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3)記憶にない事件

 アレキサンダーの言う、三回のうち二回は、ロバート自身も、死を覚悟したから覚えはあった。一回目の毒を盛られた時のことは、忘れたくても忘れられない。仲間を誰も助けることができなかった。


 もう一回は、アレキサンダーがよけきれないと判断したから、刺客との間に割り込んだ。相打ちを覚悟したが、刺客の刃は脇腹を切っただけだった。脇腹の傷より、毒で苦しんだのをぼんやり覚えている。


 後一回は、死ぬほどのことだったのだろうか。テラスからアレキサンダーを抱えて飛び、地面にたたきつけられた。追ってくるであろう刺客に、着地点にされては助かるわけがない。必死でアレキサンダーを引きずり、移動したところまでは覚えているが、記憶はそこまでだ。


 気づいたときには清潔な寝台に寝かされ、医者が心配そうにこちらを見ていた。アレキサンダーが何度も見舞いにきてくれ、看病までしてくれた。

公務もあるのにと、大変申し訳なかったと思う。何があったかきいても、アレキサンダーは医者に言わなくていいといわれたと言って、教えてくれなかった。医者にはそのうち思い出すといわれた。結局、事件当日のことは、それ以上、何も思い出せずにいる。


 先日のアレキサンダーの様子に、自分が覚えていないことが、アレキサンダーに申し訳ないと思えてきた。

「ローズ、王宮図書館で調べたいことがあるので手伝っていただけますか」

王宮図書館への立ち入り許可だけでなく、すべての本を閲覧できる許可をローズはもっている。この許可を持ちうるのは、王族と国王に許可されたものだけだ。今、国王から許可されているのは、ローズただ一人だ。

「いいけど、どうして。あなたも入れるのに」

やはりローズは分かっていない。

「私はどなたかの護衛として、付き添いできるだけです。私一人では図書館に入る権利も資料を閲覧する権利もありません」

ロバートはアレキサンダーに付き添っているから、資料を自由に見ることができるだけだ。

「そうなの。ではいつなら一緒に行けるかしら」


 ローズを伴い過去の資料のある場所にいた。王族に関する資料を見る許可など、本来、王族以外に与えられることはない。あらためてローズがアルフレッドから桁外れの寵愛を得ていることを実感した。覚えていた日付の資料はすぐに見つかった。手続き上、閲覧するのはローズだ。二人並んで椅子に座った。


 まだ視察に慣れていないころだった。カイラー伯爵家の客間に泊まっていたとき襲われたのだ。調査対象となっていた貴族の館だった。文官として入り込んだ影たちが、貴族の私室、書斎、図書館に忍び込んでいた。近衛兵を多く配置し、客間の前も警備させたが甘かった。月が輝く夜、天井から降りてきた男たちに、襲われたのだ。


 資料は事実だけを記していた。王太子と近習の一人が同室だった。そこを深夜、刺客に襲われた。応戦したらしく、刺客二人は部屋で死んでいた。近習が、王太子を抱えてテラスから飛び降りた。王太子が近衛兵に知らせた。一度は王太子の身柄を確保したが、その王太子が、来た道を戻ったため、近衛兵たちは追いかけた。追いかけた先で、刺客が近習の首をつかみ吊るし上げていた。近衛兵たちをみた刺客達は逃げようとしたが、身柄を拘束した。近習は重症だった。刺客たちは、拷問にかけられ雇い主を吐いたのち、王太子の上申で国王の命により八つ裂きにされた。カイラー伯爵家と彼にそそのかされ王太子の暗殺計画に関わっていた貴族は、全員が極刑になった。


 あの襲撃事件に関する記録はそれだけだ。ほかは屋敷の見取り図と、取り潰しになった貴族達の記録が続いていた。重症だった近習がどうなったかなど記載はない。だが、その近習はロバート以外にあり得ない。


「これ、あなたなの」

ローズの言葉にうなずいた。

「アレキサンダー様が」

アレキサンダーが来た道をもどったから、近衛兵たちは追いかけた。本来、近衛兵たちは、アレキサンダーの身柄を確保したら、安全な場所におつれし、警護するべきだ。アレキサンダーもそうされるべきだ。近衛兵を連れてくるために、ロバートを助けるために、危険も顧みず、刺客がいる場所へ戻ったのだ。

「何という、危険なことを」

本来、王族としてあるまじき、避けるべき行為だ。たった一人の王太子としてはあってはならないことだ。

「あなたを助けに、戻ってくださったのね」

ローズの言葉に、ロバートは頷くことしかできなかった。



6月8日10時から幕間の投稿開始です。

アレキサンダーが思い出したくなくもない、ロバートがほとんど覚えていない事件のお話です。

アレキサンダーが王太子になった後のお話です。


本編が進んで行くので、作者基準ですがハイペースで予約投稿しております。お楽しみいただけましたら幸いです。


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