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1)狩猟

  貴族の狩猟は主に社交の場だ。訓練も兼ねているが、お抱えの配下の成果を競い合い、貴族の若い男女の見合いも兼ね、いろいろな側面がある。この時期、アレキサンダーもロバートも忙しい。国王陛下主催の狩猟会に参加するのは当然だが、他にも狩猟会はあるのだ。


 一度でいいから狩猟に連れて行ってくれという、ローズの頼みは後回しにされていた。ローズは、孤児でありながら、イサカの町での疫病対策、その後の復興では大きな功績を上げた。グレース王太子妃の名代として、王都内の様々な施設を慰問している。国王、王太子夫妻からの覚えめでたく、寵愛をいただいている。

 結果、一部の貴族は、ローズを妬み、嫌っていた。そんなローズを、人を殺傷可能な武器が大量にあるような場所にはつれていけない。誤射を言い訳に、腹いせに殺されかねない。そう言われるとローズも納得するしかなかった。


 少し落ち着いたら、王家専用の狩場があるから、連れて行ってやる、という約束は、狩猟時期の終わりごろにようやく果たされた。


 天幕を張り、ローズ等の留守番する者たちを残し、一行は狩りに出かける準備をしていた。

「楽しそうだな」

「今日は、狩りに専念できますから」

ロバートは答えた。

「まぁ、行ってこい。グレースもいないからな。私がはりきったところでしょうがない。お前たちの成果を待っているよ」

「アレキサンダー様」

「行ってこい。護衛が残るから心配するな。今年の狩りは何かとお前も気を使っていたからな。お前が二人分、獲物を取ってくればいいだけだ」

自分に気を使わずに、狩りに行けと暗に告げる主に、ロバートは礼を言って馬にまたがった。

「よく考えたら、ここで待って、狩りの様子をみているだけですか?」

ローズは不服をいうが仕方がない。

「あなたは、一人で馬に乗れません。狩り場の近くは危険です。それた矢が飛んでくることもある。あなたはここで待っていてください。ここなら護衛もいますので安心ですから」

不満げに見上げるローズの額に口づけ、ロバートは狩りの一行にくわわった。


丘の上の天幕からは、狩りの動きがよく見えた。勢子が追い込み、犬が走り、獲物を射手が射止めていく。

「わかるか。ロバートはいい腕をしているだろう」

射手たちが放った矢が獲物を射止めているのがわかる。ロバートの腕前が抜きんでているのは明らかだった。

「他の貴族がいるときは、相手の成果に合わせて、獲物の量を調節するから、ロバートも気を使う。好きなだけ狩りに専念させてやれるのが、ここで狩るときくらいだ。特に今年はイサカのことがあるから、あちこちの貴族が、妙に対抗心を燃やしてきた。ロバートも相当疲れたらしい」

「先週ですか?ロバートが疲れたと言っていました」

ローズの言葉にアレキサンダーは微笑んだ。

「ロバートが愚痴を言うとは珍しい」

余程ローズに気を許しているのだろう。

「ロバートも、よほど疲れたのでしょうか」

 ローズに気を許しているが故のロバートの愚痴だ。ローズは気づいていないらしい。


 警護しているはずの騎士達の肩が震えていた。アレキサンダーから見れば、アリアやジャック達小姓の死で人が変わってしまったロバートが、もとに戻っただけだ。王都に来てからのロバートだけを知る彼らから見れば、ロバートが別人のように見えるのだろう。

「気疲れだろうな」

気を許しているからだということは、ロバートが自分で言えばいい。ローズに振り回されているロバートが面白いから、教えないのではない。

「先週はダミアン男爵家との狩りだ。イサカの町の後任候補だったはずの次男が追い返された家だ。やたらと五月蠅い。彼らの勢子を使って、狩場で嫌がらせをしてきて、面倒だった。適当に獲物で花を持たせてやったら、おとなしくなった」

アレキサンダーの言葉にローズは首を傾げた。

「あの時は皆さま、ご自分で出て行ったのに、ご自分の都合がいいように報告されたのですね。それにしても、獲物で花を持たせるって何ですか」

アレキサンダーは、小さな秘密を一つ、ローズに教えてやることにした。

「何、相手に合わせて獲物を調節するのさ。相手に気づかれないように、獲物を回収することもある。他人の矢を集めておいて、いかにも矢の持ち主が仕留めたかのように、装うのに使ったりする。王家が使う勢子は、そういうのに慣れている。今まで、相手に知られたことはないはずだ」


 先日、レオン・アーライルは知っているようだとロバートから報告があった。アーライル家も愚かではない。不必要に口外することもないだろう。そのレオン・アーライルからは、一族だけで狩りをするときに、ロバートを貸して欲しいと言われている。一度くらいはいかせてやりたいが、グレースが身重の今年は無理だ。

「それは勢子も疲れますね」

「あぁ。だから、勢子達への獲物の分け前は弾んでやっている。普段は、他の貴族の獲物まで確認させているから忙しい。今日のように勢子に専念できるのもいいだろう」

出発の時の一同の高揚感は、それも理由だった。



王家の狩猟場の狩りです。この時の勢子は、パーカー達です。


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