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8)サンドラの未来

翌朝、サリーは懐かしい人と再会した。

「リゼ、あんた、きれいになって」

「きれいなサリーに褒めてもらえると嬉しいわ。無事でよかった」

抱き合って喜ぶ二人を、フレデリックは見ていた。


「サリー、大事なことがあるの。まず、あなたの本当の名前を教えてほしいの。ここでの名前になるから。あと、あなたのお家だった商家について、あなたが覚えていることを全部教えて。あなたが身売りされた時期に、借金でつぶれた商家が多いの。不正な借金でつぶされた可能性があるわ。そうであれば、あなたにお金が戻ってくるかもしれない」

「リゼ、そんな昔のこと」

「私は今はローズなの。ここに来てからずっとローズよ」

「じゃぁ、ローズ、そんなことして、あなたに何になるの」

「不正を暴くわ。悪いことをしてはいけないという証明をするのよ。騙した人が逃げおおせて、騙された人が泣き寝入りなんて許せないもの。悪いことをした人は、裁かれるのよ。私がここで、王太子様のお手伝いとしてやっていることの一つよ。書類とか調べて証明するの」


ローズと名前をかえたリゼの目は鋭かった。そういえば、昨日、目の鋭い人にあったことを思い出した。

「ローズ、そういえば、昨日の背の高い目つきの悪いロバートって人、あなたのいい人って聞いたけど」


一瞬でローズの顔が真っ赤になった。

「ギルが言ってたわよ。でどうなのよ」

赤くなったローズはうつむいてしまった。

「ほら、リゼ、じゃないわ、ローズ、どうなの。いいなさいよ。あんたと私の仲でしょう」


「婚約しているの」

ローズは恥ずかしそうに小さな声で言った。

「えー、で、どこまで」

「お出かけはほとんどしてないわ。私、孤児だから護衛をつけるのは難しいから、あんまりお外に出られないの。ロバートはアレキサンダー様のお側にいるし」

笑いをこらえきれなかったフレデリックを、サリーはにらんだ。

「あぁ、そうね、そうね。あなたはそういう子だったわ」

サリーは苦笑して、ローズを抱きしめた。


 後日、未許可年齢の売春をしていた売春宿は摘発され、廃業となった。サリーと呼ばれていたサンドラの、実家の商家に対して不正な利率で金を貸していた貸金業者も摘発された。貸金業者は多数の不正行為が明らかになり、賠償を課され、結局は廃業となった。サンドラは実家の財産の一部をとり返したが、王太子宮で働くことを選んだ。


「だってさ、あたしの身請けのために、フレデリックはずっと先の給金まで前借してくれたでしょ。王太子様は利息なしにしてくれた御恩があるわ。そのくらいちゃんと働かないと悪いしね。ここであたしが働けば、ちょっとはローズのためにもなるでしょ」

 娼婦だったサンドラの陰口を言う者もいた。商家で育ち、娼館という女の園で働いていたサンドラの方がはるかに上手だった。商売人の子であるサンドラの才覚が、王太子宮の各部署の経費削減に役立ち、評価されるようにもなった。


 ローズが孤児院で始めた刺繍の商売も、商家で育ったサリーの知恵をかりて発展したものだった。

「最初はね、ローズが、色町にくる客への贈り物にどうだって、うちの宿に売り込みに来たのよ。もうびっくりしたわ。あの時は」

刺繍をしながらサンドラは笑った。

「だってね、子供達だけで真昼間に、そんなのを持って色町に来るのよ。よく攫われて、売り飛ばされなかったわよね」

過去のこととはいえ、無謀な行動に、ローズはロバートにお小言をもらったのは言うまでもない。


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