第17節 夜の見回り
「いやー助かるよー。ビィビィア学園の生徒さんなら安心してこの仕事を頼める」
「いえいえそんな、俺たちはただお金が欲——
「街のためになりますから」
そんなこんなで俺たちは寮がある街のパトロールのバイトを始めることにした。西側は常に夜なのでなにかと物騒なことが起こりがちだ。そこで幻素が使える俺たちは巡回にもってこいというわけだ。
「それじゃあ今日からよろしく頼むよ」
「はい、任せてください!」
時間午後7時。
空は相変わらず暗闇に覆われている。月明かりと街の街灯だけが俺たちの行く道を照らしている。
「先輩、ルナたちは呼ばなくていいんですか?」
「訓練のあとで疲れているのに俺たちの事情で付き合わせるにはいかないだろ」
「ごもっともです」
30分くらいぶらぶらと歩いていたが、これといって不審な事は起きていない。そもそもビィビィア学園近くで犯罪を犯せる度胸のある奴がそうそういるとは思えない。
「……これ何時間続けるんです?」
「門限ギリギリまでやるぞ。来月の分のお金もなるべく貯めておきたいしな」
「私のせいで……はぁ」
「落ち込むなよ。いっぱい食べることはいい事だぞ」
「はい……うん?」
ふと、シオンは立ち止まり、赤い屋根の民家の上を見つめはじめた。
「どうした?なんかあったか?」
そう言って俺も見上げると、そこには2つの小さな光が宙に浮いていた。
「なんだあれ」
「多分ネコじゃないですかね。野良はここらではあまり見かけないですし、もしかしたら迷子のネコかもしれません」
「なら一応捕まえとくか」
そう言って俺は屋根の上に跳躍し、姿勢を低くしながらネコに近づいた。近くで見てみるとそのネコは珍しく紫色の毛並みをしているようだ。
「よーしよしよし、俺は怖くないぞ……あ!」
ゆっくりと近づいたはずだったのだが、ネコは踵を返して屋根の上から降りてしまった。
「先輩!私追いかけときます!」
「ああ、俺もすぐ行く!」
その後もネコを追いかけたが、あと1歩というところでどうしても逃げられてしまう。
(俺たちの身体能力をもってしても追いつけないとか、なんだこの化けネコ!!)
そうこうしている内に門限になってしまい、俺たちは一旦諦めて寮に戻ることにした。
「はぁ、初日からめちゃくちゃ疲れたな……」
「はい、ネコは案外すばしっこいんですね」
「すばしっこいってレベルじゃないだろアレ。曲がり角曲がったら突然いなくなるんだぜ?」
「一応バイト長に連絡しときますか?」
「そうだな。今日はもう遅いから明日また会うときに伝えておこう」
後日、俺たちは午後職場に行き昨日あったことをバイト長に説明した。話を聴いたバイト長はまたアイツかと言いたげな顔でため息を吐いていた。
「そのネコはこの辺では有名なネコでね、よく民家に忍び込んで食い物を盗んでいくんだよ。盗まれた人は当然そいつを追いかけるんだけど、何故だかいつも逃げられてしまうんだ」
「そうなんですか。それは迷惑ですね」
「君たちももし見かけたらできれば捕まえてくれないかい?」
「分かりました。善処します」
こうして俺たちは、不審者探しから泥棒猫探しに仕事が変わることとなった。




