3)子供たちの事情
残酷描写あります。苦手な方は先へお進みください
「じゃあ、僕らはリゼの役に立てないの」
澄んだ声がした。澄んだ声の少年は片腕が手首から先がなく、その隣の少年は、台車のようなものに乗っていた。周りにいる他の子供達も、何か不自由なことがある様子だった。
「マイルズ、ルイスもだけど、お前らは無理だよ。逃げられないよ」
「忍び込んだりは出来ないよ」
周囲の少年達の言葉に、部屋の片隅に集まっていた子供達はうつむいてしまった。
「あの子達、物乞いだよ。みんな、歌はうまいよ。絵が上手いやつもいる。教会で歌ったりするんだ。でも、マイルズは手が片っぽだし、ルイスは足が両方とも動かない。他の子も、見てわからないかもしんないけど、いろいろあるんだ」
「生まれつきの子もいるけど、物乞いするためって、親があんなにした子もいるんだ」
子供達の言葉に、アレキサンダーとロバートは自らの耳を疑った。
「ミハダルでは、親が子の命を奪うとききますが」
南の隣国ミハダルでは、何らかの不自由があると、赤子のうちに殺されてしまう。彼らが信仰する神が、罪深い魂に罰を与えたからだと考えられているからだ。
「ライティーザではそのようなことはないと考えていたが、思い違いだったな。ミハダルを残酷だなどと言っている場合ではない」
ライティーザを建国した双子の王のうち、賢王のアレキサンダーは足が不自由だった。内政に優れた彼は、アレキサンダーが名を頂いた先祖だ。そのためか、ライティーザでは、神が人とは異なる贈り物をくださった証拠として、人との違いを体に刻むと考えられていた。それを親が子に無理やり施すなど、想像したこともなかった。
「哀れっぽく見える方が、物乞いができるって。珍しくないよ」
「歌って稼いでも、親が全部取っちゃうんだ。それで孤児院に逃げて来た子とか、リゼが可哀そうって連れて来た子もいるよ」
周囲の他の子供達も頷いた。
「僕はリゼの役に立ちたい。だって、リゼは僕が動ける方法考えてくれたんだ」
台車に乗るルイスの足は不自然に曲がっていた。
「逃げなくてもいい仕事もあります。歌ってみてください」
ロバートが促し、子供達が順番に歌った。
「いい声をしているな。他の子達とは少し違うが、リゼの役に立つ仕事はあるぞ。それでもよければ、一週間後にここに来い」
アレキサンダーの言葉に、子供たちが沸き立った。
「危険が無いとは言い切れません。しっかり考えて下さい」
ロバートは、何度言ったかわからない言葉を口にした。明るい子供達に、事態の深刻さが分かっているのかわからなかった。
「楽器も持ってきていい?リゼが考えてくれたんだ」
「えぇ、ぜひ。その方がよいでしょう。ただし、もう一度ゆっくり考えてから決めてください」
再三考えるようにと、繰り返すロバートの言葉に、マイルズが笑った。
「僕ね、リゼが大好きなんだ。だって、優しいことを言うだけじゃないから。ちゃんと、一生懸命考えて、助けてくれるから。僕でも使える楽器を考えてくれたんだよ」
ルイスは台車を器用に操りロバートの間近にきた。
「覚えてないと思うけど、あなたは、足がこんなになってる僕のことも、他の子みたいに肩車してくれた。だから、僕はあなたのことも覚えてる。僕らが、ちゃんとリゼやあなたの役に立てるって言ってくれて、僕らはとても嬉しい。ありがとう」
ルイスがロバートのことを覚えてくれていても、ロバートには全く心当たりがなかった。
「すみません。あなたは覚えていてくれているようですが、私はあなたに覚えがありません」
あの頃、孤児院に来るたびに子供達の遊び相手にさせられて大変だった。肩車をしてやった子供など、何人いたかわからない。身体が不自由そうな子がいた記憶はあるが、他の子達と一緒になって遊んでいたから、あまり気にならなかった。
「うん。僕の足、嫌がる人もいるのに、あなた、痛くないですかって聞いてくれただけだったもの。気にしてなさそうだったから、逆に覚えてもらえてなくてほっとした。ちょっと嬉しい」
「そうですか」
相変わらず思い出せないでいるロバートをみて、子供達は笑った。