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6)色町の女

 サリーは珍しい客を相手にしていた。背の高い、身なりのよい男だった。値段交渉もせず、取り持ち婆の言い値をあっさり支払ったという。宿の入り口で預けるはずの剣をなぜかそのまま携帯していた。

「ありゃ、色町を知らないね。慣れてない客だよ」

客引きもそういっていた。


「はじめまして。あなたが、サリーですか」

サリーを寝台に座らせ、男は椅子に座ったままだった。サリーが部屋に入るなり、性急に床に入ろうとする男たちとは違った。

「他に誰がいるっていうんだい」

見透かすような鋭い目がこちらを見ていた。

「私は、あなたの客の一人、フレデリック、そう名乗っているかは知りませんが、の知り合いです」

「フレデリックの」

ここしばらく、来ていない。通ってくれたのは、身請けしたいといってくれたのは、嘘だったのかのかもしれないと、覚悟し始めていたことだった。


「あんた、何しにきたの」

「彼は、あなたを身請けしたいようですので、それに関して、あなたにお聞きしたいことがあります」

フレデリックが来なくなってから、そんな話なんて怪しい。隠してある呼び鈴の紐を引こうとして息を飲んだ。紐はすでに切られていた。

「あなたに危害を加えるつもりはありません。ただ、こちらの質問に答えていただく前に、逃げていただいては困りますので」

男はそういって、立ち上がると、窓をあけた。


「サリー、この人、怖いけど、悪い人じゃないよ」

「ギル」

窓から首を突っ込んできたのは、見慣れた少年だった。

「私の見た目が怖いのは承知していますが、他の言い方はありませんか」

少年相手でも男は丁寧な態度を変えなかった。子供の失礼な態度に、怒った風もない。

「この人さ、リゼのいい人だから」

久しぶりに聞く、懐かしい名前だった。


「リゼ、元気なの」

「元気ですよ。時々、元気すぎて困ります」

 男の纏う雰囲気が、僅かに優しいものになった。

 リゼを知っている者がいいそうなことだった。男はリゼの相手にしては年が離れすぎているが、あのリゼだ。同年代では、リゼの相手などできないだろう。あのリゼが相手に選んだなら、冷たい印象だが、そうでもないらしいとも思えた。


「私がいきなり来ても、信頼していただけないとおもったので、この子に来てもらいました。まず、話は聞いていただけますか」

「あぁ、わかったよ。ギルは知り合いだし、リゼが選んだってなら、悪い男じゃないだろ」

窓の外にいるギルに、外を見張らせながら男はいった。

「フレデリックの覚悟はフレデリックの問題です。私はあなたにフレデリックに身請けされる覚悟があるか、聞きに来ただけです。まず一つ、彼に身請けされても、贅沢はできません。彼がいるところで、あなたのできる仕事を何かしてもらう必要があります。今のように春を売ることはありません。彼がいる場所は人手が足りません。楽はできないでしょう。さらに一つ、そもそも危険です。最後の一つは、あなたはもともと商家のご出身と聞きますが、ご実家のお名前も教えてください。彼とともに働くものとしては、あなたの身元をある程度把握する必要があります」


「兄ちゃん。いるかも」

男の目が鋭くなった。

「ギル、逃げなさい。サリー、お返事を聞きたかったのですが、どうやらその時間はないようですね」

「兄ちゃん、約束忘れんなよ」

ギルは窓の外から消えた。

「どういうことさ」

「私が見つかったようです。撒いてきたはずでしたが。私の主を殺したい人間は多いので、先に私を始末しようとする者がいます。個人的に恨みを買ってもいます。フレデリックから裏口から逃げられると聞いています。ご案内をお願いできますか」 


 落ち着き払った男は、淡々と物騒なことを口にした。それが日常だと感じさせる態度が、逆に恐ろしかった。

「あんた、あたしを置いていくの」

「私といたほうが危険です」

「さっきの条件、全部わかった。あんたの言うとおりにする。裏口教えてやるから連れて行ってよ。だいたいあんた、裏口から出ても、色町知らないんじゃ、逃げられないよ」

「確かにおっしゃる通りですね。ただ、何も持ち出せませんよ」

「いいさ」

「ではどうぞ」

サリーは男が差し出した手を取った。

「ところでさ、あんた、リゼのいい人っていうけど、幾つだよ」

「それは聞かないでください」

それまで余裕たっぷりだった男が、少しばつの悪そうな顔をした。


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