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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
トルペン編
25/105

第24節 ようこそ!トルペンランドへ!

 ——バッシャーーーン!!


 ルーの合図とともに船が勢いよく発進した。


「うおーー!」


 最前席の迫力は凄まじく、水しぶきが船全体を包み込む。俺は席にあったタオルで顔を拭きながらシオンに自分の興奮を伝えた。


「すげーな!想像以上に速い!」


「はい。濡れるのは勘弁してほしいですけど」


 シオンも又タオルで顔を拭きながら、下にある街を船底のガラス窓から眺めていた。


「普通の船もあるんですね」


「そりゃあるさ。この船は遠い場所を直通で結んでるだけで短い移動は手漕ぎ船で事足りるからな」


 そう言いながら俺も船底を覗き込む。


 煉瓦造りの家が建ち並び、その間に水路が網目状に敷かれている。その水路には観光客を乗せた船が多く浮かんでおり、どの家でも出店を開いて歓迎している。


「……シオンはこういうの、見るの初めてか?」


「そうですね。……見れてよかったです」


「……だな!」



 何分か経った後、船は目的の場所に辿り着いた。


「ご乗車ありがとうございました!」


 俺たちは船から降りてとりあえず他の客の背中を追うことにした。この船に乗ってきたということは十中八九俺たちと目的は同じだろう。

 少し歩くと、俺たちは小舟乗り場に辿り着いた。どうやらこれに乗ってトルペンランドに向かうらしい。


 小舟は自分で漕ぐらしく、俺はシオンを前に乗せてゆっくりとオールを動かす。


「この水路を真っ直ぐ進むと着くらしいな」


「そうみたいですね。すいません先輩任せてしまって」


「いいよ、すぐそこだし」


「……先輩はどうして、そんなに優しいんですか?」

 

「え?」


 シオンが思いもしなかった質問をしてくる。俺は驚いてシオンの顔を見つめた。シオンは真剣な眼差しでこちらを見ている。


「どうしてって言われてもなぁ、……まぁ優しくしない理由がないから、かな?」


「……どういうことですか?」


「……俺の周りにはいい奴しかいないってこと!」


 そう言って俺はシオンに笑いかけた。

 俺のこの答えがシオンを納得出来たかは分からない。ただ俺が今言ったことは紛れもない真実だ。

 俺は、本当に恵まれている。


「……な、なるほど」


 シオンはそれっきり俺と顔を合わすことはなかった。


 少しの間漕いでいると、煉瓦の住宅から抜け出し、開けた場所に出た。


 俺たちの目の前には巨大な多くのアトラクションが聳え立っていた。


「シオン!あれ見ろよ!」


 俺はそのアトラクションらの上空を指差した。


「なんですか?」


 シオンは振り返り俺が指差す方に顔を向ける。


 そこには宙に浮いた水でこう描かれていた。


  〜〜ようこそ!トルペンランドへ!〜〜


「すごいですね。あれどうやって浮いてるんですか」


「多分青幻素で周りを覆ってるんだろうな。ほら、幻素は浮くし」


 そう言いながら俺は白幻素を指先から出す。


「なるほど。ですが一体誰がアレを維持してるんですかね」


「このパンフレットによると、キャストのほぼ全員が青幻素を扱える人間らしいな。だから交代制で維持してるんじゃないか?」


「……そのパンフレットいつ貰ったんです?」


「船の雑誌入れの中にあったぞ」


「そうですか」


 俺たちはそのまま入り口まで小舟で行き、チケットを買って入場口に移動した。


「お二人様ですね。それではこの靴に履き替えてください」


「これは?」


「水に浮く靴です。これを履くことで地上で歩くのと変わらない感覚でお過ごし頂けます。また、補助機能が備わっているため転倒するご心配はございません」


「へぇー便利だな」


「ただし、犯罪や迷惑行為をなさるお客様にはこの効力を消させて頂きます。くれぐれもご注意を」


「わぁお……」


(つまり何かやらかしたら湖にドボンということだ)


「それでは、どうぞお楽しみくださいませ」


 俺たちは早速その靴に履き替え、園内に入る。

 歩く感覚は地面を踏みしめているようなのに、俺たちの下には透き通った水と泳ぐ魚が目に入る。


「なんだか不思議な感覚ですね」


「そうだな。……それじゃあ、何処からまわる?」


「そうですね……あの、少し小腹が空いてしまっているのですが……」


 そう言いながら、シオンは真下を泳ぐ魚をまじまじと見つめている。


「……流石にそれは食うなよ」


「食べませんよ!」


「まぁ確かにそろそろ昼飯の時間だしな。レストランでも探してみるか」


 こうして俺たちは何に乗るでもなくまずは腹ごしらえを済ますことにした。パンフレットで良さげなお店を見つけたのでそこに向かった。


 お店はやはり昼頃ということもあり客で賑わっていて、店員も慌ただしく働いていた。なるべく客が少ない所に並んだが、それでもやはり時間はかかる。

 しばらくして俺たちの番がきた。


「いらっしゃいませ。ご注文は如何致しますか?」


「俺はこの白身魚のフライで」


「私はそれ10個で」


「かしこまりました。出来上がるまでに少々お時間を頂くことになりますのでお席までお届け致します」


「お願いします」


 その後俺たちは4人席のテーブルを確保することが出来た。少し贅沢な気がするがようやく手に入れた席なのでここは遠慮なく使わせてもらう。


 しばらくして店員が両手いっぱいに料理を持ってきた。


「お待たせ致しました!いやーお客様沢山ご注文されましたねー……て」


「あ、ありがとうございま……」


 その店員は眼鏡をかけたとても見覚えのある顔をしていた。


「なんで師匠たちが!?」「なんでルナが!?」



「「ここにいるんだ!?ですか!?」」




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