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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
トルペン編
23/105

第22節 向かい合って

 学園を挟んで東側は、大型のショッピングモール、アミューズメント施設などその他娯楽施設が多く建ち並んでいる。東は常に昼なので、常夏のリゾート気分を満喫したい人には絶好の場所なのだろう。金持ちの中では東で存分に遊んでから西の別荘でゆったりと過ごすというのが流行っているらしい。


 ちなみに北は商業施設が多く、バリバリ働きたい人が他の大陸からも北に仕事に来ている。南は農業地帯となっていて、この特異な空を活かした"回転式農業"によってかつてと変わらない新鮮な野菜がとれる。


 このように昼と夜の境界線が通る唯一の大陸であったため、それを利用した"ビィビィア共和国"はいまや世界の首都と呼ばれるまで経済発展した——


「まぁ、この国に関してはこんくらい知っておけばいいだろう」


「なるほど。栄えているんですね」


「ああ、そうだな」


 俺は今、"東街トルペン"行きの電気列車に揺られながら、シオンにビィビィア学園があるこの国についての説明をしていた。


「私の住んでいた場所はこんなに栄えてはいなかったので、なんだか新鮮な気持ちです」


 そう言いながらシオンは窓の外を見つめる。


「……」


 このアトランタ大陸は確かに栄えているが、それは運がよかったからだ。永遠に昼のままであるローゼン大陸は大陸の半分が砂漠となり、永遠に夜のままであるアクール大陸は気温の急激な低下が続き、多くの人が寒さに耐えきれず死んでいった。

 アトランタ大陸でさえ境界を通らない国は同様の事で悩まされている。


 シオンがどこからやってきたのかは知らないが、この豊かさを知らないということはきっと辛い生活を強いられてきたのだろう。


「……シオン、今日はどうしてトルペンに行こうと思ったんだ?」


 俺が声をかけるとシオンは窓の外を見ながら答えた。


「私が住んでいた場所とここの常識は少し違うようなので、自分の目で見て学んでいこうと思ったんです」


「勉強は意味がないって言ってたのにか?」


「"テスト"勉強をする意味はないってことです。私はただ、私にとって必要なことを学ぶだけです。特に歴史とか、私にとって最もどうでもいいことですね」


「歴史は大切だぞ。過去から学び、今を変え、未来を作ることが人間が最も得意とすることだからな。第一、歴史から常識はつくられるんだぜ?」


「いいえ、それは違うと思います。常識は今を生きる人間が今を生きやすくするために作るもの。そこに"過去"が入り込む余地なんて、どこにもないんです」


 驚いた。

 シオンが俺の意見を真っ向から反対したのは今日が初めてだ。それだけシオンにとって"常識"というものに意味があるのだろうか。


「……なるほどな。そういう考えもあるんだな」


「……すいません。折角の遠出なのにこんな辛気臭くしてしまって」


「大丈夫!俺はシオンのことについて少し知れたような気がして嬉しいからさ」


「……私も、先輩がどういう考えの持ち主なのか少し分かったような気がします」



 そう言いながら、俺たちは互いに微笑んだ。



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