第14節 君と一緒に
——はぁ、はぁ、はぁ、
私は走った。
試合の疲れなど忘れて、ただがむしゃらに学園中を走った。廊下にアオちゃんの姿はない。教室の中を一つ一つ見て周り、とある教室の前で、私は足を止めた。
(ここって確か……階級分けの時に使った教室だ……)
入学が決まった日、新入生は自分の階級が何個かの空き教室に貼り出される。私とアオちゃんは一緒にそれを見に行き、偶然にも同じ教室で両方の階級が張り出されていた。
教室を覗くと、アオちゃんがいた。
1番前の席で真っ白なホワイトボードを黙って見つめている。
アオちゃんは私に気が付いてこちらを向いた。
「……どうしたの?早くシオンさん達のところに——
「アオちゃん!!……私の話、聴いてくれる?」
「———!……うん」
私は気持ちが先走ってしまい、思わず叫んでしまった。アオちゃんはそれに驚いたが、私が何かを言うのを黙って待ってくれている。
「アオちゃん、この3日間、私のために付き合ってくれて本当にありがとう。アオちゃんに色々教えてもらったお陰で、なんとかギリギリ勝てたよ」
「……良かったね」
「……それでね、私、気付いたことがあるんだ。私はいっつもアオちゃんに助けてもらってたなって」
私はホワイトボードを見つめながら話を続ける。
「アオちゃん覚えてる?私がアオちゃんと同じ階級じゃなくて、トイレで泣いてたのを、扉越しに慰めてくれたよね。すごく、すごく嬉しかった」
「……」
「私はアオちゃんに助けられてばかりで、アオちゃんの役に立ったことなんて一つもないし、アオちゃんのことを分かったつもりで、全然分かってなかった」
「だからね、今度は私がアオちゃんのことを助けるよ!アオちゃんが困ってたらいつでも側にいるし、もっともっと強くなって、いつかアオちゃんの隣で戦えるようになる!……だから」
「これからもずっと一緒だよ、アオちゃん」
私は振り返り、アオちゃんの眼を真っ直ぐ見ながら、精一杯の笑顔で言葉を紡いだ。
「う、うう」
アオちゃんは目に涙を溜め、嗚咽を漏らす。
私は座っているアオちゃんに近づき、そっと抱きしめた。アオちゃんは私の胸の中で涙を流した。
しばらくして、アオちゃんは顔を離し、鼻をすすりながら私に話しかけた。
「ごめんね、ルナ。さっきはひどいこと言って」
「ううん、私こそアオちゃんの気持ちをもっと考えるべきだった」
「違うよ。私が悪いんだよ」
「いやいや私だよ」
そこからは互いに謝罪の繰り返しになってしまい、終わりが見えなくなってきたとき、教室の入り口から突然声が聞こえた。
「こんな所にいたんですね。……何やってるんです?」
「師匠!!どうしてここに?」
「あなた達を探してたんですよ。まったく、この学園は広すぎです。見つけるのに苦労しましたよ」
「……あ、あの、シオンさん……すいませんでした!」
アオちゃんはそう言って師匠に頭を下げた。
「私、あなたに対してとても失礼なことを……」
「大丈夫、気にしてないです。私も少しカッとなってしまい申し訳なかったです」
「じゃあ、仲直りの握手ですね!」
「あ、握手?」
「そうです師匠!お互いに謝れたら、握手をして友達になるんです!私の生まれた国ではそうしてました」
「……わかりました」
そう言って、師匠は手をアオちゃんの前に出した。アオちゃんもその手をしっかり握って握手をした。
「さて皆さん、これから私たちの寮に来てください」
「どうしてですか師匠?」
師匠は少し微笑みながら言った。
「あなたのお祝いですよ。1番弟子さん」




