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母のおかげで名探偵

作者: aqri

 ポキポキ、とラインの受信音がした。見ればお母さんからだ。


「ひとりクラシエ?」


 たぶん一人暮らしはどう? って送りたかったんだな。快適です、というスタンプを一個送ってゲームの続きをやる。

 五分後、またラインが来た。


「悟飯なに食べた」


 惜しい、ご飯ね。それ七つの玉を集めると願い叶えてくれる龍が出てくるやつのキャラだから。何でそんな予測変換が出たかと言うと世代だからだな。お父さんとのラインの名残かな。


「サラダとおにぎり」


 そう返し、やっていたゲームはちょっと止めた。たぶんこれラインが続くパターン入った。嘘でもいいから栄養バランス整ったやつにしとけばよかった、つい脊髄反射で正直に送っちゃった。


ポキポキ


「それだけ? 肉とかさかなくんぎょぎょーっ これはハコフグですね!」

「サラダチキンも入ってる」


 何返って来るか予想がつくから速攻送ったらかぶった。


「ふぐは食べてない、免許持ってないし」

「さかなくんぎょぎょーっ これはハコフグですね!」


 慌ててる慌ててる。返事が速攻だったから、魚って打とうとしたらさかなくんがでちゃった! って打とうとしてまたさかなくんになったなこれ。負のループ。

 長年ガラケーだったお母さんはスマホにした。理由は私が一人暮らしを始めたから。今時メールなんて使わないし、メールしても私が気づかずに放置するからすぐ見てくれるラインをやりたくて買い替えたらしい。

 それはいいんだけど、買い替えた時すでに私は家を出ていたわけで。教えてくれる人が身近にいなくて、四苦八苦しながら自力で頑張っている。ちなみにお父さんも同時にスマホにしたから夫婦二人で頑張ってるらしい。

 お父さんはフリック入力が苦手で……ガラケーみたいな入力設定できるの知らないらしい……文章打つのが面倒になったらしく、スタンプばっかり送って来る。


 お母さんはこんな感じで、体を心配したり何してるかといろいろ会話っぽいものをしたいらしく一言来るんだけど、悲しいかな。世の中のカーチャンと同じで、誤変換送信がやばい。

 ガラケーの時みたいな漢字の誤変換ならまだいい、声に出して読めばわかるから。いかんせん予測変換が優秀すぎて内容がカオスだ。特に早く返事しなきゃ! と謎の焦りがあるらしく、見直してから送ればいいのに文章打ったらそのまま送って来る。


「大学芋イケてんじゃんじゃんじゃじゃん!? フゥゥゥウウウ!!」


 ……。うん? ああ、大学? 大学行けてる? って言いたかったのか。イケてんじゃんじゃんじゃじゃん、って確かお笑い芸人の一発ギャグだっけか。誰に送ってるんだろうこのネタ、お父さんかな。


「まだzoom授業、ほとんど行ってない」


 その後数分待ったけど返事がない。たぶん大学行けてる? って頑張って入力してたら私が先に返事したもんで、慌てて消して今別の内容うってるとみた。


「ファーンファーンヒ~イザステーステ~ッ!」


「はあ?」


 思わず声が出た。何だこれ、何? zoomの授業の話からなんか謎の片仮名が出たんだけど。


「さすがにわからん、なにこれ?」


 正直にそう送ると少ししてから返事が来た。


「zoom、ってウトウト眠いzooまでうって ちゅーちゅーたこかいな」


 軽い頭痛を感じてため息をついた。つまり、あれだ。zoo、までうったらzooで予測変換が出て、チューチュートレインが出たわけだ。お母さんの世代はzooだっていってたっけそういえば。

 打とうと、がウトウト眠いになってちゅーの予測変換がたこかいなが出てきたわけでもうカオス。普段どんなラインやり取りしてんだ、お父さんと。

 お母さんの誤変換はわかりやすい時もあればこんな感じでわかりにくい。


「神と化してるからちょっと待って!」

「oh my god」

髪とかしてる最中だったらしい。まあこれはあるあるだ、有名な誤変換でもある。


「今日のお昼は力作!」

「何作ったの?」

「ピーターパン」

「カニバリズムはちょっと」

ピタパンか。


「緑黄色野菜も食べないと」

「例えば?」

「報連相」

「社会人の基本だね」

ほうれん草ねえ、おひたし以外思いつかないんだわこれが。


「そっちの婆さん便利だ死ね」

「怖いわ」

たぶんバス、かな。微妙に意味が通じる言葉になったのが生々しい。


「お父さんが心肺停止」

「は?」

「しんぱいしてた」

「マジでビビった」

しゃれにならん誤変換やめちくり。


「近所で空き巣が出てる」

「大丈夫? 戸締りちゃんとしてよ」

「ちゃんと絞めてるよ」

「お父さんを?」


これはわかりやすかったけど、その後の返事が


「そっちはまだ」


と返って来たのでお父さんには「何があったか知らないけどお母さんに謝っておいた方がいいよ、ケーキ買っていきなよ」と送っておいた。酔っぱらって帰って来て軽い喧嘩をしたらしい。

ちょいちょい物騒なのやめて、マジで。

 そんな日々を過ごし、ようやく大学に行ける日も増えて友達もできた。うちのお母さんがさあ、という話題で盛り上がり楽しく過ごしている。

 時間が経てばお母さんの誤変換も減って来て普通のラインとなっていく。ちょっと寂しいな、と思っているのは内緒。

 そんなある日、夜にラインが来た。


「タコライス」


 うん? これ何かの誤変換かな? この間タコライス美味しかったよって来たから、「た」で慌てて変換して送っちゃったんだろうな。

 慌てると内容確認しないで送る癖は相変わらずかあ。た、で何を慌ててたんだか……。

そこまで考えて、全身に寒気が走った。

 全力で走る。病院の中だけど気にしない、教えてもらった病室に一直線だった。思い切り病室のドアを開けると、ベッドに腰かけた母と顔色を真っ青にした父がいた。その近くには警察官が二人。

私を見て母の目からぶわっと涙があふれる。


「おかあさん!」


駆け寄るとお父さんがほっとした様子で話しかけてきた。


「大丈夫、怪我はないよ。腰が抜けちゃって動けなかったから念のため病院に来たけど問題ないってさ」

「お父さんが真っ青な顔してるからびびったじゃん」

「いや、これはお父さんも全力疾走したら運動不足がたたって気持ち悪くなってさっき吐いちゃっただけ」


 その言葉にふえ~っとその場で私も屈んだ。警察官が娘さんですか、と聞いてくるが半分も頭に入らない。


「長瀬さんの家に押し入った強盗はお母様を見つけることはありませんでしたので大丈夫ですよ。あなたが警察に連絡をしてくれたおかげで取り押さえることもできました」


 お母さんが泣きながらありがとう、ありがとうと言ってくる。よしよし、と背中をさすって安心させた。警察が申し訳なさそうに私達に話しかけてくる。


「一応、聞き取りをしている最中でしたので娘さんもお願いします。家に強盗が押し入り、お母様はクローゼットに隠れラインで助けを呼んだ、それがあなただった、間違いありませんか?」

「はい」


 どうぶつの林をプレイしていてインターホンを数回無視していたら、強盗が留守だと思い窓を割って侵入してきたらしい。慌ててクローゼットに隠れるも、かなり乱暴に辺りをひっくり返し始め怖くて声が出せなかったのだそうだ。

 音を出したら見つかってしまう。電話で助けが呼べないから警察も呼べない、私に助けを求めようとした。


「母からのメッセージで気づいて」


 言いながら私はスマホを見せる。その画面を見て、警察官二人とお父さんが全く同じタイミングで首を傾げた。


「タコライス」

「タコライス……」

「タコライス?」


不思議そうに三人が言う。そりゃそうだろうな。


「母は慌てると予測変換のまま送っちゃうんです。た、で始まる慌てる要素って何だろうって思ったらもう、“助けて”しかないかなって。強盗とか空き巣が増えてるって言ってたし、そんな状況で返信なんてしたら音が鳴っちゃうからまず警察に」


 私の言葉に三人とも目を真ん丸にした。お母さんは泣きながらあはは、と笑う。


「将来名探偵だな」


 お父さんの言葉に警察も小さく噴き出して笑う。とにかく、大変なことにならなくてよかった。

 全力で走る。病院の中だけど気にしない、教えてもらった病室に一直線だった。思い切り病室のドアを開けると、ベッドに腰かけた母と顔色を真っ青にした父がいた。その近くには警察官が二人。

私を見て母の目からぶわっと涙があふれる。


「おかあさん!」


駆け寄るとお父さんがほっとした様子で話しかけてきた。


「大丈夫、怪我はないよ。腰が抜けちゃって動けなかったから念のため病院に来たけど問題ないってさ」

「お父さんが真っ青な顔してるからびびったじゃん」

「いや、これはお父さんも全力疾走したら運動不足がたたって気持ち悪くなってさっき吐いちゃっただけ」


 その言葉にふえ~っとその場で私も屈んだ。警察官が娘さんですか、と聞いてくるが半分も頭に入らない。


「長瀬さんの家に押し入った強盗はお母様を見つけることはありませんでしたので大丈夫ですよ。あなたが警察に連絡をしてくれたおかげで取り押さえることもできました」


 お母さんが泣きながらありがとう、ありがとうと言ってくる。よしよし、と背中をさすって安心させた。警察が申し訳なさそうに私達に話しかけてくる。


「一応、聞き取りをしている最中でしたので娘さんもお願いします。家に強盗が押し入り、お母様はクローゼットに隠れラインで助けを呼んだ、それがあなただった、間違いありませんか?」

「はい」


 どうぶつの林をプレイしていてインターホンを数回無視していたら、強盗が留守だと思い窓を割って侵入してきたらしい。慌ててクローゼットに隠れるも、かなり乱暴に辺りをひっくり返し始め怖くて声が出せなかったのだそうだ。

 音を出したら見つかってしまう。電話で助けが呼べないから警察も呼べない、私に助けを求めようとした。


「母からのメッセージで気づいて」


 言いながら私はスマホを見せる。その画面を見て、警察官二人とお父さんが全く同じタイミングで首を傾げた。


「タコライス」

「タコライス……」

「タコライス?」


不思議そうに三人が言う。そりゃそうだろうな。


「母は慌てると予測変換のまま送っちゃうんです。た、で始まる慌てる要素って何だろうって思ったらもう、“助けて”しかないかなって。強盗とか空き巣が増えてるって言ってたし、そんな状況で返信なんてしたら音が鳴っちゃうからまず警察に」


 私の言葉に三人とも目を真ん丸にした。お母さんは泣きながらあはは、と笑う。


「将来名探偵だな」


 お父さんの言葉に警察も小さく噴き出して笑う。とにかく、大変なことにならなくてよかった。

 全力で走る。病院の中だけど気にしない、教えてもらった病室に一直線だった。思い切り病室のドアを開けると、ベッドに腰かけた母と顔色を真っ青にした父がいた。その近くには警察官が二人。

私を見て母の目からぶわっと涙があふれる。


「おかあさん!」


駆け寄るとお父さんがほっとした様子で話しかけてきた。


「大丈夫、怪我はないよ。腰が抜けちゃって動けなかったから念のため病院に来たけど問題ないってさ」

「お父さんが真っ青な顔してるからびびったじゃん」

「いや、これはお父さんも全力疾走したら運動不足がたたって気持ち悪くなってさっき吐いちゃっただけ」


 その言葉にふえ~っとその場で私も屈んだ。警察官が娘さんですか、と聞いてくるが半分も頭に入らない。


「長瀬さんの家に押し入った強盗はお母様を見つけることはありませんでしたので大丈夫ですよ。あなたが警察に連絡をしてくれたおかげで取り押さえることもできました」


 お母さんが泣きながらありがとう、ありがとうと言ってくる。よしよし、と背中をさすって安心させた。警察が申し訳なさそうに私達に話しかけてくる。


「一応、聞き取りをしている最中でしたので娘さんもお願いします。家に強盗が押し入り、お母様はクローゼットに隠れラインで助けを呼んだ、それがあなただった、間違いありませんか?」

「はい」


 どうぶつの林をプレイしていてインターホンを数回無視していたら、強盗が留守だと思い窓を割って侵入してきたらしい。慌ててクローゼットに隠れるも、かなり乱暴に辺りをひっくり返し始め怖くて声が出せなかったのだそうだ。

 音を出したら見つかってしまう。電話で助けが呼べないから警察も呼べない、私に助けを求めようとした。


「母からのメッセージで気づいて」


 言いながら私はスマホを見せる。その画面を見て、警察官二人とお父さんが全く同じタイミングで首を傾げた。


「タコライス」

「タコライス……」

「タコライス?」


不思議そうに三人が言う。そりゃそうだろうな。


「母は慌てると予測変換のまま送っちゃうんです。た、で始まる慌てる要素って何だろうって思ったらもう、“助けて”しかないかなって。強盗とか空き巣が増えてるって言ってたし、そんな状況で返信なんてしたら音が鳴っちゃうからまず警察に」


 私の言葉に三人とも目を真ん丸にした。お母さんは泣きながらあはは、と笑う。


「将来名探偵だな」


 お父さんの言葉に警察も小さく噴き出して笑う。とにかく、大変なことにならなくてよかった。





「では、セオリー通りになってしまいますが志望動機をお願いします。何故探偵事務所に入ろうと思ったのですか?」

「はい。自分では冷静な判断ができて機転が利くと思っています。複数の情報や周囲の感情に左右されず意思決定ができるので、どんな事態になっても調査続行ができます。自分の持ち味を生かした職業は興信所が一番だと思いました」

「それを証明できる具体的なエピソードはありますか?」

「はい。母からの暗号文を解くのが得意で」

「はあ……?」


面接をしてくれている人が不思議そうに聞き返してくる。私は小さく笑う。


「突然タコライスと送られてきて、母の命の危機を救った事があります」


END


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