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3)森に住む親子

 森にいる彼らの領域にはいくが、往復の安全を保障すること。子供の目を治せるとは限らないことも了承すること。二つの条件を了承した男は、馬に乗る二人の前を歩いて案内していた。護衛が数人付き添っていても、男は落ち着いていた。

 男の案内で、森の中の抜け道をいくと、開けた場所があった。粗末な天幕から、人がロバート達一行をうかがっていた。


 ローズは、ロバートに外套で隠してもらいながら、馬に乗っていた。行くと言ったのはローズだ。怖いものは怖い。ロバートの胸に身を寄せ、耳を澄ますといつもより早いロバートの鼓動が聞こえた。ロバートは、片手で手綱を握り、もう片方の手はいつでも剣を抜けるように構えていた。


「ここだ」

天幕の一つの前で男が立ち止まった。中に入ると、男は子供の手を引いて出てきた。

「あら」

ロバートの外套の隙間から子供をみたローズは首を傾げた。失明するほどのことになったというより、単に眼脂と何かで目が開かないだけのように見えた。


「いつから目があかないの?」

「一週間ほどだ」

「お湯を沸かしてから、手を付けられるくらいまで冷ましたものを用意してくださる?」


ぬるま湯でローズが丹念に男の子の眼脂と周辺の塊を洗ってやった。ついでにあまりに汚い顔も全部洗ってやり、ハンカチで拭いてやった。まだ可愛らしい少年だった。

「目を開けてみて」

ローズに言われて男の子はようやく目をひらいた。

「父さま」

 男の子に飛びつかれた父親は、喜んで泣き出してしまった。周囲の天幕からも驚きの声が漏れていた。


 周囲が騒いでいる間に、また馬に乗せられたローズは、ロバートの外套に隠してもらった。これ以上、何か厄介ごとを頼まれても面倒だ。ロバートの外套に包み込んでもらったローズは、そっとロバートの胸に身を寄せた。相変わらずいつもよりロバートの鼓動は早い。彼らの領域と、ロバートは言った。敵地にいるようなものなのだ。

 一行は警戒したままだったが、男はひとしきり礼をいったあと、森の外まで案内してくれた。


「名を聞いておきたい」

森へ戻ろうとする男にロバートが声をかけた。

「名は捨てた。仕えていた主に罪を着せられ、仲間の多くは私を裏切った。いまさら何になる」

「冤罪か。ならば、晴らす術を」

「無駄だ」

「ダミアン男爵家に仕えていたな」

ロバートの言葉に、驚いたように男は顔をあげた。

「当たりか」

「さすがだな、王太子の鉄仮面。知られているならばしかたない。名はリチャード、あなたの言う通り男爵家に仕えていた。三年前に追放された。もう昔のことだ」

男はそのまま森へ消えていった。

 

 森から十分はなれた頃、ローズは、ロバートの外套の隙間から顔を出した。

「色々聞きたいわ」

「アレキサンダー様にご報告してからです」

「鉄仮面って何」

ロバートの言葉を無視して、ローズは続けた。

「好きでそう呼ばれているわけではありませんよ。私の陰口です。あまり表情を変えないので」

ロバートは嫌そうにしながらも答えてくれた。


「あなたが?」

 ローズの知るロバートは、無表情ではない。普通に笑ったりする。確かに、不審者を警戒しているとき、無表情で視線は鋭くて怖い。怖いが、頼りになりそうで、ローズはそういうロバートを見ているのも好きだった。


「みんな、よほどあなたに警戒されているのね。後ろめたいことでもあるのかしら」

ローズはいつもの通り、ロバートの胸に身を寄せた。馬の上だから均衡を保つのは難しいが、この姿勢が一番安心するのだ。

 同行していた者達の肩が震え、咳払いする者もいたが、ロバートが睨むと静かになった。


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