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幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
新学期編
12/105

第11節 目的

「……私と?」


 シオンは振り返り俺たちの方へ戻ってくる。


「ええ、そうです」


「別に構わないですけど、どうしてです?」


「……シオンさん、実を言うと、私あなたのことがあまり好きではないんです」


「え!?どうして!?アオちゃん!?」


 突然の告白にルナはひどく動揺している。俺もまさか本人のいる前でそんなことを言うとは思っていなかったので、若干引いている。


「好きじゃない、はちょっと語弊があったかも。正確には信用してないんです。あなたの実力を」


「あそこまでルナが懇願した相手が、センテンスでもなければクラウズでもない、ワードの生徒だと聞かされたときは心底驚きました」


「……」


 シオンは黙って何も言わない。

 アオは次にルナに向かって質問を投げつけた。


「ねぇルナ、どうしてクラウズである私に弟子入りしようと思わなかったの?」


「だ、だってアオちゃんは友達だし、幻素の色も違うから……」


「"あの技"を教えたのは私だよね?色が違くてもルナに教えられることはあるよ」


 ああ……なるほど……。

 これはいわゆる嫉妬というものだな。

 アオは本当にルナのことが好きなのだろう。だからこそ、1度は背中を押したものの、いざその時になって独占欲が働いてしまったのだ。

 黙り込んでしまったルナを横目に、アオは再びシオンに向き合う。


「シオンさん、もし私が勝ったら、ルナを弟子にすることを諦めてください」


「……いいですよ」


「え、本気なのアオちゃん!?」


「本気だよ。ルナ」


 そう言って、アオは開始位置に向かっていった。

 シオンも開始位置に行こうとしてるところに、俺は慌てて話しかけた。


「おい、まさか弟子を取りたくないからってわざと負けたりはしないよな」


「そんなことしませんよ。なにより、彼女の物言いに対して私は少しイラッとしてるんです」


 そう言いながらシオンは行ってしまった。


「せ、先輩……」


 ルナが不安そうな目で俺を見上げている。


「……大丈夫だ。2人を信じよう」


 俺はそう言って彼女の頭を撫でた。







 《これより模擬戦闘訓練を行います。ステージ設定を行なってください》


「アオさんが決めていいですよ」


「随分と余裕なんですね。それじゃあ遠慮なく……"廃墟"で」


 《フィールドを"廃墟"に設定します》


 アナウンスが入り、また台に例のごとく壁が現れた。

 その中を幻素が満たしていき、次々と古びたビル群を形成していく。壁の内側はあっという間に灰色に染められた。


 《それでは、模擬戦闘訓練、開始》


「先手必勝!!」


 開始の合図と同時に、アオは弓を上空に向け、大量の青色幻素を射線上に集めていく。

 それはやがて何重にも並んだ円となり、そこに向けて一発の矢を放った。


飛来する氷爆撃(アイス•ボトム)


 矢は円を通るたびに増えていき、水を纏いながら勢いは増していく。

 上空へと打ち上げられた矢はやがて鋭い氷塊となり、シオンめがけて落下していく。


(あれだけの物量攻撃を放てるなんて……さすがはクラウズだな)


 氷塊は頭のすぐ上まで来ているというのに、シオンは一向に動こうとしない。


「よし!直撃!!」


 遂に氷塊の雨はシオンに降り注いだ。


「シオン!!」


 俺は思わずシオンの名を叫んでしまう。

 シオンは氷塊をもろに喰らったはずだ。

 しかし、煙が晴れると、全身から幻素が放出しているが、辛うじて耐え切ったシオンの姿があった。


「くそ!今度こそしとめる!!」


 アオは廃墟の中に入りながら次の狙撃場所に移動する。


「……?」


 移動しながら、アオはある違和感を感じていた。廃墟に散らばっている砂が微かに振動している。最初は自分が走ることでそうなっていると思っていたが、足を止めてみてもその振動は止まらない。


 アオの勘は鋭かった。


 しかし、遅すぎた。






回帰の種(ユグド)






 シオンはそう呟くと、持っていた杖を地中に突き刺す。すると地面から小さな苗木が生えてきて、それはシオンの杖を包み込むように大きくなっていく。


 杖から出される緑幻素を栄養として、その苗木はみるみる成長していき、やがて地中から生えた巨大な根が廃墟を覆い、幹は太く長く成長し、無数の梢から生えた葉は、壁の箱に蓋をするように生い茂っていく。


「こ、こんなのって……」


 根はビルを次々と砕いていき、中にいたアオはその下敷きとなってしまった。


 灰色の大地が、緑の自然に染まっていく。


 《生徒、アオの戦闘行動不能を確認。よって、生徒、シオンが勝者となります》



 歓声はない。


 誰もが唖然としていた。


 圧倒的なシオンの強さに、木の下で佇むシオンの姿に、誰もが魅入っていた。梢から差し込む太陽の光は、ただシオンだけを、静かに照らしている。


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