そうだ。ランドに行く前にちょっと実家に寄らせてね」


「いいよー」


 列車に揺られながら数十分経つと、駅は目的の場所に到着した。

 目の前には変わらぬ街の風景、と言いたいところだが、少し湖の水が減っているようにも感じる。青使いが度々継ぎ足してはいるらしいが、太陽の容赦のない熱は着実に水を蒸発させている。


「さて、水上空輸はまだ運行してないし、久しぶりに、"アレ"やる?」


「お!いいねぇ!」


 私たちは互いにニヤニヤしながら街の方へと降りていった。



「いやぁっほーーー!」


 小舟に乗った私たちは今、水路をものすごい速さで駆け巡っている。


「ルナ!次右!」


「あいよ!」


 私が先頭に立ち緑幻素で作る蔓で進む方向を決めている。


「アオちゃん!もっとスピード出していいよ!今誰も水路使ってないし!」


「分かった!」


 アオちゃんは小舟の後ろで水を出して小舟を加速させている。私たちは昔から朝早くにこれをやっていつも遊んでいた。


 耳を横切る風、顔に当たる水飛沫が気持ちいい。


「こらー!うるさいぞ!」


「すいませーーーん」


 どうやら街の住民も起き始めたらしい。水路もそろそろ船が増える頃なので、私たちは急いでアオちゃんの家に向かった。


「とうちゃーく!」


 私たちは家の前に小舟を停めて、早速門の入り口に立った。


 アオちゃんの家は相変わらず豪邸で、煉瓦の街には不釣り合いな気品のある白い様相だ。


 アオちゃんは閉じられた門の鍵穴のような場所に指を入れると、門がひとりでに開き出した。


「便利だよねー"幻素識別装置"」


「うちが全員幻素使えるだけで、使えない人からすればただのガラクタだけどね」


 早速門の中に入って家の扉に向かう。

 庭は綺麗に手入れされていて、噴水があちこちに建てられている。


(前来た時よりも数が増えてるなぁ)


 扉の前まで来て、アオちゃんは横にあるチャイムを鳴らす。すると扉はすぐに開き、パリっとした黒い服を着た初老の執事がそこにはいた。


「おかえりなさまいませ。アオお嬢様。お久しぶりですね。ルナ様もお変わりのないご様子で」


「ただいま。じぃや。母さんいる?」


「お母様ならご自身のお部屋にいらっしゃいますよ」


「分かった。ありがとう」


 アオちゃんはそう言うと家の中に入って行った。私も恐る恐るそのあとを追った。


(やっぱり緊張するなぁ……)


 玄関の後ろには2階へ続く大きな階段がある。私とアオちゃんはそれを登ってアオちゃんのお母さんがいる部屋へと向かう。


「アオちゃん、アオちゃんのお母さんって確か……」


「……そうだよ。……はぁ」


 アオちゃんが溜め息を吐くのも分かる。だってアオちゃんのお母さんは……


「アオちゃーーーーん♡」


「うわぁ!!」


 突然目の前の部屋から白いドレスを着た女性が目にも留まらぬ速さでアオちゃんに突進してきた。


「もーアオちゃんあっちに行っても毎日連絡してねって言ったじゃない!」


「だから、こうして、会いに来たの!」


 アオちゃんはそう言って抱きついているお母さんを引き剥がした。


「あ、こんにちは、お母さん」


「あら!久しぶりねルナちゃん!昔と変わらずちっちゃくて可愛いわ!」


(それって成長してないってことじゃ……)


「じゃ、私たちはもう出るよ」


「え!?もう行っちゃうの!?」


「だってこれからバイトあるし」


「そう……あ!そういえばルーちゃんたちも今バイトに来てるわよ。会いに行ったらどうかしら?」


「……会ったらね」


 私たちはそのあと門の前まで戻り、小舟に乗ってトルペンランドへ向かった。


「いやーお母さん相変わらずの親ばかだったね」


「はぁ……あのノリは疲れるから嫌なの」


「まぁそれだけ愛されてるってことだから」


「それより……ルナ、漕ぐの変わろうか?」


 ……どうして私の腕はこんなに小さいんだろう。漕いでも漕いでも小舟はクルクルまわるだけ。私の非力さに赤面しながら私はオールをアオちゃんに渡した。


「それじゃあしっかり掴まっててね!」


「え——


 アオちゃんが一漕ぎした瞬間、小舟は浮いた。


「えええええーーー!?」


「あはは!このまま飛んで向かっちゃおう!」


 アオちゃん、相当ストレスが溜まっていたのか、はっちゃけた様子で青幻素を放出し続けている。


「ア、アオちゃん!これどうやって着地するの!?」


「大丈夫!任せて!」


 小舟はそのまま飛び続け、トルペンランドの水看板が目の前に見えてきた。下では開園を待つお客さんが大勢列を作っている。


 私たちはその上を飛んで園内に入り、スタッフルームがある場所に向かう。


「ルナ、小舟をしっかり掴んでお尻が離れないように!」


「う、うん!」


 アオちゃんはその場所の上で放出を止める。すると小舟は地面に急降下していった。


「おわわーーー!!!?」


 地面にぶつかる瞬間にアオちゃんは再び幻素を小舟を包み込むように放出し、小舟はゆっくりと地面に着地した。


「し、死ぬかと思った……」


「私も、こんなことしたのは初めて」


「「……」」


「「ふ、あはは!」」


 お互いに顔を見合い、私たちは笑い合った。



 ▲▽▲▽▲



「おはようございまーす」


「お、おはようアオくん。今日もよろしくね」


 スタッフルームの中に入ると、アオちゃんのバイト仲間が早速挨拶を返してきた。私はアオちゃんの後ろで隠れて様子を伺っている。


「ん?その後ろにいる子は誰だい?」


「は、はい!わ、私、ルナっていいます!アオちゃんのお友達で、その、今日一日だけここで働かせてください!!」


 いきなり見つかって思わず早口になってしまった。


「へーアオくんのお友達!てことは君もビィビィア学園の生徒さんなのかな?」


「は、はい!」


「だったら大歓迎だよ!今日はお客様の人数も多そうだし、学園の生徒さんなら安心だからね」


「え!?あ、ありがとうございます!」


(案外あっさりと許可もらっちゃった)


「それじゃあ制服とかは着替え室にあるから、アオくん案内してあげて」


「わかりました」


「あと、今日2人には接客をしてもらうからルナくんの指導はアオくんに任せるよ」


「宜しくお願いします!アオ先輩!」


「もう、いつものままでいいよ」


 こうして私たちは着替え室で制服に着替え、注文コーナーに立った。


「アオちゃん制服似合ってるよ」


「ルナもね」


 開園時間になると、続々と人が園内に入ってきた。まだ昼時ではないため店に来る人は少ないが、初めてのバイトは慣れないことも多かった。


「ルナ、注文間違えてる!」


「ご、ごめん!」


 それでもなんとか学んでいき、昼時になる頃には余裕を持って仕事ができるようになった。


「ルナ、先にこれ持ってって。後から私が飲み物持ってくから」


「分かった!」


 昼頃は列ができるほどお客さんが来ていて、調理が追いつかず席で待ってもらうこともあった。今回は白身魚のフライ11個というなんとも大食いな方へ出来上がったフライを運んでいる。


「お待たせ致しました!いやーお客様沢山ご注文されましたねー……て」


「あ、ありがとうございま……」


 そこに座っていた2人のお客さんはとても見覚えのある顔をしていた。


「なんで師匠たちが!?」「なんでルナが!?」



「「ここにいるんだ!?ですか!?」」



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