2)子供たちへの説明
残酷描写あります。苦手な方は先へお進みください
「まて、一週間は考えろ」
アレキサンダーの合図で、ロバートはゆっくりとシャツを脱いだ。あらわになった上半身には複数の大きな傷があった。
「これくらいの怪我はします。私は助かりましたが、死んだ仲間も多いのです。2階から突き落とされたこともあります。追い詰められ、テラスから飛び降りたこともあります。毒で何日も意識がなかったこともあります。死にかけたのは全部合わせて、五、六回でしょうか」
「あぁ、うち三回は確実に死んだと思った」
ロバートの言葉に、アレキサンダーが続けた。
「え、だってのっぽの兄ちゃん、強いよな。見たよ、俺」
「俺も見た」
少年達の言葉にロバートは苦笑した。アレキサンダーも怪訝そうにしている。
「ローズと一緒にレオン様とここに連れてきていただく際、レオン様や部下の方と手合わせをする機会がありました」
ロバートは、少々羽目を外していたことを白状した。
「弱くはありません。特別に強いわけでもありませんから、私より剣がうまい大人はたくさんいますよ」
ロバートの謙遜に、今度はアレキサンダーが苦笑した。
「まぁまぁ強い。この男より強いものは確かにいる。だが、この男より弱いやつのほうがずっと多い」
「それって結構強いよな」
確認するような少年の言葉にロバートは答えなかった。ロバート達近習の腕前を侮る刺客の方が、万全の備えをしてくる者より仕留めやすいに決まっている。
「お前、少々羽目を外しすぎじゃないか」
アレキサンダーの言葉に、ロバートは肩をすくめるしかなかった。
「私も死にそうになりましたし、私より強くても死んだ者もいます。だから一週間きちんと考えてください」
子供たちがざわついた。
「リゼと一緒に悪いやつをやっつけたいのか、怖いからそんなことしないのか、だろ。そんなの決まってるよ」
先ほどから、アレキサンダーやロバートを相手に発言していた少年が、威勢の良いことを言った。
「殺されるかもしれません。嬲り殺されることもあります。目をえぐられたり、爪を剥がされたり、生きたまま火をつけられたりはすることもあります。ちゃんと考えて決めなさい」
実際、捕らえられた影が、無残な死体になって見つかることは少なくない。そのために全員が自殺用の毒を携帯している。ローズにとっては、同じ孤児院で育った大切な仲間だ。危険性を隠して、影になるよう強いることは避けたかった。子供であっても、捕らえられた影が辿る過酷な運命を知った上で、決断させてやりたいと、ロバートは考えていた。
「怖いなぁ。でも、だってさぁ、リゼ一人にそんな、危ない事させられないもんなぁ。弱いし」
「仲間連れてきてもいいんだよね。ここにいないやつでも」
子供たちは口口に勝手なことを言い始めた。
「一週間だ。一週間後にどう決めたのか聞きに来る。あと、ここにいなくても、そういうことをやりたい仲間がいるならつれてきていいぞ。ただし、ちゃんと考えるんだ」
「はぁい」
「なぁ、町の連中どうするよ」
「話付けなきゃな」
妙に明るい子供達に、アレキサンダーとロバートは顔を見合わせた。影の過酷さ、王家に仕える危険性を説明したつもりだが、子供達に伝わったのかわからなかった。