表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

貴族学園シリーズ

侯爵令嬢エリーゼは大好きな推し(筋肉)を育てたい!~最強の騎士にするために応援していたつもりが、実は一途な彼にひたすら愛されていました~

 ◇◇◇


「エリーゼ嬢、どうか私にもあなたの個人レッスンを受けさせて下さい!」


 貴族学園の教室で帰り支度をしていたエリーゼは、突然話し掛けてきた男性生徒を見て目を細めた。


 確かこの令息は、ウィンター子爵家の次男。名前は……ベクターだったか。


 白いシャツの上からでもわかるがっちりとした筋肉質の体……なかなかいいわ。とエリーゼは思った。


「ええ、いいわ。貴方さえ良かったらこれからどう?」


 エリーゼの言葉に、隣の席に座っていたマクハラン伯爵家の嫡男、ルイスが息を呑む。


「俺はどうなる……」


「ルイスは張り切りすぎよ。毎日あなたに付き合ってたら、私の体が持たないわ」


「だがっ!」


「たまには違う人を試してみてもいいでしょ。ね?」


 まだ何か言いたそうにエリーゼを見つめていたルイスだが、エリーゼが両手をギュッと握ってにっこり笑うと顔を真っ赤にして引き下がった。


「……今日だけだからな!」


 目に涙を浮かべながらベクターをギリッと睨み付ける。そんなルイスをみて、エリーゼはにっこりと微笑んだ。


「大丈夫。貴方の一途で真っ直ぐな気持ちは私が一番よく知っているわ。お詫びに明日はちょっと特別なレッスンをしましょう。私も頑張るから楽しみにしててね」


「エリーゼっ!」


 感極まった表情で立ち尽くすルイスにもう一度にっこり微笑みかけたあと、今度はベクターの胸にツツッと指を滑らせる。


「あなた、とても良い体をしてるのね。素敵な筋肉……普段から鍛えてるの?」


「た、体力には自信があります!エリーゼ嬢のどんなご期待にも応えてみせますよ」


「そう。ふふ、楽しみね」


 艶然と微笑むエリーゼの美しさに思わず赤くなりさっと目をそらすベクター。


 フラフラと立ち上がり、「お、俺にもレッスンを!」「ぼ、僕も受けたいです!」


 と口々に名乗りを上げる男子生徒達。


 エリーゼは目を丸くすると、手を叩いて喜んだ。


「まぁ、嬉しい。一人ずつ順番にお相手するわね」


 教室内に残っていた生徒はその光景を見て口々に噂した。妄想が妄想を呼び、『麗しの侯爵令嬢が施す秘密のレッスン』の噂は瞬く間に学園中の噂の的となってしまうのだった。


 ◇◇◇


「この程度で音をあげるなんてがっかりだわ。期待外れね。ルイスなら後3セットはいけるのに」


「くっ、俺はあいつなんかに負けません!まだまだ俺の本気はこんなもんじゃない!」


「あら。息が上がってるように見えるけど。無理しなくていいのよ?」


「いや、エリーゼ嬢に情けない姿を見せるわけにはいきませんっ!」


 練習場の片隅で、息も荒く苦しそうに身を横たえるベクターの背中にちょこんと座ったエリーゼは、退屈そうに扇で口元を覆う。


「なんだか飽きてきちゃったわ」


「は、はい!申し訳ない。すぐに体を起こしますっ」


 そう答えたものの、腕に力が入らないのかどうにも体を起こすことができない。


 エリーゼはやれやれと溜息をつくと、ベクターの背中から顎をくいっとつかんだ。


「顎が上がってるのよ。こんなんじゃだめ」


「は、はいいい……」


 細く繊細な手で顎を掴まれたベクターは、真っ赤になりながらこくこくと首を縦に振っている。その様子を見てエリーゼはさらに溜息をついた。


「あなたには真剣さが感じられないわ。私があなたに付き合うメリットってあるのかしら?」


 今度は真っ青になったベクターがしどろもどろの弁解を始める。


「わ、私は真剣です!絶対にエリーゼ嬢の理想の男になって見せますから!どうか見捨てないでください!」


 ベクターの言葉にエリーゼは首をかしげる。


「私の理想の男性?なんのことかしら」


「あ、あなたの評判は知っています。あの、自分好みの強い男を作っているんでしょう?その、たくましい男がお好みなんですよね?」


「はあ?」


 ベクターのあまりに失礼な発言にエリーゼは思わず目をむいた。


「このわたくしが、自分のために男を育ててるって、あなたそうおっしゃいたいの?」


「えっ……違うんですか……」


「馬鹿なこと言わないで。騎士に憧れてるルイスが、トレーニング方法を知りたいっていうから、父や兄が普段自宅でやっているトレーニング方法を指導してるだけよ。我が家は代々武門の家柄。父は恐れ多くも騎士団長を任されていますからね。騎士団に入隊したい将来有望な男性は国の宝だもの」


 エリーゼの言葉にベクターは息を呑んだ。


「え、そんな、俺はてっきり……」


「そんな邪な考えでトレーニングしていたなんて。あなたにはがっかりだわ。今日のレッスンは終了よっ!」


 怒って立ち上がるエリーゼを呆然と見つめるベクター。


「そ、そんな……」


 ♢♢♢


「っていう話だったの。がっかりしちゃったわ」


 昼休み、練習場の傍らで黙々とトレーニングに励むルイス。エリーゼはその様子を、頬杖をつきながらぼんやり見つめている。


「……そうか……」


「中には、『僕は真剣に騎士を目指してます!』なんて言ってる子もいたから何人か付き合ってあげたけど、みんな口ばっかり。ちょっとキツくするとすぐに音を上げるんだから。結局誰も来なくなったわ」


「そうか……」


「もう!気のない返事ばっかり!ルイスはいつもそうなんだから。でも、私のレッスンに最後まで付き合ってくれたのは、ルイスだけね。もう、貴方に教えることは何もないわ」


 エリーゼの寂しそうな言葉に、ルイスはふと手を止める。


「お父様が、貴方は見所があるって仰ってたわ。おめでとう。卒業後はぜひお父様率いる百獣騎士団に入隊して欲しいって」


「エリーゼ……」


「時間があるときは、訓練生として騎士団に混じってトレーニングできるそうよ。もう、私はお払い箱ね」


 エリーゼの言葉を黙って聞いていたルイスだったが、ツカツカと近付くと、エリーゼをそっと抱き締めた。


「きゃっ!な、何するのルイス!?」


「……まだ、足りない」


「た、足りない?何が?」


「お前と過ごす時間が」


「……へっ?」


 ルイスはエリーゼを真っ直ぐに見つめる。いつになく真剣な表情に戸惑うエリーゼ。


「俺にはお前が必要だ。お前がいないと頑張れない」


「な、何言って……そ、そんなんじゃ、立派な騎士になんてなれないんだからねっ!」


「お前がいてくれるなら、どんな困難でも乗り越えていける。だから……ずっと俺の側にいてくれ」


「そ、それって……」


「……悪い。俺もアイツらと変わらないな。今の言葉は忘れてくれ」


 何かを耐えるように絞り出した声に、エリーゼはようやく気付く。


「ルイス、私のこと好きなの?」


 ルイスは肩をがっくりと落とす。


「はぁ……そんなの、好きに決まってるだろ」


「い、いつから!?」


「お前が俺を最初にトレーニングに誘ったときから」


「そんなの子どもの頃の話じゃない!」


「ああ。ガキの頃からずっと、お前が好きだ」


(ーーーー!!!)


 エリーゼは、真っ赤になって言葉も出ない。


「な、なんで言ってくれないのよっ!」


「お前にその気がないって分かってたからな」


「そ、そ、そ、そんなことはっ……」


(まってまってまって!ルイスが私のこと好き?そ、そんなの聞いてないっ!)


 混乱するエリーゼ。ストイックに筋肉を育てることだけが、エリーゼの楽しみ、だと思っていた。


 でも、いつだってエリーゼに最後まで付き合ってくれたのはルイスだけ。


 トレーニングと称してルイスを近くで励まし見守ることが、いつしかエリーゼの楽しみになっていた。


「……明日から、百獣騎士団の訓練に参加してくる。困らせて悪かった。じゃあな」


「ま、待って!」


 くるりと踵を返すルイスの腕に慌ててすがり付く。


「エリーゼ?」


「わ、わかったわ!いいわ!新しいレッスンを始めるわよっ!」


「新しいレッスン?」


「そ、そうよ!そ、そのう、私と、ルイスが素敵な恋人同士になるための……」


 恥ずかしかったのか、最後はゴニョゴニョと言葉を濁すエリーゼ。


 ルイスは息を呑むと、今度は思いっきり抱き締めた。


「きゃー!痛い痛い痛い!」


「す、すまん!つい嬉しくて……」


「も、もう!やっぱりルイスには私の指導が必要みたいね!」


「……ああ。お前の全てを教えてくれ。俺の全てで答えるから」


(うぎぁぁぁぁ!!!ルイスってこんなこと言うキャラなのっ!?)


 赤くなってプルプル震えるエリーゼを蕩けるような目で見つめるルイス。


「愛してる」




 ――――それから始まった恋のレッスンの中身は……もちろん二人だけの秘密。




 おしまい



四月咲 香月さま(かずにゃん)から素敵なFAを頂きました(*^^*)


エリーゼ~恋のレッスン

挿絵(By みてみん)


実は武術の達人!


エリーゼ~恋のレッスン2

挿絵(By みてみん)


実は筋トレマニア嬢?


エリーゼ~恋のレッスン3

挿絵(By みてみん)


エリーゼ~恋のレッスン4

挿絵(By みてみん)



読んでいただきありがとうございます

( ≧∀≦)ノ

下のほうにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして、応援して下さるとめちゃくちゃ嬉しいですっ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作
悪役令嬢リリスの華麗な転身~婚約破棄ですね。わたくしは別に構いませんけど、王になるのはわたくしです~
しましまにゃんこさん累計ポイントランキング
総合評価:28,032 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 9,089文字
あらすじ等
わがまま姫と評判の公爵令嬢が選んだ結婚相手は貧乏伯爵家の三男坊!? 激高する王子に突きつけた婚約破棄の真相とはっ!? 婚約破棄からはじまる正統派ラブストーリー! 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 身分差 ヒストリカル ラブコメ 貴族 騎士 わがまま令嬢 溺愛 ハッピーエンド 婚約破棄 ざまあ キルタイム異世界大賞 貴族学園
投稿日:2021年4月12日
最終更新日:2021年4月12日
総合評価:25,740 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 1,683文字
あらすじ等
冤罪で王子から婚約破棄され、屈強な男でも三日と持たないと言われるほど過酷な炭鉱送りになった悪役令嬢のリリアナ。 ───三ヶ月後、彼女は最愛の父に近況を書いた手紙をしたためる。その驚きの中身とは? チートな爆炎魔法を使える悪役令嬢が、過酷な環境もなんのその、ちゃっかり幸せを掴むお話です。手紙形式になっています。 シリーズ化しました! 「リリアナちゃんとゆかいな仲間たち」 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 異類婚姻譚 身分差 ヒストリカル 悪役令嬢 日常 ラブコメ 女主人公 溺愛 獣人 ハッピーエンド 婚約破棄 追放 ほのぼの キルタイム異世界大賞 リリアナちゃん
投稿日:2022年5月2日
最終更新日:2022年5月2日
総合評価:13,612 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 2,631文字
あらすじ等
貴族学園の入学を祝うパーティーの席で、いきなり婚約者である第三王子に突き付けられた婚約破棄! 「お前のような野暮ったい女と結婚するくらいなら、生涯独身のほうがまだマシだっ!」 「承知しましたわ。今日からは、自由の身です!」 学園生活が始まる前に婚約破棄されちゃった公爵令嬢が、したたかにミラクルチェンジしてハートをズッキュンするお話です。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: ヒストリカル スクールラブ ラブコメ 婚約破棄 地味令嬢 華麗に変身 美少女 ほのぼの ハッピーエンド 学園 ギャップ萌え 女主人公 ネトコン11感想 異世界恋愛 【短編】
投稿日:2022年4月4日
最終更新日:2022年4月4日
総合評価:13,420 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
完結済(全8話) 10,193文字
あらすじ等
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっか...
キーワード: 貴族令嬢 婚約破棄 浮気 コンプレックス 溺愛 ざまぁ ハッピーエンド イケメン王子 女主人公 真実の愛 ネトコン11感想 貴族学園
投稿日:2022年10月20日
最終更新日:2022年10月20日
総合評価:12,562 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 4,195文字
あらすじ等
16歳の誕生日前日に、突然陛下の側室に選ばれたと聞かされた伯爵家の令嬢アイラ。 小柄で童顔の彼女は、妖艶な美女が揃う陛下の後宮で、たまには変わった毛色の娘がいいと目を付けられてしまったらしい。 だが、後宮は陰謀渦巻く恐ろしい場所。ろくな後ろ盾を持たない自分など、瞬く間に駆逐されてしまうだろう。 困ったアイラは暴挙とも言える行動に出る。それは、この国最強の公爵閣下に求婚すること! 果たしてアイラの無謀な賭けは成功するのか! 元気な小動物系女子と全てを力技で解決する最強魔術師の、溺愛ハッピーエンドストーリーです。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中...
キーワード: 身分差 年の差 ネトコン11感想 側室/後宮 女主人公 溺愛/ハッピーエンド 公爵/魔術師 小動物系令嬢 求婚/結婚/初夜 ざまぁ 貴族学園
投稿日:2023年6月27日
最終更新日:2023年6月27日
新作
無実の罪で投獄され殺された公爵令嬢は私です。今から復讐するから覚悟してくださいね。
公爵閣下!私の愛人になって下さい!〜没落令嬢の期間限定恋人契約〜
公爵閣下の溺愛花嫁~好色な王の側室になりたくないので国で一番強い公爵閣下に求婚したら、秒で溺愛生活がスタートしました~
王太子殿下に優しくしてたら公爵令嬢と婚約破棄をすると言い出したのでちょっと待ってほしい
初夜に「別にあなたに愛されたいなんて思っていない」と告げたところ、夫が豹変して怖い
裏切られ捨てられた竜騎士は天使な美少女に恋をする〜ねぇ、これって運命の恋だと思わない?〜
意地悪な大聖女の姉と美しいだけで役立たずの妹~本物の聖女は隣国で王太子殿下に溺愛されているというのは内緒~
ヘッダ
新着順① 総合評価②順 エッセイ③ 詩④ 異世界⑤ 貴族学園⑥ リリアナちゃん⑦ つよつよ短編⑧
フッダ


ヘッダ
わがまま

わがままはお好き?
― 新着の感想 ―
[一言] こうして理想の男は作られていく…(笑)
[良い点] え、めっちゃキュンキュンさせてもらいました。 エリーゼちゃんは、筋肉のついてる男の子が好みなのですね! 永遠にお幸せに〜っ(〃ω〃)
[良い点] 素敵な二人。いいなあ。きっとこの後は、初恋で結ばれるんだろうなあ。 かずにゃんのイラストも可愛い~♪ [一言] 七生も一度くらいは、恋愛短編書いてみたいなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ