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あこちゃん日記

作者: スコティッシュフォールド横山


2007.4.8あこちゃんは新学期を迎えた。ピカピカな気持ちで校舎に入った。新しいクラスにドキドキした。あこちゃんはワクワクしていた。だって、10月には初めての修学旅行に行けるから。あこちゃんは10月になることを楽しみにしていた。その夜ママとパパに将来の夢を聞かれた時、あこちゃんは

「早く大きくなって素敵なお嫁さんになるんだ」

ってニコニコしながら言った。



5.8あこちゃんが新学期を迎えて1ヶ月が経った。あこちゃんは友達ができた。気になる人もできた。あこちゃんは毎日学校に行くことが楽しみで仕方がなかった。毎日ママとパパに今日は学校でどんなことがあったのか笑顔で報告した。

「授業はうんと難しくなったけど、それも楽しいんだ!」

あこちゃんはそう言った。



6.8あこちゃんが新学期を迎えて2ヶ月が経った。あこちゃんの身の回りに変化が起こった。


あこちゃんは突然1人になった。


友達にも裏切られた。あこちゃんは何もしていない。あこちゃんはみんなから仲間外れにされた。原因はあこちゃんの好きな人とクラスの明るい女の子の好きな人が同じ人という事だった。あこちゃんはそれでも笑顔だった。あこちゃんはママとパパに嘘をつくようになった。



7.8あこちゃんが新学期を迎えて3ヶ月が経った。あこちゃんは変わった。あんなに笑顔だったあこちゃんは常に下を向き、お絵描きと読書をするようになった。その変わり、人と話さなくなった。

あこちゃんはまだ嫌われている。

あこちゃんは無口な女の子になった。それでもママとパパには笑顔で「今日は学校でね〜」と嘘を重ねた。



8.8 あこちゃんは新学期を迎えて4ヶ月が経った。今、あこちゃんは夏休み。あこちゃんは同じ団地の子と毎日遊んだ。その子の名前はゆっちゃん。ゆっちゃんはあこちゃんと同い年だけど違う学校に通っている、優しい女の子。あこちゃんとゆっちゃんは毎日一緒だった。あこちゃんは夏休みの間は嘘をつかなくて良くなった。あこちゃんは永遠に夏休みならいいのになと思った。



9.8あこちゃんが新学期を迎えて5ヶ月が経った。夏休み明け、あこちゃんにひとつの噂が耳に入った。あこちゃんが1人ぼっちになるきっかけの女の子とあこちゃんは好きになった男の子が付き合い始めたらしい。あこちゃんは「振られた女の子」として毎日白い目で見られるようになった。あこちゃんはより人の目を気にするようになった。廊下のコソコソ話が全部自分に向けられたものだと思うようになった。あこちゃんは長い髪の毛で顔を隠すようになった。あこちゃんは伊達眼鏡をかけるようになった。ママとパパは

「どうして眼鏡をかけたいの?それに伊達眼鏡??」

と不思議がったけれど、あこちゃんは

「クラスで流行ってるんだ。それに眼鏡って知的に見えるでしょ?」

と嘘をついた。ママとパパは

「どうしてもと言うなら」

と、買ってくれた。あこちゃんは顔を見られないように毎日掛けて、いつしかあこちゃんの必需品になった。



10.8あこちゃんが新学期を迎えて半年が経った。あこちゃんは学校で募集された2泊3日のイングリッシュキャンプに行くことにした。あこちゃんはそろそろひとりが寂しかった。友達が欲しかった。だけどそこで事件が起こった。


あこちゃんは苛められた。

たまたまクラスの明るい女の子と泊まる部屋が同じになって、『チャンバラごっこ』という名の暴力を受けた。あこちゃんは二階建ての小屋に用意されていた船で使うような四角い枕で殴られた。金具部分で殴ることは禁止だったが、その子や周りの女の子はルールなんて関係なくあこちゃんを殴った。あこちゃんは抵抗した。でも取り押さえられ、されるがままだった。あこちゃんの頭に、目に、顎に、鼻に、枕が当たり、時々金具も当たった。あこちゃんはいずれ抵抗しなくなった。


その夜、あこちゃんは気づけば二階に一人ぼっちだった。あたりは真っ暗。ただ見えるのはひとつの窓から覗く景色。少しの自然光があこちゃんを照らした。あこちゃんは泣いた。声を殺して泣いた。なんでこんな目に遭わないといけないのだろう。もう付き合えたならそれでいいじゃないか、執着してくるのはなぜなんだ。数十分は泣き、落ち着いたあこちゃんは電気のスイッチを探し、電気をつけて押し入れを開けた。するとあこちゃんの分の布団はなかった。あこちゃんは寒かった。冷房がガンガンと効いていた。あこちゃんはリモコンを探すけれど、見つからなかった。あこちゃんはまた泣いた。窓の外を見ながら、寒さに体を丸めて。夜は明けていった。



10.9あこちゃんは目を覚ました。時刻は5:30。あこちゃんは硬い床に寝ていたため体の節々が痛かった。もう少ししたら彼女らが起きてくる。あこちゃんは荷物整理とすぐに外に出られる準備をした。起床時間になるとあこちゃんは誰よりも早く小屋を飛び出し、一番乗りで集合場所に着いた。その日はどうにかやり過ごした。彼女らを見かけると逃げ、他の部屋の子で他校の子と友達になると一日中一緒にいた。あっという間に時間が過ぎ、事情を聞いた友達は

「泊まっていきなよ」

と言ったけど、あこちゃんは小屋に帰った。小屋に帰るとクラスの明るい女の子が

「チャンバラごっこしようよ」

と言ったが、あこちゃんは

「もう寝る」

と言い布団を敷き寝た。女の子は

「ちっ、うぜーなこいつ」

と言いながら枕を寝ているあこちゃんに投げつけた。続いて周りの女の子もあこちゃんに投げた。彼女らは

「「「ヒット〜笑」」」

と言いその後数分はあこちゃんに枕を投げたり

「おい、起きてんだろ?」

とあこちゃんの髪を引っ張った。あこちゃんは寝れなかった。それでも目を閉じ寝ているフリをした。彼女らはそんなあこちゃんをみて

「つまんねえの」

といい1階に降りていった。あこちゃんは枕が当たった後頭部を擦りながら

『今日が終われば明日には開放される。がんばれ。がんばれあこ』

と言い聞かせながら寝た。



10.10イングリッシュキャンプが終わり、迎え来たママを見つけるとあこちゃんは走って抱きついた。ママは

「もう〜」

と言いながらも笑っていて、周りの親も笑っていた。あこちゃんは帰りの車の中、ママに

「楽しかった?」

と聞かれて、いつもの明るい声で

「全然?」

と言った。ママは

「なんだ〜笑寂しかったんだね笑」

と笑ったけど、後部座席にいるあこちゃんの頬には一筋の涙が伝っていたことに気づかなかった。あこちゃんがママとパパに何があったのか言うことは無かった。



10.11 あこちゃんたちのクラスに転校生がやってきた。それはゆっちゃんだった。どうやら家から距離が近いこの学校に変えたらしい。

「学校でも一緒にいられるね」

とゆっちゃんは嬉しそうだった。あこちゃんは少し泣いた。ゆっちゃんに心配されたが、あこちゃんにはゆっちゃんがいてくれる事が泣くほど嬉しかった。

「2週間後の修学旅行、一緒に行こうね」

とゆっちゃんと約束した。その日、あこちゃんは良い眠りにつくことができた。



10.15 その日は修学旅行の班決めだった。活動班とホテルで寝る班は同じだった。あこちゃんはゆっちゃんとペアになり、同じようにペアの子たちと一緒にならないか声をかけた。結果は全敗だった。ゆっちゃんは

「なんでかなぁ?」

と不思議がったけど、あこちゃんは黙ることしか出来なかった。あこちゃんは知っていた。最近クラスで

「あこは彼に彼女がいるのを知っているのに彼をまだ好きで狙っている」

という噂が出回っていることを。流したのは彼女である女の子だった。あこちゃんは好きな人とは気まずくなり話さなくなって4ヶ月が経っていた。もう好きでもなくなっていた。

結局、修学旅行の班は特別にゆっちゃんと二人だけになった。あこちゃんは嬉しかった。



10.23修学旅行3日前。あこちゃんはママとパパと話しながら準備を終えた。お菓子は何個かカバンに入れた。あこちゃんは修学旅行を楽しみにしていた。ママとパパはお土産話を楽しみにしてると言った。その日、ゆっちゃんの様子がおかしかった。いつも一緒に朝登校してるのに断られた。ゆっちゃんとは一言も学校で話さなかった。帰り道、足早に帰ろうとするゆっちゃんを捕まえ、一緒に帰った。聞くところによると

「あこちゃんが卑猥な女の子という噂を聞いてどうしたらいいかわからなかった」

らしい。あこちゃんは泣きそうになりながらも

「ゆっちゃんは私がそんな子に見える?」

と聞いた。ゆっちゃんは勢いよく顔を上げ、泣きながら

「ううん。ううん。見えないよ、ごめんね、あこちゃん。いつも一緒にいるのに、びっくりしちゃって、あこちゃんのこと避けちゃった。もう絶対しない。そんな噂また聞いたらその子のこと先生に言うよ。ごめんね、ごめんなさい…」

と言った。あこちゃんは

「ゆっちゃんは悪くないよ」

と言いながらも傷ついた。でも、ゆっちゃんの言葉に安心した。

「せっかく一緒に行けるんだから、修学旅行楽しもうよ、ゆっちゃんと写真撮りたいな」

と言ってまた楽しく2人の時間を過ごした。



10.26修学旅行当日。ゆっちゃんと席は横になり、お菓子交換をしたり最近好きなアイドルの話をしたりして盛り上がった。修学旅行先は長崎だった。お花が沢山咲いている美しい場所で2人で写真を撮ったり、現地にしかない美味しい食べ物をたらふく食べ、あこちゃんとゆっちゃんは満足していた。その後あこちゃんとゆっちゃんはホテルで沢山お話した。今日のホテルの豪華な夕食の話、将来の夢の話。夜は更け、満足感とともにあこちゃんは寝た。その日の夜中


ドンドンドンドン!!!


という大きな音にゆっちゃんは飛び起きた。ドアを開けるとそこにはあこちゃんの元好きだった人の彼女がいた。ゆっちゃんは

「どうしたの?」

とたずねた。彼女は

「あこは?」

と言い、ゆっちゃんは

「もう寝てるよ。どうしたの?」

とまたたずねた。彼女は

「ちっ」

と舌打ちしたあと

「あんたさ、あいつの絡むのやめなよ?噂聞いたでしょ?今度あいつに私が制裁してやろうと思って」

と言った。ゆっちゃんは顔を真っ青にして

「何言ってんの、あんな噂信じてるの?本当なわけないじゃん、もう夜中だし先生来るから早く寝なよ」

と言った。彼女は

「は?笑 何様なの。人の男に色目使ってんだから当然でしょ?」

と言いゆっちゃんの肩を叩いた。ゆっちゃんはよろけ右足を1歩後ろに着いた。ゆっちゃんは痛みに顔をゆがめ

「早く帰りなって、騒動になっちゃう!」

と言いドアを閉めた。閉める瞬間

「あんた覚えとけよ」

と言った声がゆっちゃんの耳に残った。



10.27電子音の音にあこちゃんは目覚めた。心地よい眠りだったのに…と不服だったが時刻6:30。朝食は7:00からだからこれ以上は寝ない方が良いだろう。左を見るとゆっちゃんは体を丸め、壁の方を向いて寝ていた。

「ゆっちゃん?ゆっちゃ〜ん、朝だよ〜!!」

ユサユサと体を揺らす。ゆっちゃんは

「ん〜…あと5分……」

と言う。

「寝坊しちゃうよ〜!起きて!!起きて!!」

と大声で言いあこちゃんは何とかゆっちゃんを起こした。ゆっちゃんは目を擦りながらあこちゃんの方に体を向けた。あこちゃんはゆっちゃんの顔を見て驚いた。

「えっ!?ゆっちゃん、どうしたのその顔?!」

「ん〜、頭に響くからあこちゃんもうちょい静かに…」

ゆっちゃんは眉間に皺を寄せ頭を押さえた。

「あ、いや、ごめ、え?隈…ひどいよ?」

そう言うとゆっちゃんは硬い表情になり

「え、嘘……」

と言った。ゆっちゃんは起きてドレッサーの鏡を見るとそこにはくっきりとした隈があった。

「……うーわマジか〜笑笑」

「え、ゆっちゃんどうしたの?寝れなかった??」

「……」

ゆっちゃんは一瞬曇った表情を浮かべ

「ふふ笑実は昨日ね、見たい深夜ドラマがあって。つい見ちゃったんだ〜笑」

と嘘をついた。

「あ、そうなんだ……?」

あこちゃんは納得したが、深夜ドラマを見るのは1時間もかからない。なのにこんなに隈が出来るだろうか?と思ったが、ゆっちゃんの表情に何も聞けなかった。その日はゆっちゃんはよりハイテンションで、それがどこか空元気のように見えた。あこちゃんは

「ねえ、ゆっちゃん。本当は昨日何があったの?心配だよ…」

と真顔で聞いた。ゆっちゃんは

「本当に何も無いって〜!あ、見て!あそこって眼鏡橋じゃない?本当にメガネに見えるんだ〜!」

と言い写真をパシャパシャと撮った。


「ゆっちゃん、私は…!」

「何もないって言ってるでしょ!!!」


突然の大声にあこちゃんは硬直した。

「あ…」

ゆっちゃんはハッとして2人には気まずい空気が流れた。

「ご、ごめん…でも、本当に、何も無いから。ね?」

「う、うん…わかった、よ」

それ以上は二人の仲に亀裂が入りそうだからあこちゃんは聞かないことにした。その後は楽しみながらも、あこちゃんの胸には鉛のようなものが、ずっと存在を主張していた。その日のホテルでは、あこちゃんがお風呂から出るとゆっちゃんはもう寝ていたため、あこちゃんは寝ているゆっちゃんに

「おやすみ、ゆっちゃん。ごめんね。またあした。」

と言い寝た。ゆっちゃんの閉じた瞼から大粒の涙が零れていたことにあこちゃんは気づかなかった。その日の夜中


ドンドンドンドン!!


という大きな音であこちゃんは目を覚ました。

「ん……?」

時計に手を伸ばすと時刻は2:50。こんな時間になんの用だろうか。念の為ドアガードをしめてドアを開けた。そこにはあこちゃんの天敵、あこちゃんの元好きな人の彼女が1人で立っていた。

「あ、あこじゃん。ちょうど良かった。」

彼女は嫌な笑みを浮かべた。

「な、なんの用…です、か」

あこちゃんは体を縮め身構えた。

「ちょっと顔貸してよ。」

と言いあこちゃんの腕を引っ張った。腕をしっかりと掴まれ、あこちゃんはドアに押し付けられた。ドアガードのおかげで外に出ることは無いが、頬にめり込み痛い。

「っ、痛い!!痛い!!!!」

腕がもげそうなほど痛く、あこちゃんは悲鳴をあげた。

「うるせーっつの。ほら、早く来いって!ドアガード付けてんじゃねぇよ。ほら!」

お構い無しにグイグイと引っ張る。腕の血管がちぎれるのでないかと思った。

「う、腕が!痛いって!!!離して!!!離してよ!!!!!」

大声で叫ぶ。涙が浮かびよく前が見えない。

「あーもーうるっせえな……お前さ、いい加減にしろよ。」

(もう無理…!痛い…!!!!)と思った瞬間、ふと体が後ろに引っ張られた。それと同時に今度は彼女がドアに叩きつけられ、腕が離れた。

「はっ…はあっ…うっ…」

あこちゃんは何が起こったのかわからなかった。後ろを見ると寝ていたはずのゆっちゃんがそこに立ってた。あこちゃんは

「ゆっ、ちゃん…?」

と呼んだがゆっちゃんは返事をせず、ドアガードを開け、ゆっちゃんは外に出て、あこちゃんの目の前でドアを閉めた。あこちゃんは腕を押えながら乱れた息を整えた。座り込んでいるためドアスコープから外を見ることは出来なかったが、何やら話し声が聞こえた。

「ちっ、てめえ何しやがんだよ、顔に傷ついたんだけどどうしてくれるわけ?あ?うち彼氏いるんだけど?」

ゆっちゃんが詰められている。あこちゃんは助けに行こうと座り込んだままドアノブに手をかけた。ガチャ、ガチャガチャ。ドアノブが回るものの、前に押しても開かなかった。ゆっちゃんは

「あこちゃん、出てこないで」

と冷たい声で言った。そして


パンッ!!


と軽快な音が聞こえた。あこちゃんはそれがなんなのか分からなかった。するとまた


パンッ!


と音が聞こえた。あこちゃんは

「ゆっちゃん…?」

と聞くけど返事が来ることは無かった。その変わり

「ってめえ!!!!!」

という怒声が聞こえてきた。


ガタンバタン!ガタガタドンッ!


とドアが悲鳴をあげる。

「ねえ!?何してるの!?ねえ!?ゆっちゃん!?返事して!!」

ドアノブを回すが、開けることはできない。それでも意地で押し、隙間からゆっちゃんの足が見えた。あこちゃんはゆっちゃんがドアを押えていることが分かった。もう一度力を込めようとしたが強い力にバンッ!とドアが閉まった。

「ねえ、開けてよ!!開けてってば!!」

あこちゃんはドアを叩いた。ゆっちゃんは返事をしなかった。ドアの外からは時々鈍い音やドアに何かが当たる音がした。あこちゃんは泣きながら部屋にあった電話でフロントに電話をかけた。フロントに電話をかけてる途中、なにやらパタパタと足音が聞こえ、男の人の声がした。あこちゃんは掛け終わって走ってドアの方に行き聞き耳を当てた。その声は担任の先生だった。

「お前らこんな夜中に何を考えてるんだ!!!!ほかのお客様の迷惑になるだろうが!!!」

おそらくゆっちゃんと彼女に先生が説教をしているのだろう。その声が段々と遠くなった。ゆっちゃんと彼女の声も、物音もせず、ただいくつかの足音がパタパタと遠くに行った。


ゆっちゃんは無事なのだろうか。あこちゃんはぼたぼたと流れる涙をそのままにへたりこんだ。するとベルの音が鳴り、あこちゃんは座ったままドアを開けた。そこには制服を着たスタッフのお姉さんがいた。あこちゃんを見るなり

「ど、どうされましたか!?」

と焦りハンカチで涙を拭いた。あこちゃんは

「ゆ、ゆっちゃんが、わた、私の友達が…ドンドンって、先生が…」

と必死に説明しようとしたが上手く言葉にならなかった。お姉さんは

「とりあえず向こうに座りましょうか」

とあこちゃんの手をとりロビーへ行き、あこちゃんを座らせた。


お姉さんは紙コップにお水を汲み、あこちゃんに渡した。あこちゃんは嗚咽のせいで上手く飲めなかったが何とか流し込み、息を整えた。頭がガンガンする。お姉さんはあこちゃんが落ち着く間背中を摩ってくれた。あこちゃんはさっきのことについて話し出した。あこちゃんはクラスの明るい女の子のせいで嫌われ者になったこと、好きな人と気まずくなったこと、友達のゆっちゃんのこと、ゆっちゃんと彼女が先生に連れられどこに行ったのか分からないこと。お姉さんは時々涙声になるあこちゃんを心配しながら話を聞いてくれた。

「うんうん、つらかったよね。」

と相槌を打ってくれた。あこちゃんはその優しさにまた涙を流した。お姉さんは一通り話を聞いたあと、

「ねえ、あこちゃん。手の手当て、しようか。あと腕、どうしたの?」

と言った。あこちゃんは気づかなかったが、ドアを叩いたことにより手は真っ赤になっていた。腕は無意識に押さえてしまっていたらしい。あこちゃんはさっき腕を引っ張られた時だと言った。お姉さんはあこちゃんの洋服をまくり、腕を見て小さな悲鳴をあげた。青紫色のあざがところどころあり、1部内出血していた。ワキまで見ると、大きな内出血があった。あこちゃんは

「あ……ごめん、なさい」

と言うとお姉さんは

「謝らないでいいよ。早く手当てしよう?アイシング持ってくる。」

と言った。あこちゃんがふとロビーにある時計を見ると時刻は3:40。お姉さんに申し訳なさを感じながらあこちゃんは待った。すると遠くから足音が聞こえてきた。あこちゃんが顔を上げるとそこには担任の先生がいた。あこちゃんは勢いよく立ち上がり、

「ゆっちゃんは!?!ゆっちゃん、大丈夫なんですか!?」

と叫んだ。先生は

「しーっ。一旦落ち着いて。座って話をしよう」

と言った。あこちゃんは大人しく座り、先生の話に耳を傾けた。先生の話によると、彼女は突然にゆっちゃんに殴られたと主張。ゆっちゃんは彼女があこちゃんに暴行を加えたため叩いたと主張。先生はあこちゃんの悲鳴を聞いていなかったためあこちゃんに事実確認をしに来た。2人はまだ先生の部屋にいる。とのこと。あこちゃんは

「2人が同じ部屋にいるのはだめです!!」

と言ったが、そこは教頭先生を呼んで見張らせているらしい。あこちゃんは

「どこから話せばいいですか」

とたずねた。先生は

「部屋に尋ねてきたあたりからかな」

と言った。あこちゃんはその時のことについて話し始めた。腕を引っ張られたこと、その証拠に腕を見せた。先生は痛々しい腕を見て顔を歪めた。ゆっちゃんが助けに来てくれたこと、ドアを開けないように塞がれドアを叩いたこと、外からなにか叩く音がしたこと。フロントに電話をかけ、お姉さんが来てくれたこと。先生は話を聞くと

「そうか、そんなことが…」

と絶句した。ちょうどその時お姉さんがアイシングを持ってきた。あこちゃんは

「ありがとうございます」

とお礼を言い、お姉さんはあこちゃんの横に座った。あこちゃんは先生に

「私の噂知らないんですか?私、いじめられてるって知らないんですか?」

と怒りを滲ませながらたずねた。先生は

「………」

とだんまりだったが、あこちゃんは

「答えてください」

と押した。先生は

「…噂は知っている。いじめは知らなかった」

と言った。先生はあこちゃんの隣にいるお姉さんのことを気にしていたが、あこちゃんは先生がお姉さんのことの方を気にすることに腹が立った。あこちゃんは涙を流した。

「先生はそれを聞いてどう思ったんですか」

涙声で聞くと

「…最近の学生は怖いなって、思った。」

その言葉を聞いてあこちゃんは地面に叩きつけられた気持ちになった。

「…それをどうするかじゃなくてあくまでも他人事なんですね」

「酷いですね、先生方」

感情がない口調で言った。先生は言い訳しようと口を開くが、お姉さんが

「私は部外者なので大きなことは言えませんが、あこちゃん、ずっとお友達のこと心配していたんです。自分は怪我しているのに。そんな優しい子を、生徒を、悲しませないようにしてほしいです」

と言った。先生はお姉さんを一瞬睨み

「…わかった、2人どっちが本当のことを言ったのか理解出来たよ。この問題は学校の会議で取り上げる」

「約束、してくれますか」

「…うん、約束する」

と約束した。先生は2人が待つ部屋に帰り、あこちゃんはお姉さんに

「ありがとうございました、本当に嬉しかったです。」

と頭を下げた。お姉さんは

「ごめんね?関係ないのに口挟んじゃって。せっかく修学旅行に来てくれてるから、楽しく終わって欲しいな。」

と笑顔でそう言った。あこちゃんは

「はい!」

と元気よく返事をして部屋に帰った。時刻はもう4:20。あこちゃんは起きれるか不安になったが寝た。



10.28修学旅行3日目。リズム良く電子音が鳴る。あこちゃんは目を開けようとしたがまぶたが重く開かない。頭がガンガンする。腕も痛い。

「う゛〜〜」

と呻きながらあこちゃんは起きた。時刻は7:30。あこちゃんは時計を2度見した。

「えっ!?!?!遅刻!!!!!」

バッと横を見るとそこにゆっちゃんの姿はなかった。

「起こしてくれればよかったのに!!」

と文句を言ったがそのシーツはあまりにも綺麗で、ベッドメイキングされた後使ってないように見えた。あこちゃんはもしかしてゆっちゃんは帰ってきてないんじゃないかと思った。だが、心配している暇はない。身支度もそこそこにあこちゃんは部屋を飛び出し朝食会場へ向かった。みんな食べ終わり、食べるのが遅い子がちらほら残っているくらいだった。あこちゃんはビュッフェで軽いものだけ取り朝食を食べた。遅れたことを担任の先生に謝罪すると

「仕方ないさ。あんなことがあったしな」

と許してくれた。あこちゃんは

「先生は、寝てないんですか?」

と聞くと

「あ〜、まあな…あれから一睡もしてない」

と笑って頭をかいた。あこちゃんがゆっちゃんのことを聞こうと口を開くと

『先生〜!』

と他の子に呼ばれ、

「じゃあな」

と去っていった。あこちゃんは辺りを見渡した。ゆっちゃんは見えなかった。保健室の先生に聞くとゆっちゃんと彼女は先にバスで寝ているらしい。あこちゃんは荷物を取りに部屋に帰り、急いでバスに乗りこんだ。バスにはゆっちゃんしかいなかった。彼女はもう1台の方にいるようだった。ゆっちゃんを起こさないようにゆっくり近づき、横の席に座った。ゆっちゃんの顔を覗き込むとゆっちゃんの頬には泣いた跡があった。

「ゆっちゃん…」

そうつぶやき彼女の頬に触れた。するとゆっちゃんは目を開け、

「…あこ、ちゃん…?」

と言った。あこちゃんは

「起きなくていいよ。寝な?」

と囁き、頭を撫でた。ゆっちゃんは頷きまた寝た。

(ありがとう、ゆっちゃん。)

あこちゃんは心の底から感謝した。この日は劇場に行き、予約が取れないと有名な劇団の劇を見た。すごく楽しくて、あこちゃんは腕の怪我がなければ昨日のことは夢だったのではないかと思うくらいだった。明日は最終日。あこちゃんはゆっちゃんとお土産を吟味していた。

「ゆっちゃん、何買うの?誰に買う??」

「んー、ママとパパと、おばあちゃんとおじいちゃんと〜弟と〜あとはね…」

「そんなに買ったらお金無くなっちゃうよ〜笑」

「え〜?みんなに買いたいんだもん」

「あこはママとパパはちゃんと買って、あとはお菓子にしようかな〜」

「お、それいいね!」

と和気あいあいとした雰囲気でお土産屋を後にした。


夜、布団に入ろうとしたゆっちゃんを見て

「ねえゆっちゃん、今日は、そっちに入ってもいい?」

と聞きゆっちゃんの布団に入った。あこちゃんはゆっちゃんの顔をしっかりとみて

「ゆっちゃん、ありがとう。」

と心からの感謝を込めてゆっちゃんに伝えた。ゆっちゃんは1度大きく目を見開いたあと、笑って

「うん」

と言った。ゆっちゃんは涙を流した。あこちゃんはその涙を拭いながら

「昨日、何があったか聞いてもいい?」

と優しく尋ね、ゆっちゃんは

「一昨日の話からするよ」

と言った。一昨日は、眼鏡橋でゆっちゃんが話してくれなかった日。あこちゃんは一昨日も彼女が来ていたことを知った。そして覚えてろよと言われてゆっちゃんの心の余裕がなくなったことも知った。あこちゃんはゆっちゃんが黙ってたのはあこちゃんのためと知って嬉しかった。昨日はゆっちゃんは彼女を殴った後、肩を掴まれドアに叩きつけられた。そしたら先生がきて部屋に連れていかれた。その間も

「殺す…殺す殺す…」

と彼女は興奮していたらしいけど、ゆっちゃんはあのままだったらあこちゃんが何されるかわからなかったから行動できた自分を褒めてあげたいと笑っていたらしい。教頭先生にも怒られたけど、ゆっちゃんは彼女に2発もビンタをお見舞いできたこと、あこちゃんを助けられたことに誇りを持った。ゆっちゃんは肩の打撲と頬の引っかき傷を手当したりと、結局寝れなかったけど、満足してると言った。パンッと軽快な音はゆっちゃんが彼女にビンタした音だと知ってあこちゃんはゆっちゃんの強さに驚いた。その後もあこちゃんは聞きながら泣いた。自分のためにそんなに体を張ってくれる友達が居ることに驚く反面本当に嬉しかった。


あこちゃんとゆっちゃんは親友になった。


2人は手を繋ぎ眠りについた。ずっとこんな幸せが続けばいいのに。あこちゃんは心の底からそう願った。



10.28修学旅行最終日。あこちゃんとゆっちゃんはパーキングエリアでお菓子を買ってバスで食べ、良い最終日で修学旅行を終えた。二人の写真は沢山撮った。カメラマンにも撮ってもらったから後日購入するのが楽しみだった。帰り際、

「またね、ゆっちゃん!」

「またね、あこちゃん。」

と2人は笑顔で別れた。ママとパパ2人とも迎えに来ていて、笑顔で

「ただいま!」

というあこちゃんにママとパパは

「おかえり」

と微笑んだ。



11.28修学旅行から1ヶ月。


____あこちゃんは突然死んじゃった。


死因は飛び降り自殺。第1発見者は近所のおばあちゃん。辺りに咲いていたハルジオンが、紅く染まっていた。団地のマンションの屋上にあったあこちゃんの靴の中にはホトトギスの花が1輪入っていたらしい。ママとパパはその花がトラウマになった。



2012.11.28あこちゃんが亡くなって5年が過ぎた。大人になっているゆっちゃんは、あこちゃんのお墓参りに来ていた。ゆっちゃんは墓石を撫で

「あこちゃん、急に引っ越しちゃってごめんね。また会いに来たよ。」

と言って、沢山のシオンの造花を添え

「また、来年。」

と言い残しその場を去った。あたりの木々が風に吹かれ、まるで手を振っているようだった。



あこちゃんは殺された。



あこちゃんは『誰に』殺された?

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