5)狩りの成果
ローズの部屋には立派な牡鹿の角が飾られるようになった。ロバートが、獲物の一つをやったものだ。ローズは喜んで受け取った。狩りの獲物として、貴重なものであり、手柄を象徴するものでもあり、本来、そう簡単に誰かにやるようなものではない。本来は一対だが、ローズの部屋には1本、もう1本はロバートがそのまま持っていた。
「喜んでくれるのはうれしいのですが」
ロバートはアレキサンダーに複雑な心境を吐露した。
「あの子なりに大切にしているな」
一対の角の、片方だけをローズに渡したロバートの心情を察したアレキサンダーは笑いを抑えるのに苦労していた。
「もうちょっとわかりやすいのを贈ってやらないと、わからないだろう。指輪は持っているだろう。あれに合わせた装身具はどうだ」
婚約をしたが、二人の関係はかわらない。せいぜいロバートの口づけをローズが受け入れるようになったくらいだ。
「装身具を受け取るでしょうか?グレース様がつけてくださっても、あの子は遠慮してばかりです」
アレキサンダーはとうとう、笑いを抑えることができなくなった。
「アレキサンダー様!」
「すまない。お前とこういう話をする日がくるとは思っていなかったからな。嬉しいよ。職人が来た時にでも、選んだらいい」
年に数回、装飾品の職人たちが王宮、王太子宮を訪れる。注文の品や、腕によりをかけた品をもって売り込みに来るのだ。
「あのようなものは、アレキサンダー様もご存じの通り、私には手が出ません」
「見るくらいいいだろう」
「あぁいう外からの者は危険です」
多数の職人と、その弟子たち、荷運びのものたちなど、多くの者が訪れる。警戒すべきだが、きらびやかな商品に目を奪われるものが多い。不審者が入り込んだ場合、気づくのが遅れる可能性があるため、護衛やロバート達近習は気が抜けない。
「残念だな。次来る職人は、婚約指輪を作った職人だ。いくつか頼んであるから、お前に選ばせようと思っていたのだが」
「それは」
「場所を考えよう。確かに、謁見の間では、お前も気を抜けないだろう」
「ありがとうございます。ですが、あのようなものは」
ロバートに購入できる金額ではないのだ。
「グレースと私からの婚約祝いだ。グレースは、危なっかしいローズだが、お前なら安心と、渋々ながら認めているしな」
「ありがとうございます」
ロバートは礼を言った。
「お前は気づいていないようだが、ローズはお前以外には、さほど笑わないし、手も取らせないし、隣に座らせることもない。まぁ、お前の鉄仮面に気づいていないローズと似たようなものだな、お前も」
ロバートは少し考えた。アレキサンダーにからかわれているのはわかるが、ローズがアレキサンダーの言葉通りであれば嬉しい。
「では、私は少しうぬぼれていいのでしょうか」
鉄仮面という二つ名からは想像もつかないような笑みをロバートは浮かべた。




