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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
新学期編
17/105

第16節 衣○住……食は!?

「行ってきまーす」


「行ってきます」


 紺色の制服を見に纏い、今日も学園へと向かう。

 シオンたちが入学してからもう一か月経とうとしている。


「アゼン先輩、師匠、おはようございます!」


「ああ、おはよう」


「おはようルナ。もう準備はできましたか?」


「はい!ばっちりです!」


 ルナが弟子になったあの日以来、俺たちは朝早くから学園に来て、訓練場で朝練をすることにした。今の俺たちの実力では、1年後センテンスに昇格するなんて夢のまた夢だ。だからこそ、できるだけ時間を有効活用していきたい。


「あ、来ましたか。遅いですよみなさん!」


「ごめんアオちゃん待たせちゃって」


 訓練場にはすでにアオが俺たちの分の台を確保してくれていた。模擬戦闘訓練の時に使った台よりも小さい、練習用の台になっている。


「よし、それじゃあ始めるか」


 《ステージ設定をお願いします》


「"荒野"で、敵性個体発生有り。難易度はノーマル」


 《了解しました。ステージ設定を行います》


 俺がそう言うと、台は例の如く透明な壁を形成し、幻素でステージを創り出していく。俺たちは一瞬にして砂ぼこりの舞う荒れた荒野に立たされた。


「あれは……"ライギルド"か」


 俺たちと対極に位置する場所に4体の幻獣が現れた。その姿は4本足の猛獣で、鋭い牙、爪を持っており、首回りの立て髪は帯電していてバチバチと音を鳴らしている。


 ——ガルルル


 どうやらあちらも俺たちの存在に気がついたらしい。禍々しい唸り声を出しながら一斉に襲いかかってきた。


「来るぞ!構えろ!」


 チームの役職としては、シオンがアタッカー、俺とアオがそのサポート、そしてルナはヒーラーだ。


 シオンがまず前に飛び出し、地中から木の根を出してライギルドの動きを封じる。


「形態変性 弓」


 シオンは手に持つルジュナを弓の形に変化させ、凝縮した緑幻素の矢を1体のライギルドに向けて放つ。

 矢はライギルドの頭を貫いた。


「まずは1体」


「俺たちも続くぞ!アオ!ルナ!」


「「はい!」」


 俺たちは畳み掛けるように他のライギルドに攻撃を仕掛けようとする。すると次の瞬間、ライギルドは突如身体から雷を放出させ、拘束していた根を焼切った。


 アオがすかさず矢を放つが、ライギルドは素早く避け、俺たちに急接近する。


「——!」


 1体のライギルドがアオに襲いかかった。

 鋭利な爪でアオを引き裂こうと、前脚を大きく振りかぶる。アオはとっさに身体を捻るが、爪がアオの左腕をかすった。


「アオちゃん!今回復するね!」


「大丈夫、ちょっとかすっただけだよ」


「——!おい!」


 すると2人の近くにいたライギルドが立て髪に電気を溜め、2人めがけて放出した。

 それは地面を削りながら物凄い速さで2人に接近してくる。


「シャット!」


 俺は2人の前に立ちその攻撃を消し去った。

 そのあと俺はすかさず雷弾を撃ち込む。


「くそ、やっぱり効かないか」


 電気を扱う敵と雷弾の相性は最悪だった。当たったところで傷ひとつ付いていない。


「……ここまでですね」


 シオンはそう言って再び地中から木の根を生やし始めた。


「皆さん離れてください」


 シオンはルジュナを弓から杖の形に戻し、それを地面に突き刺した。


終わりなき悔根(ジュリネ•ゾバーニャ)


 するとさっきまで微動だにしてなかった木の根が物凄い速さでライギルドらに迫ってきた。ライギルドは逃げながら放電でそれを焼いていくが、焼いた箇所からまた新しい根が生えてきて彼らを永遠に追いかけ回す。


 やがて追いつかれライギルドは皆串刺しになってしまった。


 《敵性個体の消失を確認。ステージを初期化します》


 こうして荒野は元の白い台へと戻った。


「さて、皆さん反省会です」


「「「はい……」」」


 シオンは俺たちを横一列に正座させ、一人一人説教をした。


「まずルナ、周りをみなさい。アオの傷にいち早く気付いたのは良かったですが、回復に夢中になるあまりに敵の接近を許しては意味がなくなります」


「はい……師匠」


「次にアオ。敵が私の拘束を解いた後、すぐに攻撃をしたのは良い判断です。もし当たっていたら、敵の反撃を防げたかもしれません。今後は命中率を上げていきましょう」


「はい!シオンさん」


「最後に先輩。もう少し攻撃の種類を増やしてください。雷弾だけでは今回のように相性の悪い敵には通用しませんよ」


「……うっす」


「けど流石は師匠ですよね!あんな強い敵を1人で全部倒しちゃうなんて!」


「確かに。そういえば、前から気になってたんですがシオンさんの緑幻素って、ルナが出すやつよりも若干色が濃い気がするんですよね」


「そうですか?私はこれが普通だと思ってたんですが」


 そう言って、シオンは緑幻素を身体の周りに浮遊させる。


「もしかしたら、シオンの幻素は"源幻素"なのかもな」


 源幻素とは、他の幻素と比べてその特性が色濃く表れている幻素のことを言う。この幻素を持っている者は非常に珍しく、1つの色に1人しか持っていないのではないかという仮説すらある程だ。

 一説には、神話で語られる神々を構成していたものなのではないかとも言われている。


「そんなのただの噂ですよ。実際にその幻素を持っている人なんて少なすぎて、まだ分かっていないこともあるんですから」


(普通にシオンならあり得そうなんだよな……)


 俺たちはその後授業が始まる時間になったので着替えて教室に戻った。


 退屈な授業を午前中は聴かされ、午後はまたシオン達と訓練に励んだ。とりあえずは来週にある模擬戦闘訓練で結果を残すことが目標となっている。


 訓練も終わり、俺たちはそれぞれの寮へと帰った。


「ただいまー」


「ただいま」


 俺は一旦部屋に戻り、普段着に着替える。

 その際机の上に置かれていた預金通帳をおもむろに開いた。


(最近はシオンが来てから食費がかさむからなぁ。もしかしたら少し減っているかもしれない)


 そう考えながら多少の覚悟をもって今月の預金欄を見る。


「えーと……うん?」


  1000


 はたして俺の見間違いだろうか?

 前回引き出したときはもう少しあったような……。


 俺は何回も見返したが、どんなに見ても0が3つしかないように見える。


「ま、マジか……」


 こうなった原因はいくつか思い当たる。

 1つはシオンが買い出しに行っていることだ。俺が料理、シオンが買い出しという役割分担なのだが、たまに頼んだ量よりも多く買ってくる時がある。

 まぁ、多い分にはいいかと楽観視していたが、よくよく考えるとシオンは短期間でそれを全て食べているわけで、そりゃ預金もだんだん減っていくわけだ。


 そして2つ目は、外食が増えたということ。

 最近は夜遅くまで訓練をすることが多く、そうなると帰ってから料理するのも億劫なので、ついつい外食で済ませていたのだ。


 そんなことが続き、とうとう学園から1か月で貰う額をほとんど使ってしまった。俺たちはあと残り半ヶ月をたったの1000ユリカで乗り越えなくてはならなくなった。


(クソ、こんな事になるならちゃんと預金を確認しておくべきだった……)


 学園から支給されるユリカは大抵寮長に配られ、それを寮内でやりくりしていく。俺はここの実質的な寮長で、しかも最近までずっと1人だったので、お金の面では不自由はなかった。その弊害が今ここで発生している。


(とりあえず、このことをシオンに伝えよう……)


 俺はシオンの部屋を訪ねて、今の現状を事細かく説明した。


 シオンはそのことを聞いた瞬間、この世の終わりを目にしたかのような顔になった。


「そ、そんな……私のせいで……」


「……シオン、そこでだ。俺に1つ提案がある」


「……提案ですか?」



「ああ、シオン……一緒にバイトを始めよう」



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