第9節 私だけの
ルナは今、苦悩している。
何に苦悩しているのかといえば、アゼン先輩にどうやって勝つかである。教室では嬉しさのあまり勢いで承諾してしまったが、私は入学試験ワースト10位の落ちこぼれ。アゼン先輩はアレでも白使いである。1対1で戦ったら確実に負ける。なので……
「アオちゃんお願いします!どうか私と一緒に戦ってください!」
私はカフェのテーブルに思いっ切り頭を擦り付けながら懇願した。
「ルナって人に頼ってばかりだよねー」
「う……その通りでございます……」
この子の名前はアオ。
私の幼馴染で、今年一緒にビィビィア学園に入学した。成績優秀で階級は飛び級してクラウズに所属していて、透き通った青い髪をいつも後ろで束ねている。
「別に戦うのは構わないんだけどさ、それってシオンさんは許してくれるの?」
「多分大丈夫だよ。模擬訓練は基本的に何人で戦っても大丈夫だから」
「そういうルール的なことじゃなくて」
アオは少し怒り気味にこう言った。
「それでシオンさんはルナを認めてくれるの?」
「……え」
「シオンさんは"ルナが"アゼンさんに勝つことを条件にしてるんでしょ?それってルナの実力を見るためなんだよきっと。それなのに私に頼って勝って、それはルナの実力だって
胸張って言える?」
「……」
……確かに。そんな方法で勝っても、たとえそれでシオンさんが許してくれても、私は私に納得できない。
どうしても、どうしてもシオンさんの弟子になりたい、その気持ちばかり先走って、私は本当に大切なことを見落とすところだった。
「……ルナが大変な思いをしているのはわかる。だけど——
「ありがとう!アオちゃん!」
私はコップのジュースを一気に飲み干して言った。
「私、自分1人でアゼン先輩に挑む!!」
そう言い放った私を見て、アオちゃんは少し驚きつつも、笑顔でこう言った。
「なら、早速作戦会議を開かなくちゃだね!」
「え、アオちゃん、手伝ってくれるの?」
「当たり前でしょ。試合には出ないけど、ルナの特訓には付き合ってあげられるからね」
「あ、あ、アオちゃん〜〜〜!!」
「ちょっと!急に抱き付かないでよ!!」
翌日、私たちは放課後、寮近くの広場で特訓を始めることにした。
「ルナ、昨日言った通り、ルナがアゼンさんに勝つ可能性は低い。実力も経験も、確実に劣ってる」
「はい……」
「そこでルナは、相手が予想外の攻撃で倒す他ないんだよ」
「予想外?」
「そう、劣っていると言っても、ルナはあと一歩足りないって感じなの。アゼンさんの過去の戦いをみると、確かに立ち回りとかはしっかりしてるけど、攻撃手段がないから結局負けてるわ」
アオちゃんはそう言いながら、黄色幻素パネルを私に見せてくる。そこにはアゼン先輩ともう1人のペアで試合に出ている姿があった。
(アゼン先輩と組んでる人、誰だろう?)
「まぁ今回は流石に攻撃手段は用意してくると思うけど、普段から武器を使ってこなかったアゼンさんなら、ルナがギリギリ負ける実力のはず。だからその少しの差を埋める方法が必要なの」
「な、なるほど……」
アゼン先輩をぎゃふんと言わせられるような、予想外の技、そんなものは持っていない……。
「ルナは確か、緑使いだったよね?」
「うん、そうだよ」
「攻撃に使えそうな技は持ってる?」
「あるにはあるけど……あんまり強くないよ」
「ちょっと見せて」
アオちゃんはそう言うと、私から離れた場所に移動した。
「いくよー!」
そう言って私は持っていた杖を地面に突き刺す。
緑幻素を地中に流し込み、それを何個かの粒に凝縮させる。
「えい!」
地面から杖を引き抜くと、粒から先端の尖った植物が生えてきて、アオちゃんめがけて伸びていく。
「へぇ……なるほどね」
アオちゃんは弓を構えて、青幻素で造られた矢を放った。
するとその矢は分裂し、全ての植物を瞬く間に撃ち抜いた。
「いい攻撃だったけど、ちょっと火力が足りないね」
「うう……これで最高火力だよぉ」
「うーん……あ!そうだ!」
「うん?」
アオちゃんは何か閃いたのか、目を輝かせながら私のそばまで来る。
「さっき出してた緑幻素の粒って、少しの間そのままの状態なんだよね?」
「う、うん。そうだよ」
「だったらこうすればいいんだよ!」
アオちゃんは興奮気味になりながら私にアイデアを伝えた。
「わ、私にそんなことできるかな……」
「できるできないじゃなくて、やらなきゃ勝てないでしょ」
「……わかった!私頑張ってみるよ!」
こうして私は、"私だけの技"を特訓した。




