第13節 幼馴染
アナウンスが入ったあと、ステージは元に戻り、シオンの大木は霧散した。
霧散した緑幻素は大木の中にあった杖に集まり凝縮していき、やがて杖はまるで2つの木がねじり合ったかのような姿に変化した。
シオンは地面に突き刺さっているそれを手に取り、急いでアオのもとへ駆け寄った。
「すいません、やりすぎました。……大丈夫ですか?」
「……はい」
アオはゆっくりと立ち上がる。瓦礫での負傷はスーツが治療してくれているので、アオの身体には目立った外傷はない。
俺たちも客席を出てすぐにアオたちのところに行った。
「あ、先輩——
「シオン!君すごいな!!あんなに大きな木を創り出すなんて」
「いえ、大したことじゃないですよ」
そう言いながら、シオンは俺から顔を背けた。
俺は不思議に思いながら、ふと彼女の杖が変わっていることに気がついた。
「その杖どうしたんだ?そんなカッコいい見た目してたか?」
「先輩も"新しい武器"を使ってたので、私のも少し変えてみたんです」
「名前とかは付けないのか?俺はつけたぞ。その方がかっこ……分かりやすいし」
「名前ですか、そうですね……」
シオンは暫く考えたあと、呟くように言った。
「……ルジュナ」
「お、いいんじゃないか」
「はい、この名前にしようと思います」
彼女はそう言って手に持つルジュナを眺める。
彼女の顔からは、どこか哀愁を感じ取れた。
一方、俺と一緒に来たルナは真っ先にアオのもとへ駆け寄っていた。
「アオちゃん!大丈夫?」
「……うん。ありがとう、ルナ」
アオはそう言ってルナに笑いかけた。
だがルナにはそれが苦し紛れに言っているように見えた。
「アオちゃん……」
「……シオンさん、とっても強かったよ。あの人だったらルナを任せられるかな」
「アオちゃん、私——
「——じゃ、私そろそろ帰るね。もう試合もないし」
そう言って、アオは台から降りて出口に向かおうとする。
「待ってアオちゃん!!」
ルナは必至に引き留めようとするが、彼女の足は止まらない。そのまま何も言わずに訓練場の外に出て行ってしまった。
「ルナ、アオはどうしたんだ?」
俺はシオンと暫く話をしていたが、周りをみるとアオの姿がないことに気がついた。ルナは台の端で茫然と立ちすくんでいる。そんな彼女に俺は声をかけた。
「先輩、師匠……」
彼女は今にも泣き出しそうな顔で俺たちを見つめてくる。アオがこの場にいないことからも、彼女との間で何かがあったことは間違いない。
「ルナ、どうしたんです?私が勝ったので、あなたは弟子になれますよ」
「それは嬉しいんですが、その、アオちゃんの様子が変なんです」
「私が話しかけたらすぐに帰っちゃったし、なによりとても苦しそうな顔をしていたんです……」
どうやらルナ自身はアオの気持ちに気が付いていないらしい。ここは先輩として、しっかりと気が付かせてあげるべきだろう。
「ルナ、ルナは確かアオと幼馴染だったよな」
「はい、そうです」
「つまりは今までずっと一緒にいたわけだ」
「……はい」
「俺はそういう友達がいないから、ちょっと羨ましいぞ。きっとお互いに助け合ってきた仲なんだろな。もしそんな友達が自分の元から離れていってしまうのは、俺だったら耐えられないな」
「……あ」
ルナはハッとした顔で何かを考えだした。
「私、アオちゃんのこと探してきます!!」
そう言って彼女は出口の方へ走っていった。
「先輩は優しいですね」
「あーゆう友達は大切にした方がいいからな」
「先輩、このあとどうします?」
「そうだな……」
(ルナはこれで晴れてシオンの弟子になったわけだし、何かお祝いでもするか)
「シオンはあいつらを追いかけてくれ。俺は寮でやることがある」




