表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻素が漂う世界で生きる  作者: 川口黒子
前期学園祭編
101/105

第97節 迷宮の鐘が鳴る

 私たちは今、第3区画の中にいる。この区画は他の区画と比べて壁が厚いとリリエルは言っていたが、入ってすぐにその意味を理解した。


「ここの壁、二重になってる……」


「二重になっていようがやることは変わりません。壊して前に進むだけです」


「待ってシオン、ここの壁、なにか変だよ。他の部活動がもう中にいるはずなのに、1つも穴が空いてない」


「自己修復機能があるんすかね?けど今までの壁にそんな細工はなかったし、わざわざこの壁だけその機能を付けるのは不自然っす」


「けど、中で戦っている音は聞こえてくるよ。シオンさんの言う通り、一旦中に入ってみてもいいんじゃないかな」


「それでは、早速壊します」


 そう言って、シオンは杖を構える。すると杖から緑幻素が放出し、杖の先端に集まっていく。ある程度凝縮されると、そこから大量の蔓が壁に向かって生えていき、壁に侵蝕するように張り付いていった。やがて壁はバラバラに崩れて中の様子が見える。


 そこには、第1区画に似た迷路が形成されていた。しかし、私たちはその迷路に目を向けることはなかった。


「なに……あの生き物……」


 皆一同に空を見上げて、そこで飛翔している翼の生えた巨大な牛を眺めていた。牛の身体は雲のように純白で、ツノは黄金に輝いている。その姿は神と言われれば素直に信じてしまいそうなほど神々しかった。唖然としていると、頭に乗っていたライちゃんが突然、ぴー!ぴー!と鳴き出した。


「ど、どうしたのライちゃん!?」


 鳴き声に気がついたのか、牛がこちらを向いた。そして、空を駆けるようにしてこちらに突進してきた。


「———!避けて!」


 シオンと私は右に、イリアンとフレンチが左に避ける。牛の突進によって迷路の壁は粉々になり、第3区画の内側の壁にまで穴が空いた。牛は内側の壁から頭を抜くと、私とシオンがいる方向を向いた。


 私はすぐに青幻素の矢を牛に放つが、当たったら瞬時に霧散してしまった。牛は前足を動かして突進の準備を始めている。


「シオン!ひとまずここは逃げよう!」


「了解です」


「イリアンさんとフレンチさん!ここからは一旦別行動します!隙をついてまた合流しましょう!」


「はい!牛さんがそっちに突っ込みそうなので気をつけてください!第3区画の出口を見つけたら必ず連絡します!」


 そうこうしているうちに、牛はものすごい勢いで再びこちらに突進してくる。私たちはその猛追から逃げながら、迷路を縦横無尽に駆け回った。


(この牛、迷路のことを全く気にしていない。このまま暴れてもらえれば、迷路を全て破壊してくれるかも)


 思惑通り、牛は迷路を無視して壁を破壊しながら私たちを追いかけてくる。その途中で様々な部活動の部員とすれ違ったが、彼らはただ呆然と座り込んでいたり、隅のほうで必死に隠れていた。


(あの人たちは一体どうして何もしていないの……?)


 不思議に思っていると、遠くの方から見慣れた人たちがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「おふたりとも〜〜!!久しぶりで〜〜す!!」


「トレハン部の皆さん!」


 なんと、第2区画の入り口で別れたトレハン部と再び会うことができた。4人とも元気そうに牛に追いかけられている私たちと並走し始める。


「皆さんもここまで来れていたんですね!」


「えっへん!部長の私がしっかりとリードしたからね!第2区画の出口でも私が巧みに交渉して———


「あれは普通に通してもらえてましたよ。部長は終始ドギマギしてただけじゃないですか」


「ち、違うし!ちゃんと交渉してたし!」


「あはは!走るの、たのしー!」


「はぁ、はぁ、さっきも走ってたのに、また、走るなんて……」


「相変わらず騒がしいですね」


「し、シオンさん辛辣ぅ……あ、そうだ!それより!2人とも、恐らく迷路を壊そうとしていませんか?」


「は、はい。そのために走ってます」


「やっぱり。多分それ、意味ないです」


「え!?どうしてですか!?」


「見ればわかります……多分そろそろ……あ、始まる!」


 メルはそう言ってさっきまで追いかけてきていた後ろの牛を指さした。するとその牛は私たちを追いかけるのをやめていて、突如上空に飛び上がり、殆ど残骸となった迷路の中央へと向かった。


 牛は中央の上空で静止する。すると、突如牛の首に金色の鐘が出現した。そして、牛が首を数回振ると、鐘は第3区画を包み込むほどの大きさで鳴った。


 ———リーン、リーン、リーン


「おふたりとも!せっかく出会えたばかりですが、さよならです!また会えたら会いましょう!」


 メルはそう言って笑った。ベルもドリムも諦めたふうにため息を吐いている。


「それってどういう———


 尋ね終わる前に、トレハン部の面々が一瞬にして消えた。


「え!?」


 それだけではなく、周りの迷宮の壁も猛スピードで修復されていっている。そして、鐘は今、5回鳴っていた。


「これは……まさか……」


「何もかも元通りというわけですか……厄介ですね」


 鐘が続いて3回鳴る。


「だけど、トレハン部の皆さんはどこにいってしまったの?元通りって、一体どこまで?それに、なぜ私たちだけ瞬間移動していないんだろう……」


「……わかりませんが、ひとつ確かなのは、鐘は今、9回鳴っています」


 そして、上空にいる牛は、再び鐘を鳴らそうとしている。すると突然、ふんわりとした何かが私の耳を塞いだ。

 

 それは、ライちゃんの翼だった。


 ———リーン


 10回目の鐘が鳴る。


 隣にいたシオンが、一瞬にして消えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ