4)子供たちの未来
「口のきけないものも、足が不自由なものも、目が見えない者も、私のところでは働いている。手が不自由なものもいたか。必要なことは仕事ができること、私に忠誠を誓ってくれることだ」
アレキサンダーの言う通り、仕事の能力と忠誠心を基準に選んでいたら、王太子宮には、様々な者がいる。
「ちゅうせいってなにを誓うの」
「私の命令をきちんと聞くこと、私を裏切らないことだ」
もうすぐ父親になるアレキサンダーが子供たちを相手にする様子を、ロバートは微笑ましく思いながら見ていた。
「王太子様、グレース様のいい人でしょ。グレース様は横領を解決してくれたもの。助けてくれた人を裏切るなんて、いい女のすることじゃないわ」
髪をかき上げながら、艶っぽく腰をくねらせ、ませたことを言うが、少女は少女だ。ローズは、この少女と同じ場所で育ったはずだ。なぜ、ローズは色気の欠片もないのかと、アレキサンダーとロバートは顔を見合わせた。
「あと、仲間と協力して仕事ができることも必要です。仲間と協力できないと、死んでしまいます」
影は決して単独で行動することはない。単独では、緊急時に任務の遂行が困難になる。
「俺達、仲良くできるよ」
「これから新しく会う人たちとも、仲良くしないといけないのですよ」
ロバートの言葉に、子供達の顔が曇った。
「俺達、仲良くしてもらえるかな」
子供の一人が気弱な発言をした。途端に場がしんと静まり返った。ロバートにとっては意外だった。ロバートが見てきた孤児院の子供達は、人懐こく明るかった。
「なぜですか」
「だって、俺達、町じゃ嫌われてるし、そこにいるだけで石投げられたりするんだ」
何人もの子供が頷いていた。
「私の料簡は相当狭いな。命を狙われはしたが、守ってくれる者も多くいた私は、相当恵まれていたのだろうな」
子供達の視線が、アレキサンダーに集まった。
「王太子様も大変なんだ」
「お前達も大変なようだが。それに私には、お前達の言うのっぽの兄ちゃんや、他にも守ってくれるものがいる」
「王太子様も強いの」
「どうかな。あの、のっぽの兄ちゃんの方が、強いのは事実だ」
「レオンの兄ちゃんとなら、どっちが強いの」
「あぁ、それは、レオンの方が強いだろう。あそこの兄にあったことはあるか?」
「アランの兄ちゃん?あのでっかい人」
「そう、あの男はな」
威勢の良い少年達と、アレキサンダーは意気投合しはじめてしまった。
「少なくとも、あなた方がこれから行くところでは、理由も無く石を投げつけられたりなどは、ありません。ただ、他の場所ではわかりません」
ロバートは話題をもとに戻した。
「リゼに言われてさ、顔とかきれいに拭いて、服をちゃんと繕ったりしたら、そういうことも減ったんだ。なんでかな」
アレキサンダーとの会話に興じていない子供達は、ロバートの会話に応じてくれた。
実際、孤児院の子供達は、最初にあったときのローズもそうだが、見すぼらしいが身綺麗ではあった。ローズの小さな手を初めてとったとき、清潔だと思ったことを覚えている。
「多分、きちんと洗って清潔なほうが、相手への印象が良いのではないでしょうか」
「じゃぁ、頑張る」
「うん」
ロバートなりに引き出した答えに、子供達は満足したらしかった。
「ねぇ。俺も、のっぽの兄ちゃんみたいに強くなれる」
「俺、兄ちゃんくらいのっぽになりたいんだけど」
子供達には、自分達の将来を、もっと真剣に考えて欲しい。ロバートは切に願った。