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9)影の来訪1

「ロバートが本気でやっています」

突然執務室に走りこんできた近習の言葉に、ローズは首を傾げた。

「訓練場です」

それを聞いたアレキサンダーはローズの手をつかんだ。

「ついてこい。お前も見ておけ」

訳の分からないまま、アレキサンダーに引っ張られながら必死についていくと、すでに訓練場の壁に沿って人が並んでいた。アレキサンダーに手をつかまれたままのローズは、最前列に通された。


 ローズが初めて見る黒装束に身を包んだ二人が、手合わせ、というより殺し合いをしていた。お互いに全くひかない。剣が閃き、蹴りが放たれ、足払いがかけられる。倒されてもすぐ起き上がり、相手に攻撃を仕掛ける。常日頃、王太子宮の訓練場で見ているものとは違う戦いだった。二人の息遣い、風を切る剣の音、体のぶつかる音だけが聞こえてくる。ローズは思わず隣に立つアレキサンダーにしがみついた。


「黙ってみておけ」

 顔を隠していたが、一人はロバートだった。同じ格好で、よく似た体格の誰かと戦っていた。剣の打ち合い、体術の応酬が続いたが、お互いに全くひかない。微かに血臭が漂ってきた。二人は、訓練用の切れ味を落とした剣を使っているようだが、すでにお互いに体に数条の切り傷が入り、血がにじんでいた。互いに切り結び、離れた瞬間にアレキサンダーが叫んだ

「頃合いだ。終われ」


 その声に二人が止まり、ゆっくりと構えを解いた。二人は、互いに距離を取るように動き、ゆっくりと剣を鞘に戻す。

「殺気も収めろ」

肩で息をしている二人に、アレキサンダーが言った。ロバートはゆっくりと頭巾を外し、もう一人は外さないまま、アレキサンダーに礼をした。

「何事だ」

「そちらの少年に、とある協力の見返りに、無茶のない範囲でなら、願いを聞いてやる約束をしたのです」

ロバートはギルを見た。

「彼との手合わせが見たいと、お願いされました」


アレキサンダーは黒装束の男を見た。

「この少年が、ロバートがどのくらい強いのか知りたいといいましてね。私と手合わせしたらわかると言ってしまったものですから」

「それでわざわざ来て、この騒ぎか」

黒装束の男の言葉にアレキサンダーがため息をついた。

「アレキサンダー様、ローズを連れていらっしゃるとは、危ないではありませんか」

荒かった二人の呼吸だが、ロバートのほうが、先に平静に戻りつつあった。

「一度くらい、見せておいた方がいい。警護されるものは、警護するものの労苦を知るべきだ」

ローズもうなずいた。戦う二人は怖かったが、暗殺者はおそらく、この二人のような戦い方をするのだ。


「しかし、お前のほうが若いな、やはり」

「師匠には、まだまだ及ばず、不詳の弟子で申し訳ありません」

「もう少し来る回数を増やせ」

「修練がたりない自覚はありますが、なかなか」


訓練場の木製の長椅子に並んで腰かけた二人を、王太子宮のものたちが遠巻きに見ていた。

黒装束の男が、アレキサンダーの影からのぞいているローズをみた。

「師匠、この子がローズ、孤児院にいたころはリゼと呼ばれていた子です。ローズ、こちらの方は、影の一人と紹介させてください」

「初めまして。お嬢さん」

「初めまして、ロバートの師匠の影の方」

名前を教えてもらえなかった上に、相手も名前を呼びもしなかったので、それに合わせてローズも挨拶をしてみた。


「さすが、お前の婚約者だな」

影が笑いだした。ローズは何がおかしいのかわからない。

「師匠」

「いやいや、何というか、似ているな」

二人は、小姓たちが差し出した杯の水をのみ、先ほどの手合わせについて、何やら話し合いを始めてしまった。背が高い二人は、師匠と弟子という関係のためか、動作もよく似ていた。


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